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険しきを冒す者たち  作者: 村松 柊榎
第二章︰絶海の遺跡群
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第13話︰最上級魔法

心を沈め、ゆっくりと魔力を高めていく。

同時に、自分の魔力を周囲の空間へと溶かし、「私」の境界を広げていく。

このまま世界に溶け去って、自分がどこにも居なくなってしまう、そんな錯覚に陥りそうになる。


“ミラ、お前なら出来る”


声が、聞こえた。


~~~~~~~~~~


「話は終わったかい、ノアル。」


巨腕の一撃を剣で受け止めているアレスが、背を向けたまま聞いてくる。


「あぁ、助かったよアレス。」


アレスはこの約1分間、単独で方解巨獣(カルサイトベヒモス)を食い止めていてくれていた。やはり前衛としてとても頼りになる男だ。だが、流石にこれ以上はキツいだろう。


アレスの元に走りながら、槍先に魔力を集める。一点に集めるのではなく、幾何学的模様を描くように形成し、槍先に固定する。

そして、そのまま槍を叩きつけ、描いていた魔法陣を発動させる。


「『加速強制(アクセルフォース)』」


加速跳躍(アクセルステップ)』の応用、対象に速度を付与し、強制的に吹っ飛ばす魔法。


方解巨獣(カルサイトベヒモス)が、身体ひとつ分真横に飛ばされ、そのまま横転する。


「待たせたな、アレス、前衛交代だ。」


~~~~~~~~~~


周囲の空間に溶かした魔力を制御し、無数の光の粒子へと変換していく。

それらを、少しずつ、少しずつ、杖の先へと集める。


「 私 」を溶かした空間に、大きな力の奔流が産まれ、それが「 私 」の境界を更に揺らがしていく。


“ミ■、お前■ら■来る”


声が、聞こえた。


~~~~~~~~~~


「アイク、シズク、右前脚だけを狙え!コイツは身体の末端に行くほど再生力が低い!それで一時的に機動力を奪えるぞ!」

「了解だ、マスター!」

「分かったわ、右前脚ね!」


アイクとシズクも攻撃に参加し、ミラの魔法を完璧に決められるタイミングを作り出す。その「隙」さえ作れたら、ヤツを倒せる。


「《炎剣擊(ファイヤースラッシュ)》」

「《月剣撃(クレセントスラッシュ)》」


炎を纏った剣が、ヤツの右前脚を焼きながら大きく抉り、凄まじい斬れ味を誇る三日月の剣閃が、ヤツの右前脚の骨を断ち切る。

すぐに反撃が来る。方解巨獣(カルサイトベヒモス)の巨大な顎が、地を削りながら横薙ぎでアイクたちを襲う。


「《撥衝剣(インパクトリバース)》」


アレスの護剣術が攻撃を弾く、だが、疲弊した状態の《撥衝剣(インパクトリバース)》では、完全に衝撃を跳ね返しきれていない。

脚が1本、大きく損傷しているはずの方解巨獣(カルサイトベヒモス)が、僅かにしか体勢を崩していない。それに、跳ね返しきれなかった衝撃でアレスは吹っ飛んだ。

まぁ、あいつの頑丈さなら、あれくらいじゃ問題ないだろうが。


だが、ここまでは想定内だ。

僅かでも、体勢を崩したのなら、更にダメ押しでその巨躯を完全に横転させる。


槍を真上に放り投げ、右の拳に魔力を全力で込める。

体勢を崩すなら、槍よりも、(こっち)だ。


「うおぉぉぉぉ、《槌撃(スマッシュ)》っ!」


主にハンマーやメイスなどの打撃武器で使われる武技を、徒手空拳で放つ。

代償として、右手の骨が砕けたが、方解巨獣(カルサイトベヒモス)は、ついに横へ倒れた。


「隙」は出来た。


あとは……


~~~~~~~~~~


光の粒子が集まっていく。それは、やがて大きな光の刀身となり、鍔となり、握りとなり、柄頭となり、「 私 」の身体よりも、ずっと大きな、光の巨剣が生み出される。


魔力が渦巻き、「 私 」の存在ごと発散してしまいそうになるのを、必死に抑える。


“ミ■、■■な■■来■”


杖の先を、魔物へと向ける。


それに合わせて、光の巨剣も、その切っ先を魔物へと向ける。


“■■、■■■■■■■”


………………


「 私 」は、誰だっけ?


「 私 」は、


…………




「ミラっ、今だ!お前なら、出来るっ!」



声が、聞こえてきた。



彼の、ノアルの声を頼りに、私はその魔法を解き放つ。

光属性最上級魔法、



「『裁きの光剣(ジャッジメントレイ)』っ!!」



放たれたその光は、方解巨獣の大きな頭を、跡形もなく消滅させた。


~~~~~~~~~~


大魔法の制御による疲労か、強大な魔物を倒せた安心感からか、もしくはその両方か。

ミラはその場にへたり込んでしまい、動けそうにない。

吹っ飛んだアレスは案の定ピンピンしていた。

全員、無傷とはいかないものの、回復魔法で治る程度の負傷しかなかった。


俺たちの、完全勝利だ。



「ミラ。」

「ごめんね、ノアルさん。ちょっと、まだ動けそうにないかも。」


この戦いのMVPに声をかけてみれば、そんな事を言い始める。

もっと、誇ってもいいものを。


「安心しろ、試練の間は他の魔物は寄り付かない、ここは安全だ。」


それでも、彼女は申し訳なさそうな顔でいる。


「ミラ、俺たちが勝てたのは、お前のおかげだ。」

「そんな事……」

「そんな事あるんだよ。」


そう言いながら、ミラの頭を撫でる。

彼女が小さい頃は、新しい魔法を覚える度に、こうやって頭を撫でて褒めていたな、と。


「よくやったな、ミラ。」

「うん……っ!」


それでようやく、ミラは自信に満ちた笑顔を浮かべてくれた。



こうして、俺たちは「試練の間」を攻略した。

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