幕間 『そういえばあれなに?』
一ノ瀬師匠に急な予定が入り、練習が休みになった日。
私は神無月家のバイト部屋で寝転んでだらだらとしていた。
「……起きなさいよあさひ」
「あ、遥。パンツ見えてる」
「っ……!」
遥がスカートを押さえてこちらを睨む。
今の私悪い?寝転んでる人の上にスカートで来る方が悪くない?
まあいいやせっかくだし煽ってやろ。
「いやいや、いいと思うよ白パンツ。ちょっと子供っぽいかなとも思うけど機能的だし」
「殺すわよ……!」
「あさひ、あんまりそういうこと言わないほうがいいぞ」
気が付いたら彼方がお菓子を持ってきていた。
遥の顔がみるみると赤くなっていく。
「いや、その、遥。彼方がいるとは気付かなくて」
「……そのさ、遥ならどんなパンツでも似合うと思うぞ」
遥の赤さは限界突破して、走り去ってしまった。
「……どうすればよかったんだろうな」
「何話してもアウトでしょ。お菓子持ったままUターンが正解じゃない」
珍しく対応を間違えた彼方に、私はそう言う。
「……ところでさ彼方。前から思ってたけど、あんた鈍感じゃないでしょ」
「……まあ、な。お前なら別に言ってもいいか」
めぐみの頃からなんとなく感じていた。私がこいつのこと嫌いな理由のひとつ。
こいつは鈍感なフリをして恋愛的な好意を避けている。
「遥の想い、気付いてないわけじゃないでしょ?いっそ振ってあげなさいよ」
「遥だって俺が気付いていることくらい、気付いてないわけないだろ。それでも何も言わず一緒にいるってことは、遥がそうしたいってことだ」
「……やっぱあんたのこと嫌いだわ」
おおかたの予想はつく。
神無月家の当主としての使命とかなんとか、そんなところだろう。
だが、それならそれでちゃんと切り捨てるべきだ。
遥みたいな娘が相手ならなおさら。
「背中から打ってこなきゃいくら嫌ってくれてもいいよ。お菓子、置いていくからな」
「あ、もうひとついい?」
「なんだ?お菓子の追加か?」
「そっちじゃない。私、昔遥とかドラキュラ伯爵に『太陽の手』って呼ばれてたんだけどさ、あれってどういう意味?」
「ああ、あれか。あれは神の力を持つものとして、適当に付けたコードネームだ。お前の名前から取った。多分ドラキュラ伯爵はコウモリを使って調べたんだろうな」
「私があさひだから?」
「お前があさひだから」
「ふーん。くだらね。もう行っていいよ」
「はいはい」
そうして彼方も出ていって、部屋の中には不機嫌な私一人残された。




