第14話︰伝承武器
「さて、ついにお待ちかねの報酬だ!」
ミラの魔力が回復し、各メンバーの治療も終わったところで、俺たちは試練の間の奥、光を放つ紋章の描かれた扉の前にやってきた。
試練の間の入口と似たような構造のそれは、方解巨獣が倒された事により既に封印が解かれている。
「開けるぞ。」
扉の紋章に触れ、そこから伝わるように紋章の光が強まっていく。
ごごごごごごごご
大きな石の扉が、開く。
扉の先は、小さな部屋だった。
部屋の真ん中に、祭壇のようにして置かれた、よく目立つ石の箱がある。
「アレス、応晶振子は?」
「反応なし、罠じゃないよ。」
俺は、仲間たちが息を飲んで見ている中、その箱をゆっくりと開けた。
「なぁアレス、これって……」
「間違いない、伝承武器だね。」
大当たりだ。迷宮探索において、最も価値の高いとされる戦利品を手に入れた。
「伝承武器、形状は剣かしら。ここまで来た甲斐もあったわね。」
「これで、私たちのクランの3本目の伝承武器だね。おめでとう、ノアルさん!」
シズクとミラも最高の戦利品に喜んでいる様子だ。
「なぁマスター、その“伝承武器”って、なんだ?」
ただ1人、この戦利品の価値を知らない者は、他の仲間たちの様子に困惑していた。
「伝承武器、迷宮で発見される遺物の1つだ。世界のどこかで語り継がれている伝説や神話に登場する、名のある武器。それらに似た見た目と性質を持つ迷宮産の武器、それが伝承武器だ。」
俺は、普段使っている槍をアイクに見せる。
「俺の槍や、アレスの剣も以前迷宮で手に入れた伝承武器だ。」
「確かに、マスターの槍ってよく見たら変な形してるもんな。」
俺の使っている槍は、十字架を模した装飾が施された赤い穂先が特徴的な、儀礼用と言われた方が納得出来る見た目のものだ。
「伝承武器には、それぞれ元となった伝承が存在していて、伝承を深く理解し真の名を呼ぶ事で、本来の性能を発揮する事ができるんだ。」
「すげぇ!じゃあマスターの槍はなんって名前なんだ?」
アイクが興奮気味に聞いてきた。やはり、そこが気になるよな。
「それは……」
「それは?!」
「分からん。」
ガクッと、アイクが崩れ落ちそうになった。
「この槍の伝承を知ってる人が、中々見つからなくてな。今も探してる最中だ。」
「なるほどな。」
「でも、アレスの剣の名前は分かってるぞ。」
アレスが話の流れを読んで、剣を抜いてアイクに見せてくれている。
金色に輝く刀身に、王冠を模した装飾、まさに「聖剣」といえるその見た目。
「おい、まさか?!」
アイクは、その可能性に至ったようだ。
そう、その剣の名は、
「王導剣エクスカリバー、世界一有名な聖剣の伝承武器だ。」
アイクが、今までに見た事ないくらい目を輝かせていた。
「マジか?!うおお、すげぇ!じゃあアレス、あの勇者みたいに光の剣技が使えるのか?!」
「いや、僕はまだこの武器の真の力を発揮できないんだよ。だから、まだ単に頑丈で斬れ味のいい剣ってだけだね。」
目に見えてガッカリするアイク。
「それで、だ。新しく見つかったこの剣、アイクが使ってみないか?」
「えっ、オレがか?!」
想像もしていなかったといった反応で驚愕するアイク。今日の彼はとても情緒が忙しそうだ。
「いいのか?」
「俺もアイクも、もう伝承武器を持ってるし、ミラは剣を使わないだろ?シズクが使う剣技は、またちょっと違った形状の剣を使うしな。」
アイクは、恐る恐るその剣を手に取る。
紺色の刀身を持つ、細身の直剣。その刀身は、宝石のような光沢を放っている。
その輝きに、彼は感動した様子だった。
「なぁマスター、これ本当にオレが使ってもいいのか?」
「あぁ、今日からそいつが、お前の新しい相棒だ。」
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俺たちは、あれから試練の間を出て、第19層の探索を再開した。
特に苦戦する事もなく迷宮を進み、この層のほぼ全てのマッピングが終わろうとしていた。
「そういえばマスター、まだ第20層への階段を見てねぇけど、そろそろ見つかるんじゃないか?」
「そうだな。アイクもついにそういうのが分かるようになってきたか。」
「おうよ、伊達に3年もマスターのところで冒険者やってねぇってんだ!」
頼もしくなったものだ。
「噂をすれば、だね。ノアル、階層の境界の反応があったよ。恐らく第20層への階段だ。」
応晶振子の反応を確認したアレスが、そう告げる。
「すごいなアイク、まさかここまで勘が鋭いとは思わなかったよ。」
「いやぁ、流石にたまたまだぜ。そんでよぉマスター、このまま次の階層も探索していくのか?」
「まぁ、軽く様子見だけだな。境界付近でどんな魔物が出るかくらいは確認しても……いや、無しだ。」
俺はその光景を見た瞬間、この探索を19層で切り上げることを決断した。
「そうか、この迷宮はここが終点か。」
「……おいマスター、ありゃ、なんだよ。」
アイクも同じものを見たようだ。
第20層へと続く階段、その先にあったのは、今までの白い石で出来た洞窟とは、似ても似つかない場所。
床も壁も、全てが。
妖しく蠢く、鮮血色の肉の壁で造られたている。
それは、もはや迷宮というよりも、ナニか巨大な生き物の、体内のような。
「迷宮の最終階層、通称、“肉の間”だ。」
「なんで、あんな風になってんだ。」
「あれこそが、迷宮の本体だからだ。そもそも、迷宮とは何か、お前は知ってるか?」
「何って、地下に広がる魔物とか罠とかがある洞窟だろ?」
他のメンバーが落ち着いているのを見てか、アイクも驚愕と恐怖から立ち直り、俺の質問に率直な答えを返す。
「それはあくまで表面的な理解だ。迷宮の正体は、“高度な伝承魔法を扱う巨大な魔法生物”だ。」
「伝承魔法?」
「世界の様々な伝承、もっと言えば、人の共通認識を形にする魔法だ。それによって、迷宮はゴブリンやオーク、ドラゴン、ベヒモスといった童話や伝説に出てくる“魔物”と、多くの人が考える典型的な“罠”を作り出す。そして、伝承武器や、希少な鉱石など、人の考える“宝物”で人間を誘き寄せ、狩る。それが“迷宮”だ。」
「なるほど……って事はなんだ、オレ達は今、デケェ生き物の腹ん中に居るって事かぁ?!」
理解が速いな。
「まぁ、そういう事になるな。」
「おいおいおい、大丈夫なのかよそれ!めちゃくちゃ危険じゃねぇか!」
「アイク、忘れたのか?元より迷宮探索ってのは、危険なものだろ。」
「そうか。確かにそうだったな!」
笑いながらそう言うのを見る限り、これで迷宮が怖くなった、なんて事はなさそうだ。
「だが、ここから先は別だ。人を誘い込む目的の今までの階層とは違って、この先は迷宮にとっての“防衛機構”だ。入ったらまず、確実に死ぬ。」
「そんななのか?」
「この巨大な迷宮を維持している生き物が、その全能力を侵入者の排除に使ってくるんだ。1体でも俺たちが束になっても勝てないレベルの魔物が、群れで出てくる。空間には常に人体を蝕み魔法の発動を阻害する瘴気が発生し、あの肉の壁全てが殺意を持った罠を内包している。」
「うげ、ンなもんどうやっても無理じゃねぇか。」
「そうだ。実際、肉の間を攻略した記録は、冒険者ギルド創立以来、たったの1度しかない。」
「そりゃそ……いやその1度はどうやったんだよ!」
「現代最強の冒険者クラン『キャメロット』が、マスターのアルトリウス率いる大規模レイドを組んで攻略したらしい。到底俺達じゃ真似出来んな。ま、つまるところ、俺たちにとってはここがこの迷宮の、実質的な終点だ。」
こうして、俺たちは今回の迷宮探索を切り上げることにした。




