第3話 コウモリを射貫け
重たい荷物を持って廃工場に向かい走る。
近付けば近付くほどに、コウモリの姿が増えていく。
なるほどこれはわかりやすい。このコウモリ達が一番多い場所がボス個体のいる場所ということだ。
私が息を切らしながら廃工場にたどり着くと、そこには彼方と一ノ瀬くんがいた。
「ぜぇ……はぁ……彼方、足速い」
「お疲れ様田中さん。スタミナもつけたほうがいいかな?」
一ノ瀬くんが私の方を見て練習メニューを追加しそうな顔をしている。勘弁して。
「彼方、この荷物これ何入ってんの?」
「刀と御札と聖水だ。お前も持っとけよ」
彼方は開いたカバンの中から御札と聖水を取り出して私と一ノ瀬くんに渡してくる。御札はなんだかグニャグニャとした複雑な文字が書いてあって、何書いてあるかわからなかった。
「御札って、私がバイトで書いてるやつじゃないんだ。多分あれも御札でしょ」
「あれは別の用途に貯めてある。素人が書いたやつは上にも下にもパワーが安定しないからな。さて、と」
彼方が刀を持ち、金属の扉に向き直る。
「一ノ瀬、あさひ。扉を開けてくれ」
「はいはい。わかったわよ」
私は右の扉、一ノ瀬くんは左の扉に手をかけ、お互い重たい金属の扉を引っ張る。まだ筋肉痛なんだけどなあ。
そして彼方は飛び出てきた2、3体を切り、さらに構える。
「彼方。中にどんくらい……うわっキモっ!」
中ではとても数えていられない。おびただしい量のコウモリがところ狭しと飛び交っていた。
「彼方くん。悪いけどここからだと届きそうにないよ」
「ああ、神無月家で準備して何とかするしかないな」
彼方と一ノ瀬くんの視線の先を見ると、廃工場の奥の方。入り組んだ場所に、一際大きなコウモリが休んでいた。
「よし、一ノ瀬、あさひ。閉じてくれ」
彼方がそう言うと一ノ瀬くんは扉を……閉じてくれ?今閉じてくれって言った?
「彼方、もしかしてこれ放置して帰るの?」
「ああ、今の装備じゃどうにもできない。明日の夕方には……あさひ、何を!」
「一ノ瀬くん!弓矢借りるね!」
「田中さん!?」
私は一ノ瀬くんから弓矢をひったくり、コウモリが飛び交う廃工場の中へと飛び込んでいった。
明日になったら強く、賢くなってしまう。
そうなる前に、今倒す。私ならできるはずだ。
廃工場の中へと入った私を排除するために、コウモリの妖は突撃してくる。
しかし私にダメージはなく、私の周りの膜のようなものに触れて、逆にコウモリが消滅していく。
思った通りだ。
あの日クモの妖を倒した時、クモの一撃でクモの脚のほうが折れた。
私にはこの程度の妖の攻撃、通じないんだ。
この力が突然消えたりしたらと思うと怖いけど、それでも今は。
「彼方!行けるわ!このままあのデカいやつ倒してくる!」
「何言ってんだ!戻ってこい!」
私は工場内の階段を駆け上がり、同じ高さの踊り場までたどり着く。
私は呼吸を整え、脚を開いて、重心を整える。
足踏みと胴造り。昨日一ノ瀬くんから教わったものだ。
一ノ瀬くんは、いや、一ノ瀬師匠は99%役に立たないと言っていた。
だけど、今の私なら逆だ。99%役に立たせることができる。
矢を持ち、弓に番え、左斜め上に弓を持ち上げ、開く。打起こしって言ってたっけな。
師匠の弓は固かったが、頑張って開く。筋肉痛だなんて言ってられない。しっかりと狙いを定めるんだ。
そして……そして……
…………
昨日練習したのがゴム弓だから矢を飛ばす『離れ』の練習してないことに気付く。
「し、師匠!師匠!離れってどうやるんですか師匠!」
先程までの落ち着いた覚悟が消え、私は廃工場の外にいる師匠に大声で教えを請う。
「あいつ何やってんだ……」
「田中さん!姿勢は崩さず!右手の力を抜いて胸を開くんだ!今の君ならそれで矢が飛ぶ!」
彼方が呆れ、師匠がアドバイスをくれる。
でも矢が飛ぶって言っても当たらなければ意味がない。とてもじゃないが当てる自信は
「田中さん!実戦は大会と違って過酷なことばかりだけど!大会と違って当たるまで何度だって射っていいんだ!考えすぎないで、外したら次の矢を射れ!」
私はその言葉に落ち着きを取り戻し、しっかりとボスコウモリを見定めて……盛大に外した。
「あー!外したぁ!」
「田中さん!次を!」
私は今度こそと矢を手に持つ。
「キキィィィィ!」
その瞬間、怒ったボスコウモリが甲高い声をあげながら、こちらに向かって突撃してきた。
ラッキーだ、これなら。
「オラァ!」
番えようと持った矢を地面に落とし、飛んでくるボスコウモリにカウンターを叩き込む。
ボスコウモリの体は一撃でボロボロになり、呆気なく光へと消えた。
そして知性を失ったコウモリ達は私に向かい襲いかかってきて、全部消滅した。
私は落とした矢を拾い、階段を降りる。
彼方と師匠が廃工場に入ってきて、こちらに向かってくる。
入り口にいたから多少はあっちに行ったはずなのに無傷。やっぱり強いのか彼方。
「どうよ!バイト代上げてくれてもいいわよ彼方!」
「バカ言うな。放っておいても明日には片付いてたことを今日無理やり片付けただけだろ」
私がドヤ顔で言うと、彼方は特に感動した様子もなく淡々と返す。
まあ薄々とは感じていたけど、そんなに急ぐ必要はなかったのだろう。
でもいつ暴れ出すかわからない相手、間違ったことは……
「あの、彼方、町中にいたコウモリ達は……?」
「各地で神無月家が対処してるよ。まあそれに関しては明日駆除しても同じだから気にすんな」
彼方が私の考えを見抜いて言葉を付け足す。
自分が勝手に倒したせいで被害が拡大したとあっては立ち直れないところだった。
やって貰っててなんだが、この見透かすような態度はやっぱり気に入らない。
「じゃあ田中さん。事件も解決したし、これから練習に戻ろうか」
「え……」
師匠が笑顔でそう言い、私は青ざめる。
彼方に助けを求めるが、彼方は笑ってこう言った。
「明日身体検査だから、そこそこにな」
「うん。わかった」
「嫌……嫌ぁぁぁぁ……!」
彼方に見捨てられ、私は後ろ襟を掴まれて絶望の中へと連行されるのだった。
――この時、私は考えてもいなかった。
「ふむ、一番厄介なのは神無月家ではなくあの小娘かもしれんな」
あのボスコウモリ自体が、もっと知能の高い妖に操られているものかもしれないなどとは。




