第23話︰船喰い鮫
第15話~第19話のタイトルを「伝承の在処」「合理の槍と心の剣」「伝承の力の一端」「スターバースト」「デート・イン・フュージア」に変更しました。
何度目かの、大きな衝撃と揺れが船を襲う。
普通の船であれば、とっくに沈没していてもおかしくないほどだ。
ノアルさんがこの船を絶賛していたのが今ならよく理解出来る。
「なぁ、ミラ。」
「大丈夫だよ、アレスさん達が行ってくれたから。」
「……そう、だな。」
どーん、と再び船に大きな衝撃が走る。
“第II障壁完全に破壊された!そっちは諦めて第IIIと第IVの修復を急げ!”
“乗り込んできた人喰い鮫の数が多い!砲台の方は冒険者さんが護ってる、お前らは船内部への通路を護れ!非戦闘員がいる場所へ絶対に向かわせるな!”
…………。
「なぁ。あと3日で到着、だったよな。回復魔法は、明日以降無くてもいい。」
「っ、ノアルさん!」
「だから、1発、なるべく強力なやつを頼む。それで、数分は動けるだろうさ。」
あぁ、やっぱりこの人は、こういう時、自分が行かずにはいられないんだ。
「頼むよ。」
そして、やっぱり私は、この人のお願いには、弱いらしい。
本当は、行って欲しくない。
こんな時くらい、ずっと私に甘えて、膝の上でこのまま休んでいればいいんだ。
ノアルさんばかり頑張らなくても、きっと誰かが何とかしてくれる。
でもきっと、私を救ったときみたいに、この人は誰かを助けずにはいられない。
なら、せめて。
「……うん。」
右手に、ゆっくりと、ありったけの魔力を込める。
ノアルさんの言った通り、あとの事は考えない。魔力切れを考慮せず、全力で魔力を使う。
右手は、普段のそれより、いっそ輝きの強い、それでいて暖かい光を纏いはじめる。
その右手で、そっとノアルさんの額に触れる。
「『真・癒しの光』」
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大きな波に乗って、またも鮫がたくさん乗り込んでくる。
「あぁもう、何なのよこの鮫ども!どれだけ斬っても全然減らないじゃない!」
向かってくる鮫のうち、距離の近い二体に向かって駆ける。同時に剣に魔力を込める。通常の《剣撃》よりも強固に、一撃で剥がれ落ちないように丁寧に。
「たあっ!《連剣撃》っ!」
振り下ろす刃で一体、そのまま返す刃でもう一体、連続の《剣撃》で両断する。
「アイク、そっちは任せた!」
「おうよ!『火球』っ!」
アイクが火属性魔法を放ち、甲板の端に近かった一体を衝撃で船外へ吹き飛ばす。
「そして《剣撃》っ!」
『火球』を撃った直後を狙った鮫の一体を《剣撃》で斬り裂く。
「っしゃあ、まだまだ来い……っどぁあ!またデカ鮫の突進か?!」
アイクが勢いのまま次の鮫へ攻撃を仕掛けようとするが、その直前に再び船が大きく揺れる。さっきまで戦っていた鮫は船から滑り落ち、代わりの鮫が波と共に乗り込んでくる。
さっきからこれの繰り返しだ。数が減らない。
「今だぁ、三連砲、撃てぇっ!」
先程から聞こえてくる甲板上の船員に指示を飛ばす声に従う形で、前後の三連砲が轟く。
タイミングは完璧で、突進後のデカ鮫に再び石柱が突き刺さる。
あれが着弾する度、少しずつあの鮫の動きは悪くなっていってる印象がある。このまま行けば、船より先にあちらが動きを停めるはずだ。
勝てる。
そう思った、その時だ。
ヤツの放つ魔力が、ここからでも感じられるほどに跳ね上がる。
「総員警戒っ!対象の表面魔力が爆発的に上昇している、“何か”が来るぞ!」
そんな声が聞こえる頃には、既にその“何か”が目に映っていた。
跳んだ。
鮫が、跳んだ。
纏った魔力を回転させ、スクリューのような推進力を作り出し、その勢いのまま水面から飛び出した。
破壊的な魔力を纏って鮫が突っ込む先は、
「っ、まずいわ、砲台を狙ってる!」
船の旋回など間に合うはずがない。砲台をひとつ失えば、火力は大幅に下がり、ヤツへの対処は一気にキツくなる。でも、あんなの防ぎようがない。
せめてアレスが護ってるほうの前砲台なら防ぎようもあったけど、ウチとアイクじゃ、あれは……
「止められないっ!」
そう思った、その瞬間。
暗雲に覆われた暗い嵐の海で異様なほどに輝く、極太の光の槍が、デカ鮫の脳天を真横から貫いた。
本体の意識の消失によって、鮫の纏っていた魔力は発散し、ただのデカい鮫の衝突となったことにより、後砲台は多少凹む程度の被害で済み、鮫はそのまま力を失ったように甲板から海へ転がり落ちていった。
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「対処“船喰い鮫”の生命魔力反応、完全消失!繰り返す、“船喰い鮫”の生命魔力反応、完全消失っ!!俺たちの勝利だ!」
船長の声に続くように、甲板や船内の至る所から声が上がる。喜び、安堵、様々な感情で思い思いに皆が叫んでいる。
そんな様子を、高台から静かに観ている男がいる。
背負った大剣にかけていた手を離し、風で外れかけていたフードを深く被りなおす。
「なんだ、俺の出る幕は無かったか。ま、それならその方がいいよな。あまり俺が目立つ訳にはいかねェし。」
誰にも気付かれないまま、その男は船内へと帰っていく。
「それにしても、さっきのは《終穿撃》か?随分とァ珍しい武技を使うんだな、アイツ。」
不敵な笑みを浮かべ、独り言を呟きながら。
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突如放たれた光の槍、その始点を見れば、案の定知ってる顔が見つかる。
「やっぱりノアルだったのか。大丈夫なのかい?」
「はーっはっは!当然、そろそろ限界だ。」
そんな事かと思ったよ。
どうせミラに上位回復魔法でもかけてもらって無理やり動いたのだろう。
まったく、神聖なる上位回復魔法を酔い止めに使うヤツなんてこいつくらいだろうさ。「光の聖典」を有難がる連中が見たら絶句するだろうよ。
ふと見上げた空の、雲の隙間から一条の光が差す。
「ノアル、多分大丈夫だと思うよ、ほら。」
雲から覗く青空の面積が、みるみると広がっていく。
嵐が、晴れる。
「魔力性の嵐、あのサメが核だったか。」
「そうみたいだね。」
風も少しずつ弱くなってきた。やがて、この波も収まるだろう。
「っ、はあぁぁ、助かったあっ!ミラに全魔力使わせちまったからこの後どうしようかと思ってたんだ!……うっ、ヤバいもう魔法の効果が。」
槍に体重を預けてバランスを取り始めた辺り、本当にそろそろキツいのだろう。
その顔を真っ青にする様子は、颯爽と登場して大物にトドメの一撃をいれた男にしては、随分と締まりの悪い姿であった。
~翌日~
「なぁ、ミラ。本当にこんなんで良かったのか?」
「うん、これがいいの。これ以外はイヤ。」
「そ、そうか。まぁお前が喜んでくれるんならいいんだが……。」
「えへへー♪」
複雑そうな顔で、ノアルは膝に乗せたミラの頭をぎこちなく撫でる。
どうやらミラは、昨日の船喰い鮫襲撃時にノアルに上位回復魔法を使ったらしく、魔力切れで今日明日辺りはほとんど動けないらしい。
それで“何かして欲しい事があったら、なんでも俺に言ってくれ”とかノアルが言った結果が、これである。
「まぁ、なんだ。俺がキツい時は、ずっとミラがついていてくれたからな。俺もお前が良くなるまで、傍にいるよ。」
「本当?また魔獣が出てきても、飛び出していかない?」
「…………ああ、分かった。約束する。」
それから魔獣が出ることは無く、無事に彼の約束は守られた。
もし、船喰い鮫と同等かそれ以上の魔獣が現れたとして、それでも約束が守られたのかは、誰も知らない。
いや、僕が思うに、きっと本当に船が危なくなったら彼は行ってしまうのだろうし、彼女はそれを許すのだろうけれどね。
そして、2日が経ち、僕たちの乗る船はウォータ海底遺跡群調査隊基地へと到着した。




