第20話︰いざ、海底遺跡群へ
~出発の日・冒険者クラン「バベルブリゲード」仮拠点~
「よし、全員揃ったな。じゃあ、今回の遠征について改めて説明するぞ。」
仮拠点にしている部屋の中央にある机に簡易的な世界地図を広げる。
「まず、ここが俺たちのいるフスピア王国の迷宮街フュージアだ。」
“伝説の大賢者の杖・レプリカ”という触れ込みで土産屋に売られていたヤツで、地図上のフュージアを指す。
世界で最も大きな大陸、アース大陸の西側の海沿いだ。
「まずはここから近い港まで馬車で向かう。そこから船に乗ってヴェーア帝国のハルフヴルグ港へ、あそこからであればウォータ海底遺跡群調査隊基地への船が出ている。」
杖でなぞりながら、今回使う航路を説明する。
「おおよそ到着まで2週間ってところだ。そして、到着し次第この依頼にとりかかる。」
地図の隣に、1枚の依頼書を置く。
「なぁマスター、俺たちはナガトークって考古学者に伝承を聞きに行くんだよな、何で依頼なんか受けるんだ?」
「いい質問だ、アイク。ここを見てくれ。」
依頼書の左下辺りを指し示す。
「遠征依頼補助95%……?なんだこれ。」
「高ランクの依頼ってのは、特に僻地の場合なかなか受けられる冒険者がいないんだ。そうして塩漬けにされ続けた依頼には、遠征依頼補助ってのを着けて他の支部に流すんだ。これが着いてる依頼を受ければ、その地への旅費をギルドが持ってくれるって訳だ。」
なるほどなるほど、とアイクが納得の表情をして頷く。
「じゃあこの95%ってのはまさか、旅費の95%をギルドが持ってくれるってのか!そいつはすげーな!」
「今回の目的地は特に、冒険者がわざわざ立ち寄るような場所では無いからな。相当長い間放置され続けたんだろう、この依頼。」
依頼内容は、ウォータ第12遺跡迷宮深層の調査協力。
依頼ランクはB、つまりBランククラン以上が条件となる依頼だ。
「おかげで、本来ならおおよそ片道で100万サクルほどかかる旅費が、たったの5万で抑えられる。往復でも10万だ。アレスの借金より安いな。」
嫌なことを思い出したといった顔をしているアレスは置いといて、説明を続ける。
「カタリーベの爺さん曰く、ナガトークが所属しているのはヴェーア第3期喪失技術調査隊というところだ。ちょうど今回の依頼主と同じだ。よってナガトーク捜索も依頼と同時並行で行うものとする。ここまでで質問は?」
少し間をとったが、特に質問は無さそうだ。
「ではこれより、ウォータ海底遺跡群への遠征を開始する!」
その号令と共に、俺たちはそれぞれの装備を手に、クランの仮拠点を発った。
~フスピア王国・西岸街道~
迷宮街フュージアから徒歩で約2時間。
フスピア王国にある5つの街道の1つ、アース大陸最西端の港・ウェスポーティアから王都パーティアを結ぶ街道「西岸街道」。
フュージアへと分岐するT字路の辺には、「スター商会乗合馬車・西岸街道第7発着場」と書かれた看板と、待合所として屋根と長椅子が設置されている。
待つこと数十分、街道を走ってきた五芒星の紋章がついた馬車が、発着場の前へ留まった。
「ウェスポーティアまで、5人だ。」
馬車の客席には、俺たち以外に4人の乗客がいた。ファイア大陸の自由商業都市へ向かうという若い職人、故郷の妹の結婚式に参列する為に帰省するという20代くらいの冒険者、余生を過ごす地を探し世界中を旅しているという老夫婦。
「さて、それぞれ違う目的を持ちながら、同じ港へと向かう者たち。だが彼らはまだ知らなかった、平穏なる旅の終わりは既に近く、やがて大きな波乱へと巻き込まれていく事をっ!」
「どうしたんだいノアル、急に変な事を言い出して。」
「退屈だなあと思って。この辺で魔獣の襲撃とか発生しないかなあと。」
魔獣、それは迷宮で発生する「魔物」とは違い、野生の獣が魔力を過剰に溜め込んだ結果、変質したモノだ。
「残念だけど、それは無いだろうね。こういった街道は魔獣避けの結界が張られている。よほどのバカが結界装置を壊したりしてない限りここに魔獣は現れないさ。」
やれやれ、という感じにアレスは首を振る。だが、その台詞はっ!
「フラグってやつか!それはフラグってやつだな!この流れは絶対来るぞ、魔獣!よっしゃあ、Bランク冒険者クランのマスターにして高名位の冒険者たるこのノアル・フェブリエが華麗に、スマートに、クールに、現れた魔獣を討伐してみせよう!」
そして、俺たちを乗せた馬車は、何事もなく、平和に港町ウェスポーティアに辿り着いた。
~港町ウェスポーティア・宿屋~
アース大陸最西端の港、ウェスポーティア。
冒険者の為の町たる迷宮街とは雰囲気が大きく異なる、交通と貿易の要所たる港町。
露店で扱われている商品もガラッと変わるのだろう、それをゆっくりと見てまわりたい気持ちもある。
だが残念、今回のスケジュールでは、夜に到着したこの町を、明日の朝にすぐ出発である。
「それじゃ俺は先に寝るぞ。」
適当に上着を脱ぎ捨てて、ベッドへ向かう。
「お前らもさっさと寝ろよ、明日は朝早いからな。んじゃおやすみ。」
アレスとアイクに声をかけて横になり、その後程なくして俺は眠りについた。
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「マスターってこういう時も大抵遅くまで起きてるのに、今日は珍しいな。」
ベッドを整えて、寝る準備をしていたら、アイクにそう声をかけられる。
「できるだけ今日のうちに睡眠を取っておきたいんだよ、きっと。明日からはまともに眠れないだろうしね。」
「どうしてだ?」
「僕たちは明日から船での移動だからね。ほら、ノアルって。」
「あぁ、そういえばマスターはそうだったな。」
納得してくれたようだ。
そう、彼が望んだように、ノアルが「退屈だ」と言えるような旅は、今日で終わる。きっと明日からは、そんな事を言っていられなくなるだろうさ。
~隣の部屋~
「それじゃあ、私は先に寝るね、おやすみなさい、シズクさん。」
「あら、ずいぶん早いのね。」
ミラは部屋に着くなり、すぐに寝る支度を始めて、そのままベッドへ向かった。
特に普段夜更かしする印象がある、という訳ではないが、ここまで一直線に睡眠へと向かうのは少し意外だった。道中そんなに眠そうでもなかったし。
「えっとね、私は船の上だとあんまり睡眠時間を取れないと思うから、今日のうちにたくさん寝ておこう、って思って。」
「そう、ならしっかりと寝ておきなさい。おやすみ、ミラ。」
「うん、おやすみなさい。」
この時はまだ、ウチは彼女の言葉の本当の意味を理解していなかった。




