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だがいきなり書家として活動するわけではない。入ったらまずは千尋に基礎を再度徹底的に指導される、そして鷹虎の目に留まれば彼の指導が受けられる。だが鷹虎は滅多に門下生を取らない。それでも千尋に稽古をつけてもらえただけでも書家としては拍がつく。千尋の指導で教室をやめていく者も多い.

皆、師範資格は持っているので「辞める」というより、己の才能の限界を感じて「卒業」すると言った方が近い。

話はいろいろ聞いているが、藤乃は千尋に稽古をつけてもらって一年だ。鷹虎には挨拶低度しかしたことがないので実際のところはわからない。

またこの本家には不思議なうわさがあった。北条家の人間は不思議な力を持つ、と。

「先生、そんな話で呼んだんじゃないでしょう」

「君たちね、線が基本的に硬いんだよ。恋愛したら線が柔らかくなると思うんだよねぇ」

軽薄そうな話し方。間延びして、どこまでが本気かわからない。

「俺も藤乃ちゃんも、そんなつもりありませんから。すみませんが、俺は指導の時間なので」

叔父のこの手の冗談に慣れているらしい千尋は、気にした風もなく客間を出て行った。

藤乃と鷹虎二人きり。正座には慣れているけれど、どこか居心地が悪い。

母屋の客間は事務的な話をするのに何度かお邪魔したことはあるけれど、対応してくれたのは千尋だった。

「さて……千尋もいなくなったことだし」

鷹虎が藤乃ににじり寄る。

藤乃は思わず足を崩して鷹虎から距離を取った。

「せ、先生!」

「うん?」

「ち、近い、です」

「君さ、ここで僕に気に入られたら僕の教室に入れるとか思わないの?」

おかしそうに笑いながらもその目は真面目だ。

「思わないし、先生はそんな方じゃないって信じてます」

「それはそれは、過大評価だよ」

鷹虎は至極楽しそうだ。立ち上がって藤乃から離れると、テーブルの下に用意されていた色紙を取り出した。

「君、雅号まだなかったよね」

「はい」

なぜ今雅号なのか藤乃の頭が追い付かない。

「千尋先生にもまだ何も言われていませんし……」

「何か希望はある?」

鷹虎は思案するように瞼を閉じた。まつげが長い。


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