第12話︰方解巨獣
「な・に・が、“俺たちの、敵じゃねぇな”なのよっ!ウチの攻撃もあんたの攻撃も、全然効いてないじゃない!どうすんの、これどうすんのよ!」
ドスンドスンと、大地を響かせながら走る方解巨獣が、俺とシズクを追ってくる。
「策はある。今はとにかく逃げろ。」
言いながら、足元に魔法陣を展開、稲妻のような魔力が爆ぜる。
「『加速跳躍・略式展開』」
発動まで1秒強、発動速度に特化した簡易的な『加速跳躍』。方解巨獣に追いつかれる直前、真横に高速で跳んで回避。
「あっズルい!」
方解巨獣は突如視界から消えた俺を無視して、そのままシズクを追い続ける。
「そのまま引き付けてろ、《撃穿》っ!」
槍先から放った魔力の光は、ヤツの頭部を真横から撃ち抜いた。だが、
「やっぱり、あまり効いてないな。」
何事も無かったかのように、方解巨獣はシズクを追いかけている。
「ちょ、追いつかれるわよ!なんとかしなさいって!」
シズクと方解巨獣との距離が詰まっていく。
「シズク、こっちだ。」
「アレスーっ!」
シズクが逃げた先で、アレスとすれ違う。
「《撥衝剣》」
アレスが護剣術で迎え撃つ。
突進してくる大型種を、衝撃を利用して弾き返す剣技、《撥衝剣》。ダメージはほぼ無い、だが動きは止まった。
「ミラ、アイク、今だ!」
「『光擲槍』」
「『炎砲弾』」
火属性と光属性の上級攻撃魔法が発動し、巨大な炎の塊と、光の投擲槍が方解巨獣に叩きつけられた。
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方解巨獣。
方解石の迷宮の固有種で、試練の間でのみ出現が確認されている。
その記録にて、対峙していた冒険者はBランククランの主力パーティ。討伐は困難と判断し、撤退したとある。故に情報量は少ないが、おおよそはベヒモス種に準ずる生体である、とあった。
ベヒモス種の特性は大きな図体と膨大な魔力、そして異常なまでの再生力が挙げられる。
肉体の表面を覆う岩のような外殻は、方解竜や方解岩兵ほどの硬度は無いが、人の振るえるどんな武器の刀身よりも分厚く、外側から斬りつけても決して肉まで届かない。
試練の間に入って、俺は初撃で《穿撃》を放った。
武器の先端、一点に魔力を集め、突きの動作と共に放つ、武器のリーチを無視した武技。
奴の外殻を貫通してダメージを与えられる、そのはずだった。
しかし、奴にはほとんど効いていなかった。
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被弾箇所から煙をあげながら、方解巨獣が倒れていく。
「よし、想定通りだ!」
純粋に魔力を撃ち出す《穿撃》が命中した時の挙動から、あの厚い外殻には多くの魔力が含まれていると俺は読んだ。《穿撃》は外殻の魔力とが相殺されて、奴の内側まで届かなかったのだ。
高い破壊力を誇る上級魔法による2人同時攻撃、それによって外殻ごと吹き飛ばす。これが、俺の導き出した、方解巨獣の倒し方だ。
「やったか?!」
そんな事を言いながらアイクが駆け寄ってくる。
「だと、いいんだけどな。」
頭の2割ほどを破壊したんだ、普通の生き物であれば、あれで絶命するはず。だが、
「どうやら、そう簡単にはいってくれなさそうだ。」
方解巨獣が、頭部の欠けた巨大な魔物が、起き上がる。
その傷は、既に再生を始めていた。
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上級攻撃魔法。
世界で最も多く使われている魔法体系である「属性魔法」において、2番目に高位の魔法。
消費魔力が多く、制御も難しいが、その分破壊力は非常に大きい。
それを、2発同時に、直撃だ。
「そんな……倒せて、ないの?」
無傷とは言わない。大きく損傷した頭部を再生した分、体全体に纏う魔力は減っているように感じる。今の攻撃を、あと10回ほど繰り返せば、魔力を削り切って倒せるだろう。でも、
「だめ、魔力が持たない……。」
私の『光擲槍』は、撃ててあと6回、たぶん、アイクくんの『火砲弾』はもっと少ない。
私たちじゃ、あの魔物には……
「あれでもダメか。なら、そうだな。最上級魔法だ。」
ノアルさんが、そんな事を呟くのが聞こえた。最上級魔法、確かに使えるならば、あの魔物に一撃で致命傷を与えられるかもしれない。
このパーティで属性魔法を使うのは、私とアイクくんの2人。もしかして、彼はいつの間にか使えるようになっていたのだろうか、火属性の最上級魔法『爆炎』を。
「最上級?なもんオレは使えねぇぞ!」
使えないらしい。なら、誰が?
「ミラ、頼めるか?」
「ほぇ、私?!」
唐突に声が掛かり、驚いて変な反応をしてしまった。
「ムリムリ、ムリだよ?あんなのまだ実戦じゃ1回も使ったことないし、練習でもまだ失敗しちゃう事が多くて……こんな土壇場で、急になんて。」
絶対に失敗する。そんな確信がある。
なのに。
「ミラ。」
ノアルさんが、すこししゃがんで、目線を合わせ、私を真っ直ぐに見つめる。
両肩を、優しく掴みながら、言う。
あの日と、同じように。
「ミラ、お前なら出来る。」
それだけで、今までの確信は砕け散る。
「うん。」
今なら、出来るかもしれない、そう思えた。




