第4話 おい、野球しろよ
鬼宮さんがマウンドに立ち、投球が始まる。
鬼宮さんの投げた球は、私の目には見えず、気が付いたら打者が腕を抑えてうずくまっていた。
「き、君達!やっぱりわざとやっているだろう!」
「たしか審判からだったよな」
「落ち着け橋花。乱闘が始まってからだ」
審判の正当な怒りに対し、二塁の方で彼方と橋花さんが冷静に乱闘の準備をする。
しかし、事態はそう上手くはいかなかった。
「あ、き、気にしないでください。じゃあ、俺は出塁ってことでいいですよね」
相手の打者は私が守備する一塁まで歩いてきた。
乱闘は起きない。試合続行だ。
「た、タイム!」
彼方は慌ててタイムを出した。
「どうする彼方くん。相手は思ったより理性的だ。このままじゃ乱闘でボコボコにできない」
「彼方。このまま私がボールぶつけ続けて全員再起不能にするというのはどう?」
一ノ瀬師匠も鬼宮さんももう完全に悪役だよ。
「ダメだ。それをやったら審判に止められるし、彼らは取り憑かれてしまっただけで前途ある高校球児だ。必要以上に痛めつけるわけにはいかない」
彼方の口からようやく人の心のある言葉が出てきたと、少し安心する。
「いざとなったらボールぶつけた上でこっちから因縁つけてボコボコにする。だがそれは最終手段だ。とりあえずこの回は普通に打ち取りに行ってくれ」
と思ったらこれだ。
悪役でもやらねえよそれ。
結局鬼宮さんの投球数は1で終わり、ポジションは元の位置に戻って、遥が球を投げることになった。
ライトに屑鉄野が戻ってきてMIHARUさんは少し嬉しそうだった。
―――
一回裏の攻撃が終わった頃、私達のチームは0対10で負けていた。
遥の投球はきっと素人にしては頑張っているものだろう。
しかし相手が野球部となると話は変わってくる。何の脅威にもならない。ただのフリーバッティングとなる。
守備もまあボロボロ。外野は言うまでもなくスカスカだし、内野陣も私含め誰一人まともに動けない。
セカンドは二塁に入ればいいものの、ショートは何すればいいのか分からず橋花さんは辺りを見回すだけだった。ちなみに私もわからん。
そんなザル状態でなぜ10点で済んだのか。
それはひとえに5回時点で10点差でコールドゲームとなるからだ。
10点取ったら急にバットを振りすらしなくなった。
つまり私達は1点も取れないと思われているわけだ。
「やっぱり『わざと当たってんじゃねえのかてめぇ!』が最も自然か?」
まあ、そんなことどうでも良さそうだ。彼方は自然な因縁のつけ方を一生懸命に考えてる。
まあ、次私の打席だし行くか。
「じゃあ私行ってくるね」
「ああ、下手に打たずにさっさと帰ってこいよ」
「はいはい」
私がベンチから出ようとすると、そこに相手チームの選手が数人いた。
「……なんでしょうか」
「ひとつ言っておこうと思ってね。君達は乱闘を起こし、我々を退治しようとしている。しかし我々はそれに応じる気はない」
「えっ」
「たとえ我々に因縁をつけようと、我々は逃げる。そうすれば逃げている間に没収試合となり我々の勝ちだ。ゆえに我々は乱闘には応じない」
「審判の心証を利用しようってのか。卑劣なやつめ」
ベンチから彼方が出てきて悪態をつく。
いや卑劣なのどっちよこれ。
「我々を止めたければ正攻法以外ない。かかってきたまえ。野球でな」
「……あさひ、事情が変わった。この試合、勝つぞ」
……勝つ?
素人が集まって、メンバーが足りなくて、10点差ついてるこの試合で?
あまりに絶望的な状況に、私は苦笑いしながらバッターボックスへと向かうのだった。




