第5話 9点より下なら問題ない
バッターボックスに立ち、私はバットを構える。
ソフトボール部に入って今まで一度も立ったことのないバッターボックスに、私は立っている。
相手チームのピッチャーが投球し、きれいにストライクゾーンに入っていく。
しかしこれは……
「ボーッとするなあさひー!」
「振らなきゃ当たらないわよあさひー!」
彼方と遥が野次を飛ばしてくる。お前らの1打席目思い出してみろよこの野郎。
「田中さん!君なら見えるはずだ!」
一ノ瀬師匠の声と同時に、相手は球を放る。
私はそれに合わせてバットを振り、バットを当てる。
キィン!と高い音が鳴り、ボールが打ち上がる。
あいにく相手の守備がそれをキャッチして、出塁とはならなかった。
バットにどういう風に当てればいいのかはわからない。
だけど一ノ瀬師匠の言うとおり球自体は本当によく見える。
だって毎日見ている弓矢よりずっと大きくて、ずっと遅いんだもん。
―――
「ふぃー。打てなかったー」
私は小宮さんと交代してベンチに戻る。
「お疲れ。まあ、当たったわけだし何とかなるだろ」
「楽観的ねー。5回までに1点取れなきゃ負けなのよ」
「その時はその時で何とかするよ」
「……ねえ、彼方。聞いてた話の流れ的に勝ったらあいつら倒せるんでしょ?負けたらどうなるの?私たち死んだりする?」
「死にはしないだろうが、あいつらは強くなるだろうな」
「よかったら暇な間に教えてくんない?」
彼方は一息つき、今回の妖の概要を話し始めた。
「まず今回の妖は自然に発生したものじゃない。野球部が強くなりたいと強く望んだことで取り憑いた妖だ」
「うわーん打てなかったー!」
「宮っち、仇は取るから」
「お疲れ小宮さん」
小宮さんは空振り三振で帰ってきた。まあ正直そんな期待してない。
「聞けよ」
「聞いてるわよ。まず妖って強く望んだら取り憑くもんなの?」
「ああ、取り憑くぞ。人にでも物にでも取り憑くし、妖だけじゃなく神も取り憑く」
「ふーん。そんでなんで試合に勝ったら居なくなるの?」
「ああ、それは……」
その瞬間。ギィンという何かを殴ったような金属音が鳴り響く。
グラウンドを見ると鬼宮さんが悠々と走ってる。ホームラン打ったらしい。
「……とりあえず一旦コールド負けは避けれたな」
「まあ、そうね。それで勝ったら居なくなる理由は?」
「ああ、勝てる力を貸すためにいるやつらだから、負けたら消えてしまうんだ」
「そんな簡単に消えちゃうもんなの?」
「しっかり縁を結んだ相手ならなかなか消えないが、望まれたから来た段階なら縁も何もないからな。負けたら強くなるのも願いを叶えてもらって縁が強くなったからだな」
「縁ねえ……」
「あと縁ができる都合上一度取り憑いた相手には再度取り付きやすくなるから、一度取り憑いた人間には経過観察が」
「あ、橋花さん打ち取られちゃったみたいよ。守備行きましょ」
「聞けよ」
「聞いてるっての」
1対10。まだまだ絶望的だけど、鬼宮さんのおかげで道が繋がった。




