第96話 冬休みが始まった
学園に出向中のオードリー研究員が開発した新しいミスリルインクは、スライムゼリーと魔石の粉の配合比率や攪拌時間など、最適解を見つけた彼女の功績だと認め、彼女しか製造は認めていない。
俺は彼女に、紙ではなく木に魔法陣を書いて、それを彫ってほしいとお願いした。
彫った魔法陣には油を流し込み十分に浸み込ませたら、準備は完了だ。
ミスリルインクを流し込み、その上から羊皮紙を乗せてバレンでこすり、紙を剥がせば、版画のようにスクロールが生産できる。
オードリーには、新しいミスリルインクのアロー系とスピア系、ウォール系を製造してもらう。
秘匿スクロールとして、アイス系のアイスアロー、アイススピア、アイスウォールも作る。
旧ミスリルインクの生活魔法とファイアーアロー、ウォーターアローの3点は、ジュリア研究員(水)とヒューゴ研究員(火)が製造しているが、製法を版画式に変更できるように指導した。
これら旧ミスリルインクの製品は、南部エリア外や外国向け商品として販売を開始する予定だ。
今までは闇ルートしかなかったのだから、旧複製品の在庫は、一気に消化できる可能性もある。
これで資金を稼ぎ、魔法戦闘力でも優位に立てるだろう。
一方、俺の事業では、高温低湿乾燥機に必要な高温蒸気を発生させる装置に、西部エリアの『燃える水』を研究して使うつもりだ。
まずはローリーとハナには、いわゆるドラム缶を鍛冶屋に発注してもらう事を課題として与えた。
「直径1mほどの鉄製容器で、中に油を入れて運ぶためのもの。蓋は乗せてベルトで縛るタイプでも良いが油が漏れては困る。サンプルを見て合格品なら10本単位で発注を出すつもりだ」
「何事も2人で相談しながら、自分達で課題を達成できる事を期待している」
「え?」
「この本は、父が使っていた学園の教科書だ。南部の森の奥にドワーフ族という鍛冶屋集団がいる事が書かれている。普通なら王都の業者に欲しい物を言えば、業者が発注をしてくれる。だが、この鉄製容器はこの世界には無いものだから、自分達でドワーフ族の所へ行き、発注をしてきてくれ」
そう言って、金貨30枚を渡すと、セバスがこれからの行動のヒントを与えていた。
移動手段、目的地の情報収集、安全第一で確かな宿を取る事などだ。
旅の支度をして、出かけた2人。
「アキュラはなかなかに厳しいの~ 」
「お行儀見習いに来たわけではないのですから、この程度のお使いができないなら不要です…」
入れ違いに辻馬車が3台ほどやってきた。
そういえば今日は、屋敷の近接戦闘部隊の応募受付開始の日だ。
警備室前で止められ、降りて来た者達がチェックを受け終わった頃、ローガン寮長がやってきた。
「これから侯爵部隊の寮へ案内する。中で申込書に名前と年齢を書いてくれ。身体検査と面接がある」
2階建て住宅からも、声を掛けた本人であるギャニオンとライラもやってきた。
今日は、声を掛けた冒険者仲間や、その知り合いが来るだけだそうだ。
早速、街道に出て行ったはずのローリーとハナが戻ってきて、帰りの辻馬車に交渉して乗り込んでいた。
(要領は悪くないようだな…)
部屋に戻ると、昨夜、部屋に引っ越しをしてきたエミリーが何やら片付けをしていた。
同じ部屋とは言うが、そこは貴族の屋敷。
水回りの目立たない位置に扉があり、そこから専属メイドの部屋に繋がっている。
いえばトイレと風呂場が共通なのだ。
家具は質素ではあるものの、ベッド、机、クローゼット、タンスなど、主人が不在の際にはリラックスできる程度の空間が与えられている。
昨夜も一緒に風呂に入り、背中を洗い合って、浴室から出た。
もう既に俺の息子はビンビンだが、バスタオルで下半身を隠して、ベッドの中に入った。
なかなか来ないエミリーを待ちながら、指輪に魔力を貯める。
毎日の日課にはしているのだが、俺の魔力濃度は増えているのだろうか…。
明かりが消えたと思ったら、エミリーがベッドの横に来ていた。
バスタオルのまま、ベッドに入ってきたエミリー。
キスをして、ゆっくりとバスタオルをはぎ取る。
その動作を腰を浮かせて協力してくれるエミリー。
それからは夢中で彼女の全身にキスをして、手でエミリーの肌の感触を楽しんだ。
初めて2人で過ごした夜だ。忘れられない。
侯爵から直接に同室の指示があったのだから、先送りする訳にはいかなかった。
聞けばひと月ほど前から、漢方薬のような煎じ薬を飲んでいたらしい。
恐らくは避妊薬なのだろう。
イスラからの指示だったそうだ。
だから、覚悟も出来ていて、あんなに堂々としていたのだろう。
潤滑油らしきものまで用意していたらしいが、使わずに済んだ。
何と言っても、俺は前世であれやこれやと学習済みだからね。
真っ暗でも対応ができる。
但し、今夜はそうはいかない。
ベッドの中でライトの魔法を使うつもりだ。




