第99話 宮廷内殺人事件
王都は中心部に王城がある。
東京でいう皇居のような中心部に小さな王城と大きな宮廷が建っていて、城壁に囲まれている。
その外側が第2区と呼ばれ、宮廷官僚を中心とする貴族街で、ここには市場はない。
その外側がかつて郊外と呼ばれていた第3区だ。
旧市街地なので農家も商人街もあり、道路には石が敷かれており、下水施設もある。
この第3区の貴族エリアの用地が不足しているのだ。
そして、人口が増えて拡張されたのが第4区だ。
ここは1区画の面積が大きいため、準貴族の屋敷や他領の大型店舗が進出してきている。
また、騒音が大きい馬車の製造、雑多な職人街、冒険者ギルドと宿屋もここに存在している。
今回の移転問題は、この雑多な一角にできたバラック小屋に住み着いた難民達だ。
第4区の防壁の外、つまり第5区には木の柵と検問ゲートがあるだけ。
保税倉庫と運送業の事務所や馬車停車場などが作られ、第5区はまるで物流センターのようだ。
保税倉庫が並ぶ一帯には水路(堀)も作られ、船で重量物も運び込む事ができる。
連邦国の東部、北部、そして隣国リモージュ王国とは河川で繋がっている。
屋敷の別館1階の会議室にレオ、ルカ、ノアの偵察隊を呼び出した。
現状出来ている範囲の王都の地図を見せてもらった。
細かく正確に作られたB4サイズの大きさの地図を壁一面にピン止めしてみた。
「こりゃすごいの~」
おじい様の驚きに同意する。
まさかここまで作り込んでいるとは思わなかったからだ。
盗賊として働かされている頃から、地図や似顔絵、見取り図などを書かされていたのだろう。
望遠鏡やコンパスの使い方も熟練している。
住宅地図のような精度で調べられた地図は、まだ1割程度だが、B4羊皮紙1枚に、大まかな市内の形と特徴のある建物を記した簡易地図を作ってもらった。
これを元にして、市街地(3、4,5区)の計画を考える事にした。
まず、この第5区に難民寮を2棟建てる。
基本は屋敷の寮と同じだが、個室はなしで全て4人部屋。
親子5人が入ってもいいし、単身者が4人でもOK。
何と言っても無料の宿泊施設だし、道路工事に参加するのも良し、寮母や下働きとして働くのも良し。
とにかく自分ができる事をするなら、労賃は支払われて、かつ、食事も提供される。
難民寮は、それがひとつのコミュニティーとして機能するように考えてある。
いつものように、組み立てるだけというプレカットを施して番号を振る。
あとは荷車5台に積み込んで第5区で組み立てを開始。
既にスライム浄化槽は埋め込んで、綺麗な排水を水路に流すようにしてある。
壁材などが乾燥し強度が安定すれば、入居可能になる。
国営なので管理人は退役した騎士や元警備隊員で子供に文字や算数も教えてくれる。
レオ、ルカ、ノアの偵察隊が、寮に入居予定の難民たちに対する身元聞き取り調査と、働ける者の人数を調べている。
働く気が無い者や働かない者は、第5区の低い防壁の外に出される事になる。
移住が始まると同時に、第4区のスラム街を整地して第3区の娼館2軒を移転させるつもりだ。
その他、第3区で人頭税滞納者、事業税未払い者は第4区へ移動させる。
家具付きの建物を建てて移動させているので、恨まれる事はなく、むしろ感謝されるだろう?
難民寮は、1週間で1棟建てて、2週間で完成した。
道路工事に関する話もあるため、再び父の元へ行こうとしていたら、宮廷内の父上の私室で専属メイドが毒に倒れたと連絡が入った。
彼女は長年、父上の内縁の妻を務めとし、最も信頼できる人物であった。
直ちに宮廷は出入り禁止の封鎖措置が取られ、騎士団の捜索が始まった。
折しもライアン爺さんが父上の宮廷執務室を訪れていたため、捜査に遠慮はなかった。
宮廷に出入りできる者は限られていて、貴族家の者か許可を得た者だけだ。
色々と調査が進むと、専属メイドが食材の追加発注を掛け、宅配業者が私室を訪れたあと、事件が発生した事が判明した。
直接の原因は、専属メイドが作ったスープで毒が検出され、食材納入業者と宅配員が逮捕にされた。
だが、追加納入された食材の残りがなく、検証ができない。
一方の宅配員と宅配業者には動機がない。
この宅配業者とは南部エリアに唯一の輸送業者であり、第5区に拠点を構えるアウレット男爵家の輸送業者の事だ。
この一族は、調合スキルを持つ薬師を数名雇い入れていて、傷に効く軟膏を製造販売している有名な商会でもある。
準貴族であり宮廷への入門許可も持っているし、美人で有名な娘のオリビア・アウレットは父ヘンリーとは顔なじみの飲み友達らしい。
出戻りで1児の母であるオリビアが父ヘンリーの妻の座を狙っていたとしても、グラハム親子を毒殺する動機にはならない。
そういえば、子供の話で盛り上がっているとか警備兵から聞いていたが…
それから3日後、父は仕事に復帰して…それ以降、私室の台所は使われていないらしく、時折、オリビア嬢が5歳の娘と共に、お弁当を持って執務室に来ているらしい。




