第19話︰デート・イン・フュージア
~5日目・冒険者クラン「バベルブリゲード」仮拠点~
「うん、とっても似合ってるじゃない♪」
「そう、かな?」
「そうよ、もっと自信を持ちなさい。誰が選んだと思っているのかしら?」
昨日、シズクさんに今日の“お出かけ”の話をしたら、半ば強引にこの街のちょっといい服屋さんに連行された。
数十分ほど彼女の着せ替え人形にさせられた後、「これよ!」と言って買ってくれたのが、今着ているこの一式である。
改めて、姿見に映る自分の姿を見てみる。
黒のリボンがついた、大きなつばの白い帽子、
妖精さんが着てそうな、ひらひらした純白のワンピース。
ちょっと大人っぽいヒールサンダル。
普段は、破れにくさだとか、魔力の馴染みやすさだとか、そういう実用的な面でしか服を選んでいなかったから、こういう感じの服は初めてで、なんだか違和感がというか、変な感じがする。
「変だって、おかしいって思われないかな?」
「安心しなさい、ミラ。そんな事を言おうものなら、ウチがあのバカをぶった斬ってあげるわ!」
自信げに胸を張り、物騒な冗談を言ってくる。
……冗談だよね?
「うん、ありがとう。その時はお願いね。」
「任せなさい!距離を取られたら厄介だけど、近接戦に持ち込んで、常に近い間合いで戦えば多分いけるわ。やるならアイツの持ち味の機動力を活かせない、狭いところがいいわね!」
あんまり冗談じゃなさそうかも。ノアルさんが斬られちゃわない為にも、変だって思われないように頑張ろう。
「っと、じゃあそろそろ行くね。」
「ええ、楽しんでらっしゃい、ミラ。」
「うんっ!」
~迷宮街フュージア・銅像広場~
冒険者ギルド創設者にして、初代グランドマスター、ファースト・ハイブリッジ。
世界中の迷宮街の大半には彼の銅像か石像が建てられた広場があり、冒険者が街中で待ち合わせをする時の集合場所としてよく用いられる。
かくいう俺もその一人であって、
「おまたせ、ノアルさん。待たせちゃった?」
「いや、ついさっき着いたところだ。」
と待ち合わせでの定番のやり取りを交わしたわけなのだが。さてそれは、どういった関係の2人の待ち合わせにおける「定番」だっただろうか。
きっと昨日アレスに変な事を言われたせいであろう。いつも見慣れたローブ姿とは違う、女の子らしい服装の彼女を見た瞬間から、俺も「デート」という言葉を意識していたらしい。
「何だか新鮮な感じがするな、ミラと私服で会うのは。よく似合っているぞ、自分で選んだのか?」
「ううん、シズクさんが選んでくれたの。」
シズクか。ミラは最近いつのまにかシズクと仲良くなっていたな、と思っていたが、一緒に服を買いに行くことすらあったのか。
「ほう、アイツなかなか趣味がいいじゃないか、後で礼を言っておかないとな。」
「お礼?どうして?」
「そりゃもちろん、いつにも増して可愛いミラの姿を見れた事に対する礼をだな……」
っとつい本音が。いや、まあ実のところ彼女のことは元より可愛い子だとは思っていた。
しかし、なにぶん彼女が小さい頃からの付き合いというのもあって、無意識的に「そういった対象」からは外していた。
だが、今日のミラを一目見た時に、不覚にもドキッとしてしまったが最後、これまでしてこなかった「意識」をするようになってしまったらしい。
「そっか……可愛い、か。えへへ、よかったあ。」
少し照れながら喜ぶ彼女の姿を見ながら、しかし、と。自身に芽生えそうになった思いに封をする。
彼女は俺を慕ってくれている。だが、それはきっと、恋じゃない。
彼女はそういった、人並みの恋とかをするよりも前に、全てを奪われてしまった。
たまたま、そんな彼女の前に一番最初に現れたのが俺だっただけ。
そうでもなければ、可愛くて、優しくて、誰もに好かれるような子が、俺のような男を慕うはずがないのだから。
その思いだけは、利用してはいけないのだ。
「よし、それじゃあ行こうか。道案内は頼んだぞ。」
ま、それはそうと今日はとことん楽しもう、と気を取り直してスタバーへと出発した。
~迷宮街フュージア・スターバーストカフェ~
迷宮街は、冒険者と商人が集まって出来た街であり、ここフュージアの場合、銅像広場辺りから見て西と東で冒険者向けの街と商人向けの街に分かれている。
迷宮に近い方の西側が冒険者向けの街で、冒険者ギルドや安めの宿、武具だとか迷宮で役立つ魔法のアイテムだとかの店がある。俺は、ほとんどこっちにしか用がなかったから、東側の街はほとんど見たことがなかった。
スターバーストカフェが出来たのは東側だったらしく、そりゃ俺が知らない訳だな、と納得した。
「いらっしゃいませー、2名様ですね。」
からんからん、とドアベルを鳴らして店へ入る俺たちを、店員が席へと案内する。
「っと、ミラは昨日も来たんだよな。二日連続になるけどよかったのか?」
「うん、ここのケーキ、種類がたくさんあるから。全種類食べるまでは、何度来てもいいかな。」
「それもそうだな。」
手元もメニューに目を落とす。確かに種類が多くて悩ましい。
「参考までに、昨日は何にしたんだ?」
「このミックスフルーツタルトだよ。地域によって乗ってるフルーツが違うんだ。」
ミラが指でなぞるメニューを見る。この店舗だとリンゴやナシ、アンズをベースとしたものになるらしい。
「お、その下のチョコレートショートケーキってのが気になるかな。」
最近、いろんな所で出回り始めたチョコレートとかいうものをふんだんに使ったケーキらしい。
「ミラもひと口食べるだろ?」
「えっ、いいの?それじゃあ、私のもノアルさんにあげるね。」
「おお、助かる。」
こうしたやり取りをするのも久しぶりだ。
「うん、私も決めたよ。」
メニューを閉じたミラを見て、俺は店員を呼ぶ。
「チョコレートショートと、コーヒーをブラックで。」
「あ、ブラックをもう1つ、それとベイクドチーズケーキでお願いします。」
かしこまりました、と店員がメニューを下げる。
「遂にミラもブラックが飲めるようになったんだな。」
「ちょっと前にね、いつもみたいに甘くしたコーヒーを飲もうと思ってたんだけど、お砂糖を入れ忘れちゃって。でも飲んでみたら意外と美味しかったから、それからは私もブラックにしてるんだ。」
気がついたら大人の味覚になっていた、という事か。
「いやあ、嬉しいよ。うちのクランはブラックコーヒー派が少なかったからな。アレスは紅茶派だし、アイクは甘いのしか飲まないし、シズクも甘くする派だっただろ?」
「うん、紅茶やコーヒーはお砂糖やミルクをたっぷり入れて飲んでいたね。」
ついに新たなる仲間を手に入れたブラックコーヒー派の快進撃はこれからだっ!と今後の我が派閥の活躍に期待を馳せていた所で、「おまたせしました」、と注文していたケーキとコーヒーが届く。
「ほう、これがチョコレートというやつか。」
焦げついた木の皮ような、見た事のない色のクリームがたっぷりと塗られたケーキに、その味への興味と期待が膨れ上がる。
まず、ひと口。
「っ、これは!」
程よい苦味を含んだ独特な風味は、ひと口目にしてこれが俺の運命の味であると確信させるものであった。これは、すごい、素晴らしい。
「美味い、美味いぞ!ミラも食ってみろ、これはすごい!」
「う、うん!」
恐る恐るひと口。
「っ!」
俺と同じように、口に入れた瞬間、その味に衝撃が走ったという顔をする。それが果たしてどちらなのか。この味は、彼女の口にあったのだろうか。
「ノアルさん、これ……」
一息貯めて、その答えを口にする。
「すっっっっごく美味しいよ!なにこれ、こんなのはじめて!」
「だろ!どうだ、もうひと口食べるか?なんなら半分ずつにしてもいいぞ!」
気に入ったみたいだ。同じ感想を持てたことが嬉しくて、勢いで皿を差し出してしまったが、ミラは首を振る。
「ううん、それはノアルさんが食べて。私は次に来た時に頼むよ、だからね。」
名残惜しさなどなく皿を返してきたのは、きっとそれが理由なのだろう、満面の笑みで、それこそがケーキなんかよりも望むものなのだとばかりに、言葉を紡ぐ。
「また一緒に来ようね、ノアルさん!」
そこに込められた思いを、真の意味で受け入れることが出来ないのだと、分かっていても。
この笑顔だけは必ず守り抜くと俺は心に決め、約束を交わした。
「あぁ、絶対だ。」




