第11話︰試練の間
第19層の探索は、驚く程に順調に進んだ。
何度も出てきた方解岩兵だが、アレスとシズクの連携によってほぼ一撃で仕留められた。
方解岩兵以外にも、大型の白い蛇「方解大蛇」や、地属性魔法を飛ばしてくる浮遊する石塊「地精」といったそこそこ危険度の高い魔物が現れたが、俺たちは特に苦戦する事も無く倒していった。
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「『癒しの光』」
優しい魔力の光が、俺を包み込む。
方解大蛇の尾が掠ったときの脇腹の傷が、みるみると癒えていく。
「ありがとなミラ、いつも助かるよ。」
「えっと、うん。もう大丈夫?」
「あぁ、全快だ。さすがだな。」
「よかった。あの、あんまり無理しないでね。」
「分かってる。」
ミラの回復魔法の腕は良く、命に関わらない程度の怪我であれば大抵は治せる。
だから、ミラがいる時の戦闘であれば、致命傷以外の攻撃はある程度許容しながら、強気に攻める事が出来る。
ミラとアレスはあまりいい顔をしないが、総合的に見てパーティの損耗を減らせる一手であれば、俺は迷わず被弾前提で突っ込む。
「いつも心配かけて、ごめんな。」
「ノアルさん……。」
それから気まずい沈黙が続く。
「ん?この反応、もしかして、もしかするかもしれないよ!」
沈黙を破ったのは、アレスだった。
「もしかするって……っ、まさか!」
応晶振子の反応を見て、俺はアレスの発言に納得する。
「お、なんか見つかったか?」
アイクが興味ありげに後ろから覗き込んでくる。
「確証は無いけど、まぁ行ってみれば分かるよ。」
「なんだよ、勿体ぶりやがって。」
そういえば、アイクは“あれ”を見るのは初めてか。
きっと驚くだろうな。
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「な、何だこりゃあっ?!」
応晶振子の反応を辿った先には、やはり“それ”があった。
「デカい、扉だよな?」
大型の馬車が、数台並んで通れる程大きな、石の扉。
その表面には、独特な紋様が刻まれている。
「やっぱりな、“試練の間”だ。」
案の定いい反応を見せてくれたアイクに対し、俺は得意気に解説を始める。
「試練の間とは、迷宮の深層で稀に生成される部屋の1つだ。中の空間には強力な魔物と、封印された扉がある。扉の封印は魔物と紐付けられ、魔物を倒さない限り開く事は無い。強力な魔物を打ち倒し、封印されしその扉を……」
「とても強い魔物がいて、それを倒すと宝が手に入る部屋だよ。」
俺の得意気な解説は、隣のサブマスターによって妨害を受けた。
「それで、やるのかい、ノアル?」
「そりゃやるさ。」
指の関節をコキコキ鳴らしながら、俺は不敵に笑う。
「ねぇノアル、強力な魔物って……大丈夫なのよね?」
シズクが不安そうに聞いてくる。
「強力っつっても、今の俺たちの敵じゃねぇよ。少なくとも、方解竜より強い魔物が出たって記録はフュージアのギルド支部には残ってなかった。」
「そう、ならいいけど。」
「ま、何かあったら僕がキミを護るから、安心して。」
アレスが優しげな口調で、そんな事を言い出す。
「うんっ!ありがとアレス、ウチも精一杯がんばるね!」
なんかさっきまでと態度違わないか?
はぁ。
「ん?」
くいっと、マントの縁を後ろから引っ張られる。
「どうしたミラ、お前も不安か?」
「うん、やっぱり危険な場所はね。」
「そっか……なんっつうか、アレスじゃ無いけど、ほら。ミラの事は俺が護るからさ。」
「えと、そうじゃなくてね。」
あぁ、こいつが何を心配しているのかは、分かる。
自分の事よりも、周りの仲間の事を真っ先に心配してくれる、優しい子だ。
「だから、俺の事は、ミラが護ってくれ。」
「え?」
「お前の『反射障壁』は、俺がこの世で一番信頼してる防御手段だ。お前が居てくれれば、俺は安心して戦える。」
「頼んだぞ、ミラ。」
「うん、ノアルさんの事は、私が絶対護る。」
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「じゃぁ、開けるぞ。」
各々、装備の最終確認を済ませ、武器を構えながら、扉の前で待機が完了している。
試練の間、攻略開始だ。
扉に描かれたの紋章の真ん中、鍵のような模様に軽く触れる。
キーン、と音を立てながら、扉全体の紋章の光が強まる。そして、
ごごごごごごごご
重厚な音と共に、大きな扉が開いていく。
その先の空間、「試練の間」の様子が、少しずつ見え始める。
ナニカと、目が合った。
悪寒が走る。
生物としての、本能的な恐怖。
やがて、部屋の全貌が見えた時、その正体を認識する。
方解竜をも超える巨体、白く光沢のある体表、そして、その巨体の2割ほどを占める超巨大な顎をもつ、四足歩行の獣。
「方解巨獣、か。」
脅威度は方解竜と同格、だがやはり。
「俺たちの、敵じゃねぇな。」
俺は再び不敵に笑い、槍を構えて駆け出す。
「行くぞお前ら、“バベルブリゲード”の力、見せつけてやれ!」




