第7話 転入生、春瀬遥
海坊主の作戦の翌日。
どれだけ落ち込もうと、日常は来る。
私が壊しかけ、私が守った日常。その一部である学校に来ていた。
「あさひー。なんか元気ないけど大丈夫?」
友人の優子が、私に声をかけてくる。
落ち込んでいても、それを外に出すわけにはいかない。
「なんでもないよ!昨日は台風凄かったねー」
私は優子に明るく笑い返す。
台風……海坊主……クソっ、自分で振った世間話が自分の地雷を踏み抜いていく。
それでも優子と談笑していると、先生が教室に入ってきた。そして、もう1人。
「はーい、お前らー。静かにー。今日は転校生が来ているからなー」
「……!」
出てしまいそうになる声を飲み込む。
昨日と違い、髪は解かれストレートになり、雰囲気はとても優しいというか、おとなしいというか、おしとやかなものになっていたが、その人は昨日出会い、助けてくれた人物。春瀬遥だった。
「……春瀬遥です。よろしくお願いしますね、皆さん」
整った顔立ちと、清楚な雰囲気に、クラスの男子がざわつく。
「休み時間か放課後に誰か学校の中案内してやってくれるかー」
先生の言葉に男子たちが反応して、女子はそんな男子たちを軽蔑したような声を出す。
「なんだ男ばっかりだな。女子はいないのかー。お、田中。やってくれるか」
私は、案内役に立候補していた。
「……先生、よろしければあそこの2人にも一緒に」
「えっ、私?」
「おー、いいぞー。好きなの連れてけー」
遥が指定したのは、小宮さんと鬼宮さん。民間協力者の二人だ。
こうして昼休み、私たちは簡易ミーティングをすることになった。
昼休み、体育館裏。
学内を案内するという名目で私、小宮さん、鬼宮さんの3人は遥と一緒に人の来ない場所に来ていた。
「さて、あさひ。小宮と鬼宮も。言っておきたいことがあるわ」
「うぇっ!?な、なに?なんかさっきとイメージ違うけど」
清楚な状態から、昨日見た遥に雰囲気が変わり、遥の変貌ぶりに小宮さんが驚きの声をあげる。
「……そうね。先に軽く自己紹介しておきましょう。私は春瀬遥。神無月家の人間。民間協力者じゃなくてプロの人間よ。よろしく」
遥がそう言って、全員がしばらく沈黙する。
「どうしたの?自己紹介しないの?」
あ、私たちも?
「えっと、田中あさひです。民間協力者です。よろしくお願いします」
「あ、やっぱりあさっちも民間協力者だったんだ!私は演劇部所属の小宮花梨だよ!私も民間協力者!よろしくね!ほら宮っちも挨拶して」
「鬼宮柚子だ。よろしく頼む」
「あ、あさっち……?」
私は小宮さんの呼ぶあだ名に困惑する。
しかしそんな様子も無視して遥は話を進めた。
「自己紹介は終わったわね。じゃあ本題。私はあんた達と仲良くするつもりはないから。学校では話し掛けないでね」
遥の冷たい態度が、私の心をえぐる。仲良くする気はない。それだけのことを私はした。だけど
「その、私はともかく、小宮さんと鬼宮さんとは仲良くしてもいいんじゃないかなと」
「は?」
遥の冷たい視線が、私を貫く。
「いやその、昨日のあれは私の独断だったんで、小宮さん達には関係ないかと」
「……ああ、あれのことね。別に気にしちゃいないわよ。今後指示に従うならそれ以上は責める気はないわ」
遥は頭を掻きながら、バツの悪そうにそう言った。
責める気はない?嫌いだから仲良くする気はないと言ってるわけではないのか?
「あさっち、はるっち。昨日のあれって?」
「は、はるっち……?昨日の作戦で海坊主が進路を変えたでしょ。あれがこいつのせいってことよ。最終的にこいつの力が覚醒して倒せたからいいものの」
遥があだ名に困惑しながら、小宮さんの質問に答える。
「なるほどな。下手をすれば宮っちにも被害が及んだと思えば、私は到底許す気にはなれないな」
鬼宮さんの鋭い瞳がこちらを向く。返す言葉もない。
「えー、でも作戦通りに行ったら町の一部が壊れてたんでしょ?結果的にそれを防いでくれたなら嬉しいかな」
「宮っちの言うとおりだ。感謝こそすれど責めるいわれなどない」
小宮さんの言葉を聞いた鬼宮さんの鋭い瞳が遥の方へと向く。一瞬で手のひら返したぞこの女。
「う、だから責める気はないって言ってるでしょ」
「じゃあ、結局どうして仲良くする気はないの?」
「無駄だからよ。私はプロとしてここにいるの。情報の共有なら神無月家で充分よ。学校にいる間は、情報収集に勤しむべきなの」
ふと、私の頭に出会ったばかりのうさんくさい爽やかさの彼方が思い浮かぶ。もしかしてあのおしとやかな雰囲気って。
「あの猫かぶりって、情報収集のためなの?」
「そうよ。このクラスは男の民間協力者がいないから、男の子と交流できそうな性格にしてみたの」
悪気も無いけど凄いことを言う。
「それじゃあ、私は学校に張ってある結界の点検をしてから教室に帰るわ」
私と小宮さんが唖然としてると、遥はおしとやかに歩いて去っていった。
そして、その反対側から優子が覗いていることには誰も気付かなかった。




