第1話 カグツチ様へのお参り
神無月家を出て、私と彼方と遥は、地下鉄駅の近くにある標高70m程度の、小さな山を登っていた。
「彼方……あのさ……この上ってさ……」
「……バテたか?」
「情けないわね」
彼方と遥に容赦の無い言葉を投げかけられる。
仕方ないじゃん傾斜急な坂道なんだから。
でも今はそんなことはどうでもいい。
「この上、小さい神社しかなかったよね?あとちょっとしたお店……」
「その神社に行くんだよ。ほら、ここからはしばらく平坦な道だから」
「はあ……というかさ、何も徒歩で来ることないでしょうよこんな坂道。道も舗装されてるんだしさ」
「バイク3人乗りは無理だろ」
「あんたが来なかったら私と彼方でバイクで来る予定だったわよ」
「ああ、ごめんね遥。2人きりでデートするチャンス邪魔して」
「なっ!違っ!べ、別にそういうのじゃなくて!」
「着いたぞ二人とも」
遥をからかって遊んでいたら、その神社の駐車場にたどり着いた。
駐車場の奥には階段がある。まだ登るのか。
「彼方、一旦そこのお店で休憩しない?かき氷売ってるみたいだよ?」
「終わってからにしろ。行くぞ」
私の休憩の提案も虚しく、結局すぐに階段を登ることとなった。
鳥居をくぐり、手水で手を洗い、階段を登っていく。足がしんどい。
しばらく登るとようやく拝殿にたどり着いた。
ここは流守町と隣の町を一望できる観光スポットのひとつ。境内には結構人がいる。
こんなところでどんな儀式をするのだろうか。
「ほら、こっち来なさい」
「あ、うん」
遥に呼ばれ、私は彼方と遥と一緒に拝殿に拝む。
鈴を鳴らして、賽銭を入れて、二礼二拍手一礼。やっぱり神社に来たからにはこういう挨拶は大事なのだろう。
そしてそれが終わると彼方と遥は振り返り。
「よし、じゃあ帰るか」
「えっ!?」
「かき氷食べるんだっけ?私も食べようかしら」
「ちょ、ちょっと待って二人とも!これだけ!?」
「あさひ、境内で騒ぐな」
「ほかの参拝客の迷惑よ」
「ぐ、ぐぅ……」
2人のいうことは正しい。正しいけれども……!
「そのさ。もっと、なんかないの?怪しげな結界の中に貢ぎ物を捧げるみたいな」
「……今日はカグツチ様に挨拶しに来ただけだぞ。今度鍛冶をやるからお願いしますって」
「……カグツチって何の神様?ここにいるの?」
「祀ってる神様くらい知っときなさいよ。火の神様よ」
遥が呆れながら私に教えてくれる。
いや、知ってから拝んでる人そんな多くないと思う。
「いや、まあ、納得はしたけどさ。こんなとこまで来たんだからもう少しここで何か」
『見つけた』
「えっ……?」
誰かに声をかけられた気がして、振り返るが、そこには誰も居ない。
遠くで観光客が写真を撮っていた。あの人の声だろうか。
「どうかしたか?」
「あ、いや、なんか声かけられたような気がして。後ろに誰かいた?」
「いや?あの写真撮ってる観光客くらいだな。でもたぶん違うだろ?」
結構遠いし、彼方から見ても声をかけてきている様子はなかったようだ。
「妖だったりしない?」
「んー、まあありえなくはないが、神社だからなあ。神社とか教会とか、そういった場所に忍び込むやつはそういないぞ」
「うーん。そっかぁ……」
暑くて幻聴聞いたのだろうか。私はそんなことを考えてしまう。
「まあ、一応あとで神社の結界に不備がないか確認しておくさ。用がないなら帰るぞ。暑くてたまらん」
「おみくじ買ったり、写真とか撮って帰らないの?」
「撮りたきゃ勝手に撮れ。先かき氷屋行ってるからな」
「うん。じゃあまたあとで」
私は景色の写真をスマホに収め、おみくじを引いて、境内を一通り見て回った。おみくじは中吉だった。
あの観光客にそれとなく声をかけてみたけど、やっぱり私の聞いた声とは違った。
私は疑問に思いながらもかき氷屋へと向かった。
私がかき氷屋に着くと、2人はかき氷だけじゃなくあんこ餅も買って食べていた。




