第98話 公共事業
王城の城壁の外にある守衛室は、城壁内に入ったすぐの警備棟と繋がっている。
馬車の馭者は防護砦の者であり、警備隊と同じく国王配下の侯爵部隊で顔なじみだった。
本来は外で俺が戻るのを待つのだが、守衛室に入り込んで雑談を始めてしまった。
俺は案内された入口から入り、警備棟の端にある待合室まで連れていかれ、他の訪問者と一緒に坂道を下りてくる迎えの人を待っている。
まるでバス停のように、ガラス窓から上半身が見える横一列に並んだ椅子に座っているのだ。
それほど急では無い坂道は、侵入者たちが不利になるように自然の地形を生かして作られたらしい。
そんな事を考えていると、警備兵の制服を着た人物が小走りに下りて来て、それを見た商人が立ち上がった。
待合室の外で警備兵同士が会話をしたあと、声が掛かった。
「アキュラ・グラハムさま。お迎えに参りました!」
待ち時間が最も長い商人が慌てて座り、代わりに俺が立ち上がる。
「ロイと申します。ご案内いたしますので、どうぞこちらへ」
坂道を上りながら、笑顔で俺に話し掛けてくる。
「それにしても、ヘンリーさまに似ておられるので、すぐに分かりましたよ」
「そうかな~ 父に似ていると言われたのは初めてだよ」
大人になってきて、似てきたのかも知れないが、基本的にはリモージュ国とのハーフだと分かるらしい。
坂道の先の『宮廷』と呼ばれる行政機関の建物にやってきた。
ここでも訪問先と自分の名前を記入する。
想像はしていたが、学校の校舎のような規模の建物で3階に宰相室や会議室などがあり、父のオフィスは2階だった。
建物中央に広い階段があり、非常口などは無い。
『コンコン』
「アキュラさまをご案内して参りました」
「入れ!」
扉を開けてもらい中に入ると、幅広の事務机があり『産業経済担当』と書かれたプレートが置いてあった。
「よく来たね、アキュラ」
「はい、突然押しかけて来て申し訳ありません、父上」
「いや、用事があるなら来てくれて構わないし、私が屋敷に行く時間がなかなか取れないのだから、来てくれて助かるよ」
ソファーに座るように促されて、父の正面に座ったタイミングで、専属メイドだろう女性がお茶を運んできた。
『ありがとう』と言いそうになる自分をぐっと抑えて、軽く頷くだけに留める。
「それで、用件は?」
「実は、おじい様が聞いてきた学園長の話では、来期から入学生が増え、王都で住宅不足が起こるだろうと懸念していたらしく、だったら、貴族街の区画整理とスラム街の整理などを行った方が良いだろうと思いまして…その提案に来たのです」
「確かに流入人口が増え、スラム街が出来て治安も悪くなって来たという話は聞いていたが…それをどうすると言うのだ?」
俺が提案したのは、最も新しい防壁の内側、王都第5区という場所に難民寮を建てて運営してはどうかというものだ。
寮と同じ建築物なら、一階で食事も提供できるし下水施設も実証済。
何より、彼らに火を使わせるのは火事の元になる。
「国の予算で寮を建てて運営して、仕事を斡旋すれば人頭税が取れるので、国王は賛成するでしょう」
「仕事とは、何を?」
「街道の整備をしてほしいです。馬車移動が辛すぎます」
「まぁ、その意見には賛成するが、具体的な案はあるのか?」
「はい。サンドワームの脂肪と毒ガエルの粘液で接着剤を作っているのは、御存知ですよね?」
「あぁ、アキュラ製だろ…知ってるよ」
「あれと砂を混ぜて、道に上から塗っていくんです。厚さはおおよそ10㎝ほど。平らにしたらファイアで乾燥させれば終わりです。自然乾燥でも2時間あれば固まるかな…」
「荷馬車2台に材料を乗せて…1mあたり、費用はこれくらいか…」
早速、コスト計算をしている父上。さすがである。
「んん~、王都の街道だけでも結構な予算になるな…」
「いえ、寮に収容した人員の分だけ、工事をするんです。当日の朝、晴れていれば参加者を募集して、その数に8時間労働をさせた分だけ、道路ができる。それでいいんです」
「なるほど…雇用が目的だと割り切るのだな?」
「はい」
「それなら、費用は…こんなものだな…。分かった。じゃあ早速、提案書にして出してくるから、寮は建築に取り掛かってくれていい」
「はい。わかりました」
屋敷で図面を書いて、材料のカット、梁は集成材で太い特注のサイズだ。
骨組み、床板を張り、2段ベッドを集成材で作る。
あとは以前と同じ仕様だから、再び、分解して、荷馬車2台に乗せておく。
砦の騎士団から手すきの2部隊を率いて、王都東側の防壁近くで基礎工事をする。
浄化槽を3個埋めて、配管を接続。
あとは小隊の連中に組み立てを任せたが、現場監督として施工ミスがないように確認するのが俺の仕事だ。
今回は国の事業だが、寮+設備器具で金貨300枚になる。
やっと1つの事業が軌道に乗り始めた。
この冬季には雪が降る事もあって、ダンジョンが賑わう。
だが、実力不足によって、被害者も出る。
そんなパーティーメンバーを失って、失意の中にいる人間に、勧誘の声を掛けているのが、ギャニオンとライラだ。
魔物戦のベテラン2人が言う。
個人でできる事は少ないし、グループにできる事も少ない。
組織に入れば、訓練する時間も、使えるアイテムも、交代要員も豊富だ。
特に魔物戦での撤退が難しい。
背中を向けるのは自殺行為だから、別パーティーで牽制し注意を集め、静かに後退する。
そんな事ができるのは、組織だけだ。
『2月の採用試験』の案内をもらって、考える者達。
3月も採用試験はするつもりだと、2人は言う。




