第2話 月読尊
神社にお参りをした日の帰り道、小宮さんと鬼宮さんと橋花さんと一緒に帰っていた。
橋花さんはバイクを押している。
「嬢ちゃんたち誰かバイクの免許取る気はないのか?」
「ないですよ。というか全員高校生なんですが、高校生で取れるもんなんですか?」
「取れなきゃ彼方のやつ乗ってるわけねえだろ。同い年だろ」
まあそりゃそうか。
まず彼方が普段バイクに乗って出動してること自体最近知ったからあんまり結びついてなかった。
「鬼宮の嬢ちゃんの方はどうだ?」
「今のところは興味ないな」
「私もないかも」
鬼宮さんに続き、小宮さんも拒否する。
「そうか、やっぱ女の子はバイクあんまり興味ないか。いっつも二人でいるから、小宮の嬢ちゃん後ろに乗せて走ったら楽しいかと思ったんだがな」
「………………い、いや、まあ、完全に興味ないというわけでは」
「わかりやすいな嬢ちゃん」
そんなやり取りをしていると、目の前に和装の、刀を持った男が現れた。
その異様な雰囲気に私達は立ち止まる。
3カ月神無月家で過ごして、なんとなくわかるようになった。こいつは何かに取り憑かれているか、あるいは人間じゃない存在だ。
「田中あさひだな?」
「そうだけど、なに?」
男は私に声を掛けてくる。全員がそれぞれに動けるように準備をする。
「お前に恨みなどはないが、その命をもらい受ける」
その言葉を聞いた瞬間、私はその男が刀を抜くより前に男の胸を殴り抜ける。
並の妖ならばこれで消滅する。しかし
「怯えるのも無理はない。だが今の私にはこれ以外に方法はないのだ」
「効いていない……!?」
よほど強い妖なのか、よほど強固に結びついてしまっているのか、私の一撃ではびくともしない。
「さあ」
「くっ……!」
男が私に手を差し出す。
私はそれを払い除け飛び退き、小宮さんが男に聖水をかける。
「……これは、聖水か?あまり無駄にするな。妖退治に必要なのだろう」
まるで効いていない。意にも介さず男は私へと近付いてくる。
その間に鬼宮さんが入り、男に組み付く。
「む……これは、人の子にしては凄まじい怪力だ」
「あさひ、こいつの狙いはあなたみたい。今のうちに神無月家まで逃げて……!」
「で、でも……」
「早く!」
いつも無口な鬼宮さんが、声を荒げる。
橋花さんがバイクのエンジンをかけ、私を後ろに乗せる。
「行くぜ嬢ちゃん!鬼宮の嬢ちゃん達も無理はすんなよ!」
私と橋花さんは、鬼宮さん達を置いて神無月家へと向かうのだった。
―――
神無月家にたどり着き、私の橋花さんは神無月家へと転がり込む。
「彼方!彼方いないの!?」
「ん?どうしたあさひ。橋花も。忘れ物……って感じでもないな。何があったんだ」
私達の焦りようを見て、何かあったのだと彼方が察する。
「私を狙う妖が出て、神の力で殴っても効かなかったの!」
「今鬼宮の嬢ちゃん達が足止めしてる!早いとこ救援に行かないとまずい!」
「『太陽の手』が通じない……!?」
彼方が顔色を変える。
「橋花!弓道場で一ノ瀬を拾って現場に行って、鬼宮達の撤退を援護してくれ!」
「分かった!」
そう言って橋花さんは外へと向かい、私は彼方に神無月家の地下へと連れられた。
「彼方、ここは?」
「ターゲットとなった人物を保護するために作られた結界部屋。神無月家でも最高クラスの対妖のセキュリティルームだ」
「彼方……相手はそんなに強いの……?」
「……あさひ、前に話した通りお前の中には主神クラスとなる神が取り憑いている。相手はその攻撃を受けてもびくともしない相手だ。正直に言うと、この結界もどれほど持つかわからない」
神話クラスでもどうにかできない妖。
私はどうしてそんな物に目をつけられたんだろう。
「俺も刀を取ってくる。遥にもこっちに来てもらう。不安だろうがそこが一番安全だ。外に出るなよ」
そう言って、刀はふすまを開けて部屋の外へと出ていった。
私はふすまを閉めて、おびえながら待つことにした。
「邪魔するぞ」
彼方が出ていった少しあと、玄関の方から声が聞こえた。
物理的に聞こえるはずのない距離。つまり何らかの力で声を飛ばしている。
「そっちの方か」
気配の主がまっすぐにこちらに近付いてくる。
ありえない。そんなことはありえないと怯えていると、声の主は、和装の男はふすまを開け、結界の中へと入って来た。
「ここにいたか」
「お、鬼宮さん達は……?」
「お前の友人達ならば傷を付けぬよう振り解いた。安心しろ」
男は優しい顔でこちらに手を伸ばす。その瞬間だった。
銃声が聞こえ、男の身体を弾丸が貫通する。遥が男の背後から、いくつもの銃弾を浴びせたのだ。
それに続いて彼方が刀を使い、男の胴体を斬る。
しかしそれも無意味、貫通した弾丸のあとも、刀による切り傷も、一瞬のうちに塞がってしまう。
「貴様!何者だ!なぜあさひを狙う!」
彼方と遥が私と男の間に立ち、男に刀と拳銃を向ける。
「……神社に来ていた者たちか。神無月家の者たちよ。田中あさひの友人として刃を向けるのならば良い。しかし神に仕える家、神無月家の者として刃を向けているのならばやめておけ」
「名乗れって言ってるのよ!もう一発銃弾撃ち込まれたいの!」
遥の言葉に、男は厳かに口を開いた。
「……我が名はツクヨミ。月読尊。神の一柱として、田中あさひの中に封印されし我が姉、天照大神の身柄を解放しに来た者だ」




