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険しきを冒す者たち  作者: 村松 柊榎
第二章︰絶海の遺跡群
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第22話︰魔導船の攻防

~ウォータ海底遺跡群調査隊基地行き輸送船~



「ふふふ……」


巨大な鉄の船、その甲板の上に、1人の男が黒い髪を海の風にたなびかせ、その灰色の瞳を鈍く輝かせながら不気味な笑みを浮かべている。


「ふふふっ、ふはははははっ!見よ、これが人智の力!人の知恵は遂に、海上にて逃れられぬ必然の揺れにさえ打ち勝ったのだ!」


高笑いと共にマントを“バサッ”とやりながら両手を広げ、声高々に船酔いへの勝利宣言をするのであった。


「別にアンタの手柄でも無いでしょうに、なんでこんなにも誇らしげなのかしら……。」


桃色の髪の女が、呆れた顔で呟く。


「ほんっとうに揺れねぇんだな!マスターほどじゃねぇが、オレも正直あんまり船は得意じゃねぇんだけどよぉ、この船なら何ともないぜ!」

「長い航路だって聞いていたから心配だったけど、これならノアルさんも平気だね。」


赤髪の少年と銀髪の少女が、それぞれ黒髪の男に話しかけている。


ノアル・フェブリエ、シズク・カンナヅキ、ミラ・アプリール、それとアイザック・ディセンバー、だったか。


偶然か、運命か、あんな辺鄙(へんぴ)な場所へ向かう船で、奴らの顔を見ることになるとはな。


「つまらねぇ依頼だと思ってたが、存外楽しいことになる、かもな。……っ!」


気付かれた、かもしれない。

金髪の、全身鎧を着た小柄な男が、一瞬こちらを見た。


何食わぬ顔で、その場を後にする。恐らく目線を察しただけだろう、このまま何もしなければ、奴は俺の事など忘れるはずだ。


アレス・ゼプテンバル、フュージアではあまり目立ってなかったが、奴もかなりの強者だな。


フードを深く被り直しながら、心の中で獰猛に笑った。


“おもしれェ”、と。



~4日後~



「うっ、ぐ、おえ゛ぇ……」


真っ青な顔をしながら、木桶を抱えてうずくまる男が、少女に背中をさすられている。


「『癒しの光(ヒーリングライト)』っ、大丈夫……じゃなさそうだよね。うん、もう少し頑張って、この嵐を抜ければ、昨日までと同じように揺れないと思うから、ね。」


言葉を紡ごうとすると、たちまち声の代わりに胃の中身が出てきそうなのだろう、軽く頷き返事をする。


そう、嵐だ。この海域特有の、魔力性の嵐。突発的に発生するため回避は難しいらしく、通常の船であればすぐに沈みそうな嵐にこの船は巻き込まれたのだ。


当然、いくらサンブック製の高度な魔導技術が組み込まれた魔導船とはいえ、この嵐であればそれなり以上に揺れ、人類の叡智にあぐらをかいていたノアルはあえなくダウンした。


「う、オレもこれだけ揺れりゃあちょいと気持ち悪ぃな。なぁアレス、この嵐ってどんくらい続くんだ?」

「場合による、としか言えないかな。運がいいと次の瞬間にでも収まるし、運が悪いと基地の結界に入るまで続くかもな。」


そう。アイクに答えた通り、魔力性の嵐はとてつもなく不規則な動きをする。唯一、明確に収まるタイミングがあるとすれば、嵐の核となっている魔力を破壊する事だが。


カーンカーンカーン、と突如鐘の音が船内に響き渡る。


「魔獣だ!デカい魔獣が出たぞ!砲手は急いで砲台に向かえ!」


船員のそんな声が聞こえてきた。


「砲台って、アレを使うのか?!」

「っ!冗談じゃないわよ!あんなのを使うってなら、出たのはクラーケンとかそのレベルの魔獣よ!あぁサイアクだわ、アンタたち、なんってツイていないのかしら!」


嫌な事実に気付いて、シズクが酔ったノアルと同じくらい顔を真っ青にする。


「……俺らの、せい、かよっ………!うぅっ。」

「ノアルさん、無理に喋らないで。」


こういうトラブルで一番喜びそうな男はこの調子である。


クラーケン級の魔獣か。十中八九、この嵐の原因だな。


「僕は少し彼らを手伝ってくるよ。ミラは、ノアルを見てるだろうし、アイクとシズクはどうする?」

「もちろんオレも行くぜ!あの大砲を撃ってるところも気になるしな!」

「ウチはそんなの御免よ!そもそもウチの刀、遠距離攻撃とか出来ないから!海の中から船を攻撃してくる魔獣となんて戦えないわよ!…………でも、アレスがどうしてもって言うなら……着いていってあげても、いいわよ?」


彼女の自己申告通り、確かに船の防衛にはあまり役には立たないだろう。


「それじゃあアイク、行こうか。」

「おうよ!」

「っ!待ちなさい、やっぱりウチも行くわよ!待ちなさいってば!」


結局シズクも着いてくるようで、僕たちは3人で甲板へ向かうことになった。



~甲板~



「冒険者、アレスだ。階級は高名位、こっちは仲間のアイザックとシズク、それぞれ上級位だ。助力はいるかい?」

「おぉ、冒険者さんか、助かるよ。全員剣士か、なら砲台と砲手の護衛を頼みたい。」

「分かった。」


甲板で船員たちの指揮を執っている男に言われるがまま、僕は前方、アイクとシズクは後方の砲台の護衛に向かう。


「前砲台、擬似属性弾頭・地砕VIII(アハト・エアデ)、全弾装填完了!」

「後砲台、同じく装填完了だ!」


魔道兵器によって、砲手たちの声が甲板に響く。


「よおし、目標“船喰い鮫(シンカーシャーク)”っ!よーく狙え、アレとてこのレベルの魔導兵器が当たればただでは済むまい!」


船長らしき男の声が何処かから聞こえて来るのと同時、砲身が動き、ひとつの方向を捉える。


そこには、その名の通り、小型船であればひと噛みで破壊できそうな程のサイズの鮫が、船の速度に合わせるように泳いでいた。


「撃てぇっ!」


ドゴォーーンッ、と重い爆発音と共に、船の前後にそれぞれ取り付けられた三連砲から、計6発の弾が撃ち出される。そして。


着弾と同時、弾頭の魔力が爆ぜ、歪な結晶のように全方位に伸びる石の柱を形成した。


「シ゛ャ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ」


船喰い鮫(シンカーシャーク)に太い石柱が何本も突き刺さり、血を流しながら海に沈んでいく。


「まだだっ!魔力の反応が消えていないぞ!……っ、突っ込んでくる、総員衝撃に備えろ!」


船長らしき声に、咄嗟に剣を甲板に突き刺し、握りしめる。直後、


凄まじい衝撃と共に、船がひっくり返る直前、というくらいまで横に傾いた。


甲板の左側が海面すれすれまで下がり、そこから大波が押し寄せる。


「なるほど、砲台の護衛ってそういう事か。」


波に乗じて、甲板にアレと比べれば小さめな、それでも人の頭くらいは簡単に喰いちぎれそうな鮫が乗り込んできた。


「“人喰い鮫(キラーシャーク)”が乗り込んできたぞ!気をつけろ!」


海で最もよく見る魔獣、「人喰い鮫(キラーシャーク)」。

なるほど奴らは鮫どうしで眷属のような関係らしい。

人喰い鮫のうち3体が、こちらの砲台へ突進してくる。ヒレを器用に使って甲板上でも移動できるようだ。


「来いっ!《誘響剣(レイジベイション)》」


砲台から少し距離をとって《誘響剣(レイジベイション)》を発動、鮫どもがこちらに狙いを変えて突っ込んでくる。


「ぐっ、《剣撃(スラッシュ)》っ!」


魔力で限界まで防御した左腕に1体をわざと噛みつかせ、そのまま右手の剣で1体の鮫の頭を斬り飛ばす。


「たぁっ!」


左手に噛み付いた鮫を、そのまま3体目の鮫に向けて叩きつける。


激突した2体の鮫は、胴体がひしゃげて動かなくなった。


「っ、流石にこのやり方は痛いよな。あぁ歯の痕も残ってる、想像より顎が強かったみたいだね。」


後ろの砲門は、アイクとシズクの2人なら問題ないだろう。だが、


「あのデカブツ、まだ動けそうだな。あと何発撃ち込んだら倒せるんだか。」

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