第97話 連邦暦361年1月
この世界に来て4か月。
新しい年を迎えたが、クリスマスも無く、新年の行事も無く、ただ1歳、年を取っただけ。
冬ではあるが、雪が降るのは2月だそうだ。
それも積もる事はほとんどないらしい。
屋敷の戸建てに番号を振り、警備隊の2人が住む家を1号、ギャニオン夫妻は2号、レオ、ルカ、ノアの元孤児の戸建ては3号と呼ぶ事にした。屋敷から見た場所順であり入居順でもある。
そのレオ、ルカ、ノアの3人は偵察部隊として、王都市内の偵察と住宅地図を作っている。
その調査結果はどこに、どんな建物があって、どんな人が住んでいるのか。
その地図は、1日あたりB4サイズくらいの大きさの羊皮紙1枚分に細かく書かれていた。
また、彼らの報告では、1週間前にドワーフ族の村に向かったローリーとハナは、まだ王都に戻っていない。
心配なのでノアに確認に行かせたところ『サンプルが出来たら、持ち帰る』との返事だったそうだ。
それまで鉄鉱石、炭焼き、製鉄、鍛冶などの事を熱心に学んでいるらしく、ドワーフ族の連中も好感を持って接しているとの事だ。
単なる想像だが、ハナがローリーに戦闘技術でも教えていそうな気がする。
いずれ『燃える水』を手に入れて、常圧蒸留装置を作って、原油の簡易精製を研究するつもりだ。
もちろん精製プラントなどという大規模なものは考えていない。
ドラム缶単位で加熱して、その蒸気を沸点の違いから、ナフサ、灯油、軽油、残油に分けるだけだ。
ガスボンベの技術が無い今は、ガスは諦めている。
そもそも砂漠から湧き出た原油をくみ取っているのだから、ガス量は期待できないだろうし。
内燃機関が有る訳でもなく、単に沸点の違い、燃えやすさで分けているだけなので、更にこれらを精製する必要はない。
ドラム缶作りには金属鎧よりも広い鉄板が必要なので、苦労しているらしいが、ドワーフ族には『鍛冶』や『鑑定』スキル持ちがいるらしい。
魔法は苦手らしいが、スキルが優秀なのは、神が定めし設定のお蔭だろう。
本来は3月から正式採用となる戦闘部隊員だが、すでに単身で入寮する者が出て来た。
食事は提供するが、給料は出せないと説明したそうだが、それまでは冒険者として適当に働いて稼ぐつもりらしい。
侯爵邸戦闘部隊は、魔物戦を想定している。
5人組が2組で1小隊。3交代でダンジョンを攻略する予定なので最大3小隊30名。
一方、侯爵邸警備部隊は要人警護、屋敷の安全確保、今後作られる輸送隊の護衛などの任務を想定していて、門番を含めると20名体制でスタートする事になるだろう。
従って、戦闘部隊寮と警備部隊寮のふたつで運用することになる。
警備部隊には冒険者と違い、下働きの使用人も必要だから、人数的には同じくらいになるかな…。
「おじい様、2棟の寮と6軒の住宅の費用として、金貨30枚を支払って頂きましたが、今後、戦闘部隊と警備部隊で100名弱の部隊を雇用する事になりますよね?」
「うむ。輸送、補給、補修など兵站の事を考えると、そのぐらいはいくかも知れんな」
「しかも部隊は採算が取れるものではなく、純粋に費用ですが…大丈夫ですか?」
「あぁ、費用の事か…実は宝物庫に宝箱があるだろう?あれはダンジョン産の不思議な物でな。火事があっても燃えないのだ。しかもあの中身は金貨と銀貨だ。いま流通しているものと意匠は違うが、大きさ、重さなど全く同じなのだよ」
「つまり、ダンジョン産の金貨や銀貨が、今の貨幣の元になったと?」
「うむ。貨幣の始まりは記録にも無いが、恐らくそうだろう。偶然にしては似すぎている。なんにせよ『グラハム家は交易をしないので、お金が無い』と言われておるのは誤解なのだ」
「今まで使う必要もなかったと?」
「領地を手放し、税の支払いがほぼ無かった事もあるが、お金まで潤沢に有るとなると敵を作り過ぎるからの…だが今はスクロールの販売も始めたのだから、何とでも誤魔かせる」
「なるほど…」
「ところで学園長の話では、来期から入学生が増え、王都で住宅不足が起こるだろうと懸念しておったぞ」
「では、貴族街の区画整理とスラム街の整理などを行った方が良いでしょうね…ちょっと宮廷に行って、父上に相談してきます」
「すまんな、もうすぐ馬車はできあがるらしい。それまで防護砦からの馬車で王都へ向かうと良い」
「はい、分かりました」
侯爵の指示で防護砦から来ている警備隊の馬車で、宮廷までの送迎をお願いした。
屋敷は郊外なので学園までは20分だが、そこから王都中心部までは更に20分以上は掛かる。
城壁の警備兵に侯爵家のペンダントを見せて、行き先であるヘンリー・グラハム子爵と記入すると、守衛室の中の待合室へ案内された。
城壁の警備兵は国王指揮下の侯爵部隊。
侯爵邸の警備部隊はライアン侯爵の私兵なのだが、現状は紛らわしい。
冒険者で構成された戦闘部隊はともかく、警備隊には判別が容易な制服が必要かな…。
王城の中は、王家が連れて来た近衛兵に管理がされているが、宮廷には各出身貴族家が連れて来た少数の警備兵が出身貴族家を個別に守っている。
そのため俺は、父ヘンリーが手配した警備兵が迎えに来るのを待たねばならなかった。




