第9話 襲撃!ドラキュラ伯爵!
私達が運動場に出ると、そこには黒いマントに白い肌、まあ要するに見るからに吸血鬼という風貌の男がいた。
「はじめまして。私はドラキュラ伯爵。建物の中には入れないのでね。こうして出てきて貰ったわけだ」
「……そのドラキュラ伯爵が何のご用なんですか」
「おっと、あまり近づかないでくれたまえ。君の拳に触れれば私程度の妖一瞬で消し飛んでしまうだろうからね」
ドラキュラ伯爵は私を警戒し、空を飛んで距離をとる。
今この場には弓矢はない。私に攻撃手段はない。
多分遥も銃なんて学校には持ってきていないだろう。
あるのは精々御札や聖水だけ。
運動場にいるのは私たちを含めて20人程度。
18人の教師や生徒を守りながら、御札であいつを倒せるだろうか。
「あさひ。倒す必要はないわ。増援が来るまで守り通せば充分」
「そうとも。だが増援はいつ来る?1時間も2時間も耐えてみるかね?」
「まさか……!」
遥はスマホを出して画面をつける。
そこには彼方と遥のツーショットが、いや、そこはどうでもいい。
そこには圏外の文字が出ていた。
……ツーショットをホーム画面て。
「君達がやっていたのと同じように、結界を張らせてもらったよ。外に出なくては連絡は取れない」
「……何が目的なの」
「『太陽の手』と呼ばれる小娘の処刑だよ。厄介な相手のようだからね。彼らはその人質とさせてもらった」
「卑劣な手を……!」
ドラキュラ伯爵はフフフとだけ笑い、コウモリをこちらに向けて飛ばしてきた。
突撃してきたコウモリの妖は、私の身体に触れた瞬間神の力により消滅する。
大量のコウモリをぶつけられるが、私はびくともしない。
遥も御札を使ってどうにか耐えている。
いつまで持つのかわからないけど、これで耐えて、彼方達が異変に気付くのを待つしかない。
「……あさひ、多分そう簡単にはいかない。妖の悪意は、そんな軽いものじゃない」
「え……?」
私の考えを読むように、遥はそう言った。
そしてその予想通り、ドラキュラ伯爵は動く。
「そうだな。こうやって眷属達をぶつけ続けるだけというのはいささか飽きるというものだ!」
「うわああああ!!」
「きゃああああ!!」
ドラキュラ伯爵は人質に向かって、優子達に向かってコウモリを差し向ける。
私は慌てて間に入り、コウモリを消した。
「おお、よくぞ間に合ったな。では次はどこから飛ばそうか」
ドラキュラ伯爵は私を揺さぶって遊ぶようにコウモリを飛ばし続ける。
神の力はあっても、私自身はただの女子高生。どんどんと、息が切れていく。
「さあさあ、耐えてみせろよ『太陽の手』!」
「あ、あさひ……私のせいで……」
優子が泣きそうな顔でこちらを見てくる。
殺させるわけには……
「ボンヤリしていてはいかんなあ!」
ドラキュラ伯爵の笑い声が聞こえる。ダメだ届かない。そう思った瞬間。御札が飛んできて、人質を守る。
「はぁ……はぁ……こっち、忘れてくれてはいないか」
遥もまた、息も絶え絶えで立っていた。
「あさひ、それからあんた達。今から作戦を伝えるわ」
「作戦があるの……!?」
私は縋るような気持ちで遥の作戦を聞く。
「あさひ、あんたは逃げなさい」
「な、何を言ってるの」
「フフフ、そうだぞ神無月家の女よ。『太陽の手』が逃げれば彼らを守るものは」
「私がいるわ」
遥は力強くそう言った。
「私がいるって言ったって……!」
遥もボロボロで、今にも倒れてしまいそうだ。
「なら、私が残るから!」
「はー、あんたやっぱりド素人ね。あいつが守れるギリギリでコウモリ飛ばしてたの、気付いてないんだ」
「守れるギリギリで……?」
「そう、殺しちゃ人質にならないからね。疲労させるためにね」
「グッ、黙れ貴様!」
ドラキュラ伯爵が遥に叫ぶ。今までの余裕な態度は崩れている。それが遥の言葉の正しさを証明していた。
「あんたが拳で守るよりも、私が御札使って守った方が守れる。あんたが行って連絡して帰ってくる、短い時間ならね」
「ふざけるな!私がそのようなことさせると思っているのか!」
「あーひとつ訂正。あそこのあいつが直接襲ってきたらどうしようもないからさ。校舎の中までは護衛お願いできる?あいつ建物の中には入ってこれないらしいからさ」
「くっ……いや待て『太陽の手』よ。優子という女はお前の友人なのだろう?遥は結界を破り、私を呼び込んだ女を本当に守ると思うか?」
私はドラキュラ伯爵の言葉に固まる。
確かに、遥は優子のことを最悪抹殺すると言っていた。
私は今までの遥のことを思い返す。
遥は……遥は今までずっと妖退治のプロとして動いてきた。
初めて会った海坊主の時も、学校でのキャラ作りも、私への対応も、いじめへの対応も。
「遥!優子は抹殺対象?」
「まだ違うわね。このあとの上の判断次第だけど、今は保護対象よ」
「ヨシ!なら任せた!」
「くっクソぉぉぉ!」
ドラキュラ伯爵の叫び声を受けながら、私は遥と18人の人質を校舎まで護衛し、学校の外へと走った。




