幕間『ヒカリちゃんマッサージ所』
ちょっといいことがあった時、学校やバイトで嫌なことがあった時、なんだったら何もない時だって、私はなにかと理由をつけてヒカリの家に遊びに来るようになっていた。
私がちょくちょく来ていることを差し引いても、蕎麦は結構なペースで消費されていっている。
絶対三食蕎麦食べてるでしょヒカリ。
頂いてばかりだと悪いのでスーパーで買った食材を差し入れしたりすると、毎回とても喜んでくれる。
とてもかわいくて癒やされるのだが、蕎麦以外の栄養状態がこの差し入れに託されていると思うと、蕎麦が無くなるまでは気が抜けない。
まあそんなわけなんで当然、師匠の鬼トレーニングで筋肉痛になっていたころも、ヒカリの家に来ていた。
「うえええヒカリぃぃぃ、つらいいい、キツいいいい」
ヒカリの蕎麦と私の持ってきた魚を食べたあとのヒカリの家。
筋肉痛に苛まれ、私は子供のようにぐずっていた。
「ふふふ、あさひちゃん、そんなに痛いの?」
ヒカリは私と違っていつもと変わらず穏やかだ。
「うん、すごく痛い。借りてばっかりもなんだしゴム弓自分で買ったんだけど、家で練習する余裕ない」
私はカバンから自前のゴム弓を取り出してヒカリに見せる。
家で自分でフォーム気にしながらやるよりは疲れ果てるまで師匠の指導を受けたほうが効率はいいのだろう。
それでもせっかく買ったのになあという気持ちはぬぐえない。
ヒカリは興味津々にゴム弓を受け取り、引っ張り始め……
「離しちゃダメだからね!ゆっくり戻してね!」
「えっ!う、うん。わかった」
危なかった。悲劇の再生産は防げた。
「えーん。いたーい」
バシーンと音が鳴り、ヒカリの腕にゴムが当たる。
なんで離した。
私はヒカリの腕をさすって涙目のヒカリを慰める。
「よしよし、痛かったね」
「ありがとう……あ、そうだ。私もあさひちゃんにマッサージしてあげるね!」
「えっ、ちょっと」
私は寝室に連れて行かれ、あれよあれよとベッドに寝かされる。
マッサージするの?この天然娘が?この筋肉痛でバキバキの背中に?
…………処刑じゃない?
「ヒカリ、そういうのはいいから」
「いいからいいから。力抜いてくださいね〜」
すでにヒカリは私の腕と肩に手を置いている。終わりだ。
「んぎっ!」
ヒカリが私の肩を動かし、私は軽い痛みを感じる。
「この辺かー。よーし」
ヒカリは私の背中の肩甲骨のあたり、一番痛いところに手を置き、揉み始めた。
ヒカリの優しい手が私の背中に痛みを与え……その痛みが妙に心地よかった。
「あ、あれ?なんか……気持ちいい……」
「マッサージのバイトもしたことあるからねー」
なんだ、そうだったのか。
「もう少し下の方もマッサージするね」
ヒカリは少し下がった脇腹のあたりをマッサージし始めた。
緊張が解けたのと、マッサージの痛気持ちよさと、溶け始めた疲労のせいで私のまぶたはまどろみ始めた。
「ひあり、あいがとう。もういいかりゃ」
まずい、ろれつもまわらなくなってきてる。
かんがえも、気持ちいいことにしか意識がむかない。
「ちょっとぶるぶるしますね〜」
「んおっ……」
せなかを小刻みにゆらされて、きもちよくて、そこでわたしのいしきは……
「次は腕のほうを……あれ?寝ちゃった……お疲れさまあさひちゃん」
―――
翌日、私が起きるとヒカリが隣で寝ていた。
家に帰ると連絡なしで朝帰りしたことをお母さんにめちゃくちゃ怒られた。
そしてそれ以来、私は遊びに行く度にお母さんに連絡して、ヒカリのマッサージの餌食となっている。




