第6話 考えなしの末路
海坊主の両腕を吹き飛ばし、優位に立つ。
海坊主の両腕は目に見える速度で少しずつ回復しているが、関係ない。
「さあ!かかってきなさい!」
私は海坊主に向けて啖呵を切る。
私には神の力がある。戦って負けるはずがない。
しかし、海坊主の言葉は私の想像の外のものだった。
「に、逃げなきゃ……」
「えっ」
海坊主はその巨大な足を私を避けるように出し、町に向かって駆け出す。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
私は海坊主を追いかけるが、私は妖相手以外だと普通の女子高生だ。
一方相手は40mはありそうな巨体。体格差がありすぎる。追いつけない。
戦う直前の、彼方の言葉が頭をよぎる。
『強さの問題じゃない!直接戦えば勝てるかもしれないが』
どうして、どうして私は海坊主が『戦ってくれる』なんて勘違いをしてしまったんだ。
自分より強いものが来たとき、そんなものに襲われた時『逃げ出してしまう』なんて、私が一番わかっていたことじゃないか。
必死で追いかける私の耳に、絶望を告げる通信が入る。
『総員!海坊主が進路を変えた!作戦は失敗だ!ここからは各自、自らの判断で戦え!繰り返す!作戦は失敗だ!各自……』
私のせいで作戦が失敗する。町の一部を犠牲にすれば助かった人達が死ぬ。
私はせめてもの抵抗ができないかと弓矢を持つが、無理だ。届かない。
距離が詰められないと、足止めができないと。
足止めできるルートからは私が外してしまった。
「誰か……!」
自らの愚かさに押し潰されそうになり、居もしない誰かに助けを求めた時だった。
雷のような、爆発のような音が鳴り、海坊主がよろめく。
海坊主の前には、ゴツいライフルを構えるスレンダーな立ち姿のポニーテールの女の子がいた。
その女の子はそのライフルを使い、海坊主に弾丸を撃ち込む。
弾丸を撃ち込まれた海坊主はさらによろめく。
なんだかわからないけど、誰だかわからないけど、今の私にはそんなことを考える余裕はなかった。
射程範囲内。走りながら矢を番え、弓を引く。
そして
「いけぇぇぇぇぇ!」
必死さのせいか、なにか条件があったのか、私の中の神の力は矢に乗り、海坊主を貫いた。
私の矢で貫かれた海坊主は、光となって消えた。
ライフルの女の子はこちらへと歩いてくる。
「あ、えっと、ありがとうございました!」
お礼をいう私を無視して、私の通信機を取り、スピーカーにして彼方と話始めた。
「彼方ぁ。事前に聞いてた作戦とだいぶ違うんだけど。どういうこと?」
『その声、遥なのか?帰ってきてたのか』
「再会の話はあと。どういうことなの彼方」
『……俺があさひを止められなかった。俺の責任だ』
彼方は私のせいとは言わず自分の責任とした。私の心は締め付けられるような感覚がした。
「ふぅん。ま、いいわ。ところで、『太陽の手』は弓矢に神の力を乗せられるなんて報告なかったんだけど。最近できるようになったの?」
『え?いや、そんなことはないはずだが』
「……そう。じゃあまたあとでね」
遥と呼ばれた女の子は、通信機の電源を切りこちらを睨む。
「土壇場で能力が覚醒して、結果オーライだから何も問題ないと思ってる?」
「それは、その……」
「……あんたが力に覚醒しなかったら?私が偶然ここに通りがからなかったら?あんたの勝手な行動で素直に避難した人が、何人死んだと思う?」
「……!」
「指示に従えないなら前線になんか出てくるなド素人!」
遥は私に怒ると、通信機を押し付けてそのまま続ける。
「じゃあね。二度と会わないことを祈ってるわ」
私はそれだけ言われても、何も言い返す気にはなれなかった。
神の力を手に入れ、調子に乗り、住人たちを危険にさらした。
私は自分の浅慮を反省しながら、とぼとぼと神無月家に帰るのだった。
―――
「幼馴染の遥だ。ほら遥、挨拶しろ」
「……チッ。春瀬遥よ。よろしく」
神無月家に着くと、遥が髪型をツインテールに変えてそこにいた。
まあ、そりゃ二人とも神無月家に行ったんだから会うよね。




