第3話 戦わない、戦えない
クモの妖を倒した次の日、私は神無月家へと向かっていた。
早退したくせに遅くなったことに関して、お父さんもお母さんも特に何も言わなかった。むしろ慰めてくれた。
クラスメイト達は心配しながら、それでいて腫れ物に触るように接してくる。
お母さんたちや友達の慰めの言葉で、嫌でもめぐみの死を実感する。
すると今までめぐみのかたきを討てて上がっていた気持ちがひどく落ち込む。
いつかそんなこともあったねと受け入れられる日も来るんだろうか。
そんなことを考えていたら神無月家へたどり着いた。
チャイムを鳴らし招かれて、家の中に入る。
その瞬間、バケツで水をかけられた。
「……新手のいじめ?」
「不意打ちじゃないと意味がないんだ。着替え用意してるからそれに着替えてくれ」
「スマホ防水じゃなかったらぶん殴ってたわよ」
私は更衣室に案内され、用意された着替えに着替えた。
―――
着替えた私はバイト部屋に入って彼方と話し始めた。
「おお、サイズぴったりみたいだな。よかったよかった」
「あんたこれうちの高校の制服じゃない。なんで女子の制服持ってんのよ」
「まあその辺も含めて話すよ」
先に水ぶっかけた意味を話してほしいが、まあ多分あとで話してくれるだろう。話してくれるよね?
「さて、昨日言ったように俺たち神無月家は妖関連の情報は基本的に民間人には明かさない」
「妖の強化につながってしまう可能性があるから、よね」
「ああ、だが妖の存在を明かして民間人に協力を要請することもある。これを俺たちは民間協力者と呼んでいる。その制服も民間協力者が業者に渡りをつけて譲り受けたものだ」
「昨日の私も民間協力者なのよね?」
「そうだ。昨日はあのクモの妖に目をつけられているという性質を利用して妖を退治する予定だった」
予定だった。昨日のあれは予想外ということだ。
「さて、早速だが本題だ。田中あさひ。お前の力は妖退治に新しい可能性をもたらすかもしれない。今後も民間協力者として協力してほしい」
これからも一緒に戦ってくれというお誘い。私は返事をする前に昨日の出来事を思い出した。
確かに私はあの不思議パワーで一方的に妖を倒せた。だけど、めぐみはあのクモの妖に殺されたんだ。
素手でガードしたからあの不思議パワーに気付いて戦えたけど、あの時カバンでガードしてたら?
その前のファーストコンタクトの時、彼方が助けてくれなかったらガードとかできず、妖の攻撃モロに受けたと思う。
そうなったら私は無事でいられたのだろうか。
そもそもあの不思議パワーは何が由来で、いつ消えるかわからない。もしも妖との戦いの途中で使えなくなったら、その時は……
「ごめん。ちょっと無理かも」
無我夢中だったり、恨みに取り憑かれてたり、力にあてられてハイになってたり。昨日の私はとても正気の状態じゃなかった。
正気になって、冷静になって思い返すと、恐ろしくて戦えるわけがない。私はタダの一般人Aだ。
「そうか、残念だ。お前の力があれば今後の妖の対策も変わったかもしれないんだがな」
私が戦えば誰かを助けることができるかもしれない。でもやっぱり怖い。
「……バイトはさ、続けててもいいかな?民間協力者は無理だけど、できることはやっときたいしさ」
「もちろんだ。前も言ったが慢性的に人手足りてないからな。事情知ってるやつなら辞めることもあんまりないだろうしそれはそれで助かる」
「この際だから言うけどあの怪しい案内やめた方がいいわよ。水飲まずにバックレまで行くかはともかく、あんなん逃げ出さないやつごく一部よ」
「詳しいこと言えないから仕方ないんだよ。代わりに給料高くして逃げないようにしてるんだがな」
「逆に怪しいっての。私は全部事情知ってるからもっと高くしてくれてもいいのよ」
「お断りだ。……思ったより元気そうだなお前」
「……言わないでよ。空元気の自覚あるんだから」
「……悪い」
「バイトはやるって言ったばかりで悪いけどさ。今日はもう帰っていい?なんかテンション下がっちゃった」
「ああ、構わないが、その、水は飲んで帰れよ」
「あ、そうだ、結局だけど、なんで水ぶっかけてきたの?」
「ああ、それは、お前が妖なんじゃないかって議題に上がってな。少なくとも妖じゃないみたいだ」
「ふーん」
私はそのまま聖水を飲んで帰った。正しいことだろうけど、水かけたこと謝ってほしかったな。




