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険しきを冒す者たち  作者: 村松 柊榎
第二章︰絶海の遺跡群
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第18話︰スターバースト

~4日目・冒険者クラン「バベルブリゲード」仮拠点~



「……って事なんだが、ミラも来るか?」


どうやら、ノアルさんとアレスさんで、遠征に向けた買い出しに行くらしい。そして遠征のきっかけとなったアイクくん本人は、昨日伝承武器の試し斬りに迷宮へ行った時、調子に乗って魔力を使いすぎた結果、今日は自分の宿で寝込んでいる。

と言っても、冒険者の遠征なんて大した荷物は持っていかないものだ。旅に最低限必要なものくらいなら、クランの備品で事足りるし、きっと長時間移動中の暇潰しに使えそうなものを探しに行くだけだろう。

ノアルさんとのお出かけならいつでも大歓迎、といきたいところなのだが、


「ごめんね、今日はシズクさんと一緒にケーキを食べに行く約束をしているの。」

「そっか。……あれ?この辺にケーキが食べれる店なんてあったか?」

「それがね、つい最近この町にもスターバーストカフェが出来たんだって。私もシズクさんに聞いて初めて知ったんだ。」


スターバーストカフェ、通称スタバー。ここアース大陸の西側の多くの国で広く展開する、スター商会が運営するカフェ。

少し値は張るが、良質なコーヒーとケーキなどの甘味を味わえる。


「おおっ!後で場所を教えてくれ、久しぶりにあそこのミックスベリータルトが食べたくなった。」


“いい、あの男をデートに誘いなさい!”


一昨日の会話を思い出す。あの日は、そんな間もなくアレスさんとふたりで出かけてしまったけど。


「ノアルさん、えっとね。」

「どした?」

「その、明日とかって、空いてたりする?」

「うーん、特に予定は無いな。」


なけなしの勇気を振り絞って、みたいなのは、案外いらなかった。

自分が思っていたよりも、言葉はすんなりと出てきたみたいで。


「それじゃあ明日、私と…………



~迷宮街フュージア・大通り~



「ほう、つまりデートか。良かったじゃないか、ノアル。」

「あのなぁアレス、そんな大袈裟なものじゃない、単に二人でスタバーに行くだけだ。」


“デートのつもりはない”、と一切の嘘偽りを含まず言い切った我らが鈍感(ノアル)に、若干の呆れを(いだ)きつつ、さてこいつらは一体どうしたら進展するのだろうかと考える。


「キミ達くらいの年頃の男女が二人で出かけるのなら、それはもうデートと言ってしまってもいいんじゃないのかい?」

「いやー、つっても俺とミラが二人で出かけることなんて今までもしょっちゅうあっただろ。あぁ、いやそう言えば最近はあまり無かったな。」


屋台に並ぶよく分からない魔法のアイテムを適当に物色していたノアルが、不意に手を止めて考える。


「最後にあいつと二人で出かけたのは……うーん、もう一年以上前になるのか?」

「寂しいかい?」

「いいや、むしろ嬉しいよ。ミラが俺なんか居なくてもやっていけるように、俺はあいつにいろいろ教えたんだ。独り立ちしてくれるなら、それに越したことはない。」


興味も無いだろう謎魔法アイテムを無意味に太陽にかざして品定めするフリをしているノアルの言葉には、多少の嘘が混ざっていた。


これは、実は意外とこいつにも気はあったりするのか、と。


「いっそミラに恋人になってもらったらどうだい、ノアルはよく“彼女が欲しい”とか言っていただろう。」

「……ダメだ。」


予想通りの即答だ。


「ミラは、きっと俺が頼めば二つ返事で恋人になってくれると思う。」


少し意外な事を言う。この男はそんな事全く気づいていないのだろうと思っていた。


「でも、ダメなんだ。」

「どうしてだい?ミラはキミの好みの女性像にとても近いと思ったんだけれど。」

「そうだ、間違いない。でもな。彼女の好意を、俺は受け入れちゃいけないんだ。」


理由は、言わなくてもわかるだろ。

そう目だけで語り、ノアルは再び、全く興味の無さそうな魔法のアイテムを手に、品定めのフリをしだした。



~迷宮街フュージア・スターバーストカフェ~



「デートですって?!」

「シ、シズクちゃん声が大きいよ……。それに、多分ノアルさんはそんな風に思ってないよ?」


ミラに諭され、周りを見渡す。何事かとこちらをチラチラ見ている他の客の目線が痛い。

でも、それくらいには驚いている。ウチが言い出したことではあるけど、まさか。


「あんたが昨日の今日でアイツを誘えるほど積極的な子とはね。」

「えっとね。ノアルさんとは昔はよく二人でお出かけしていたし、よく考えてみたらそんなに特別な事じゃないのかなぁって思ったら、ね。」


うん、そんなに特別な事でもない話をしている子の表情ではない。なんというか「幸せ」のオーラというか、恋する女の子だけが放てるピンク色の何か、みたいなのが出ている感じがする。


「はぁ、何っていうか、ご馳走様です、って感じ。」

「え、どういうこと?」

「何でもないわよ。」


ストロベリーの乗ったケーキを、やけくそ気味に大口で放り込む。なんか本来の味より甘い気がする。


「って言うか、聞いてなかったわね。アイツのどこを好きになったのよ。」


なんとなく、ミラと恋バナっぽい事をするのは何度かあったけど、肝心なことを聞いてなかったことを思い出す。


「うーん、優しくて、カッコイイところかな。」

「え、誰の話だっけ?」


百万歩譲って優しいってのはギリギリ分かるとして。

カッコイイ?あの馬鹿ナルシストが?この子あーゆーのが好きなの?


「ノアルさんはね、私の英雄(ヒーロー)なんだ。」


そう語りながら、コーヒーを啜るミラの目が、話している言葉とは裏腹に少し悲しそうだったのは、果たして苦めのコーヒーのせいだったのだろうか。



~フスピア王国辺境・ある小さな村~



それは、今より4年前の話。


当時、まだCランクに昇格したばかりのバベルブリゲードが受けた、ひとつの救援要請。


“賊の襲撃あり、村の戦力では対処困難、至急応援求む”



彼らが駆けつけた時には、既にその村は壊滅していた。


そこら中に死体が転がり、血が飛び散り、ソレらと建物の燃える臭いが混ざりあって、彼らに酷い吐き気と嫌悪感を与えた。


「ノアル、この村は、もう……。」


頭の上に狼の耳を生やした白い髪の少年が、黒い髪の少年に悲痛な声で話しかける。


「ダルト、まだだ。まだ生存者がいるかもしれない。捜索に……っ!魔力の反応、あっちだ!」

「待つんだ、ノアル!まだ敵の数も分かってない、ひとりで突っ込んじゃダメだ!」


黒の少年は、白の少年の制止を聞かず、一直線に魔力の発生源へと駆けていく。

そして。


……。


…………。


そして、たどり着いたその場所には、球状の光の結界と、それを下衆な笑みを浮かべながら何度も剣で叩きつけ、壊そうとしている男、それと、


「や、やめてっ、だれか、たすけ……て……っ!」


今にも壊れそうな結界の中で、身の丈に合わない大きな杖を両手で握り締め、必死に結界を維持し続けている、銀の髪の小さな女の子がいた。



その日、少年は、

冒険者ノアル・フェブリエは、初めて人を殺した。

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