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孤独の人  作者: 神の恵み
異世界編
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95/113

第95話 ジュリア視点


私が泊めてもらった家の1階は、ベッド、クローゼット、鍋や包丁などの家事用具も置かれていて、そのまま生活できる状態になっていた。


こんな新築の家なんて、見た事がない。


食事から仮の家に移動した私に、侍女のイスラさんが部屋の間取りや使い方を説明してくれて、そのあとまきストーブに火を入れてくれた。

そして細かい気配りでお茶の用意をして、木材で作られた風呂に水を入れ、薪で湯を沸かす。


侯爵からもらったカタログでは、この家は金貨50枚とある。

確かに暖房や風呂まで付いて、かつ、2階建てで、この値段は価値がある。

骨組みはプレカット工法という半日で組み立てられる構造物だそうだ。


壁はアースウォールのスクロールが付いているので、土属性が使える上級魔法師がいれば簡単に作れるが、アキュラホームでの研修を受ける事も可能らしい。

別途料金で、土魔法師を派遣するサービスもあると書かれている。


それにしても薪式風呂釜というのも、最新式だろう。

この金貨50枚の家の組立セットが、荷馬車2台に乗るのだから驚きだ。

この家は、わが男爵家の優秀な商材になるだろう。

商品を運び、組み立てまで行えば、利益はかなり得られる。


次の日、朝食を頂いている時に、やっと輸送隊の荷馬車が侯爵邸に到着した。

学校の門番から、手紙を渡されて、私がここに居る事を知ったそうだ。


仮住まいに入れた私のタンスと荷物を荷馬車に乗せて、出発準備は終わった。

輸送隊の馭者ぎょしゃと隊員は、食堂で休憩を取らせて頂きながら、遅れた原因を話していた。


「本来、空の荷馬車からは通行税を取らないはずなのですが、コート侯爵の警備隊が通行税を要求したのが切っ掛けでした。我々がスコット子爵配下のカメロン輸送隊である通行証を見せてもなお、譲らないため、一旦引き返し、スコット子爵にご同行願ったところ、そんな事は要求していないと言い逃れをしたのです」


ライアン侯爵

「コート侯爵はわしも知っているが、まるで金の亡者になったかのようじゃの」


ジュリア・カメロン

「昨日は、本当にお世話になりました。このお礼は後日、父上からさせて頂きます」


「そのような事は良い。とにかく、道中無事である事を祈っておる。気を付けて行かれよ」


出発してエリア境界付近まで、アキュラさまが馬で送ってくれた。



----- ----- アキュラ視点 ----- -----



カメロン嬢を宿泊させるために、急遽、ベッドや家事用具を揃えたが、そのままモデルハウスとして活用することを思いついた。


1番最初に建てた家だけに、設計上の欠陥が見つかり、壁の大きさが1枚違っていたり、ほぞ位置がずれていた場所もあった。


それにしても木組み構造物だけなら、銀貨50枚(大銀貨5枚)にも満たないコストだろう。それにアースウォールのスクロール20枚を付けて金貨50枚。屋根材は、集成材に防水としてワームの皮下脂肪を塗って乾かした板で対応している。


あとは色落ちしない着色剤が見つかれば、屋根もカラフルに出来ていいんだけど…。


一応の事業化が出来た事で、ライアン侯爵は俺の男爵位申請の書類を揃えて王城へ行ってしまった。

久しぶりに宮廷で父と会ってくるそうだ。



北部エリアのモーリン公爵家は、経済的にかなり苦しいようだ。

冬季1~3月のセイウチ漁以外、中央平野部の農業などに関心を示さなかった事が原因だろう。

漁民の後継者も減少する一方で、豊富と言われる貝類採取も衰退傾向にある。


若者が東部や南部に出稼ぎに行き、戻らないのも、地域衰退の原因だろう。

実は南部エリアでは、他エリアの住民は正式な就職はできない。

他エリアの領主との取り決めなのだ。

そうでないと、発展した南部エリアに人口が集中してしまうからだ。


各エリアの領主は、税制に関しての決定権を持っていて、いまだに人頭税を採用している。

但し、観光客や出稼ぎなどの自由民は、その対象ではないが、入市税を取る都市もある。

商人には荷物の価値による通行税が課されるし、冒険者はその収入から天引きされている。


人口と交易が減り、税収も事業収入も減り続けているモーリン公爵家は、近い将来破産するだろう。

そうなった時の事を考えておく必要がある。


まずは戦闘力だが、薙刀なぎなたのような独特の武器で、あのセイウチを相手に戦ってきた民族だが、対人戦闘には向いていない。

最近でこそ、若者を数名ずつ学園に入学させ、騎士や魔法師を育ててきたものの、そのまま帰郷せずに冒険者になる者も多いと聞く。


次にコート侯爵家だが、治安維持といっても、外からの侵略の歴史は無く、戦闘力は未知数。


最後がスコット子爵家。

子爵家という最下層の貴族は、どこの地域でも稼ぎの薄い荷物運びなどの役務を課せられてきた。だが、時代が変わり、情報が価値を持つようになると、広範囲の流通網を持つ子爵家が栄えてきた。最大のリスクは略奪に会う事だから、上位職の公爵や侯爵も信用はできない。


いざという時に重要なのは、逃げ足の速さである。


話が逸れたが、子爵家などは戦闘力として計算には入れないのが正解だ。

結論としては、経済が破綻し、軍事力が無いとなれば、難民となって南と東に押し寄せる?

モーリン公爵家は北海の沿岸沿いに住んでいるので、領域の境界までは来ないだろう。


問題はエリア全域に分散しているコート侯爵の治安部隊が、盗賊になって領域の境界を荒らす事だ。

だとすれば、領域の境界の防衛と難民の受け入れが課題か…。



夕食の時間になり、お爺さんが帰って来て、いつもの食堂の風景に戻った。


おばさん2人とエミリーが配膳を行い、準備ができたところでスタートだ。


「では、夕食を頂こうか…」


「ところで、今日のヘンリーの話では、モーリン公爵家の財政破綻が予想されるそうだ」


「やはり、そうですか…」


「なんだ、アキュラはもう予想しておったのか?」


「拠出金が払えない状態なら、財政破綻は近いと言えますからね」



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