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孤独の人  作者: 神の恵み
異世界編
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第92話 オードリーの研究室


いわゆる天秤式のはかりがあり、乳鉢ほか陶器製の器具がずらりと並んでいる。

もちろんガラス製の器も有るのだが、全て真っすぐな筒型である。

それと魔物の血と思われるものが数種類、ガラス製の容器に入っている。


「ミスリルインクの開発に必要なものは、一応そろっているみたいですね」


「はい。先日、クロエ所長が運び込んでくれました」


「そうですか…でも今回はスライムゼリーに魔石の粉末を溶かして使いたいんです。問題は魔石がスライムゼリーに溶けるのかという点と、効果的な含有量が知りたいですね」


「なるほど…では魔物の保管庫へご案内いたします。こちらへ」


そういってオードリーに連れて来られたのは、厚生棟の地下であった。

この地下倉庫は、食材の保管に2部屋を使っていて、魔物の素材等は向かい側の2部屋に保管されているらしい。


学園の授業に使われる魔物や動物などには食堂の残飯を与えて、かつ、下水処理、廃材処理にはスライムが使われているとのこと。


地下倉庫の階段を下りたところに、排水処理用の浄化槽があった。

汚水処理とは別なので特に異臭などはなく、半透明な大型水槽にたくさんのスライムがいて、その数に少なからず恐怖心がいてくる。


「うわ~ すごい数のスライムですね~」


「はい。溶剤として何かを溶かすのには、とても便利ですし、人間を襲う訳でもないので可愛いものですよ」


「襲ってこないんですね…」


「はい。野生のものはどうか知りませんけど、現在流通しているスライムは無害と言えます」



「まず、試験用の水槽を3つほど手配して、その中にスライムを1匹ずつ入れてスタートしましょう」


説明した試験要領は

1:スライムが魔石粉末を消化するかどうか。

消化するなら飽和するまでの魔石のグラム数を記録し、スライムゼリーを取り出す。


2:消化しないなら、核を潰して直接溶解させる。

溶解させたグラム数ごとのゼリーサンプルを取る。


3:食べ物の残飯に魔石粉を混ぜて消化させる。

うまく消化したらこれを続けて分裂する前に核を破壊してゼリーを取り出す。



「わかりました」


オードリーはメモを取ったあと、学園の取引業者に水槽の手配を掛けてくれた。


「明日には水槽が届くでしょう」


「じゃ、俺も明日から試験が終わり次第、研究室に来るから、よろしくね」




学園の食堂を運営する業者は、侯爵が学園設立時に誘致した元食堂の店主だったのだが、親戚一同を集めて各々が食材を扱う者、調理する者などに役割を分担し、今では立派な会社組織になっていた。


それでも、調理器具などの魔道具や魔石などは自力での調達はできず、ヘンリー子爵(通産担当)のコネを使って分割払いで仕入れていた。

水槽なども同じ仕入れルートだが、研究所の注文分は一括払いで支払われるため、業者も即納体制で応じていた。



貴族階級には『男爵位』というものが存在する。

彼らは国家からの報酬がない準貴族であるため、貴族法に準拠した立場でありながら平民並みの権力しか持たない階級だ。


アウレット男爵家は、王都内に複数の店舗を持つ商家であり、領内輸送(宅配)の業者でもある。


領域外との輸送は、西部、東部、北部の子爵家が無税通行証を持っており、王都からの帰りは空きになった荷馬車を利用して運んでしまうので、南部では領外輸送は採算が取れず、宅配輸送が発達した。


そんなアウレット輸送隊だが、自前の護衛部隊を持ち、盗賊団の逮捕実績もある準貴族の彼らは、宮廷への出入りも許されており、ライアン侯爵からヘンリー子爵への荷物の輸送も引き受けている、いわば顔なじみの業者でもある。


従って、王都中心部の業者から学園への荷物の輸送は、アウレット輸送隊(宅配)に依頼されている。



時間はまだ昼過ぎだが試験日。

人影がなくなった校舎をあとにして、入出門ゲートに学生カードを当てて街道に出た。


人によっては、マントの下に護身用のナイフぐらいは身に付けるのだろうが、俺はナイフの取り扱いさえも上手くはない。



屋敷に戻り、警備室のリックとルーシーに挨拶ついでに聞いてみた。


「ふたりは通学の時の自衛手段ってどうしていたの?」


「えっと、寮生だったので通学はないですが、外出時は2~3人で行動していましたね。ルーシーは?」


「あぁ…私たち女子は必ず馬車を手配していました。あとはバッグにスクロールかな。」


「なるほどな…」


「アキュラさま、もしかして手ぶらなのですか?」


俺は日本人感覚のままで、武器などの携行はしていなかった。

そういえば、部屋には腰ベルトに小さなマジックバッグが取り付けてあり、その中にはポーションが各種入っていた。


「思い出した!」


倒れたアキュラは、腰ベルトのナイフ代わりに使えるような何かを探しに宝物庫へ行き、斬鉄剣を見つけたのだ。

もちろん俺には、斬鉄剣など無用の長物だが…。


「では、手ぶらでも使える詠唱魔法を訓練しましょう!」



確かにその通りだと思い、昼食後にルーシーの指導を受ける事になった。


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