第90話 ランカという少女 その2
----- キャンベル・プレストン -----
宿泊者用の食堂は、2つの長いテーブルと椅子が各4脚用意されている簡易的な食堂だ。
この監督署の建物全体が『電気』というエネルギーと魔法で稼働されていて、照明には魔法が使われている。
この官舎1階には署員用の食堂があり、帝国人の料理人は一般的な帝国の肉料理、野菜スープ、たまに魚介スープを提供してくれる事もある。
『コンコン』
「どうぞ!」
「失礼します!」
「おぉ、ミリー秘書官ではないか…何か用か?」
「いえ、バーナム氏から来客女性のお世話をするように指示を受けまして…」
「そうか、それはありがたい」
「客室に声を掛けて来ましたので、料理を運ばせます」
「うむ」
1階の食堂から出来立ての料理が2階の食堂へリフトで運ばれ、あっという間にテーブルに並べられた。
ミリー秘書官は監督署のTOP3のひとり、バーナム氏の秘書のひとりで、なかなかの働き者だ。
このように、何をやらせてもそつなくこなす。
『コンコン』
料理を並べ終えるタイミングでベルジェロン家の3人がやってきたようだ。
「キャンベルさん、来ました」
「あぁ、どうぞこちらへ」
料理の内容も量も問題なかったようで、お茶の時間になって明日の予定を伝える事になったのだが、ここでもミリー秘書官が滞りなく、予定を説明していった。
「明日は朝食後に皇国内部の司令部に行き、3省の状況モニターの見学を致します」
「まず、簡単に概要の説明をさせて頂きます。魔法省は魔法技術を使って地下資源の調査と魔素の抽出を行っています。実際の資源の採掘は、機械技術を持つ資源省が担当し、水や金属の精製をおこなっています。エネルギー省はプラント技術を使って、石油精製と地熱発電などをおこなっているのです」
「………」
「ランカさんは、理解できますね?」
「は、はい。大体は…」
「ランカ、お前は本当にすごい奴なんだな~ 叔父さんには全くわからん話だ」
「でも、叔母さんには、すごいって事だけは、なんとなく分かるわ!」
「では、明日の朝も、私がお部屋にお声がけ致しますので、安心してお休み下さい」
3人の客人を部屋に送って、今日の仕事はあと1つだけになった。
「ミリー秘書官、ご苦労さまでした」
「いえいえ、あとはレブランさんとエベリーさんに装置を取り付けるだけですね…」
「うむ、そうだ」
「あの~ キャンベル監督官にお聞きしたいことがあるのですが、よろしいですか?」
「なんだ?」
「例の『旧司法省のIQの極めて高い女性の孫』というのが、あの子なんですか?」
「あ~ 私も詳しいことは知らないが、子どもながらにソフィア語の読み書きができ、ベルジェロン家のシスターマグノリアから認められるほどの魔法適性があって、君の説明をすぐに理解できるほど聡明ならば、噂は本当だろうな」
「問題は、その魔法適性の高さだ。ライクリー家の血を引く者なら、IQの高さは説明が付くが、飛びぬけた魔法適性から連想される事といえば、司令長官の遺伝子解析に使われた冷凍精子の残りを不正に持ち出し、人工授精に使った研究所関係者がいた事件だ」
「犯人が取り調べの際に死んでしまって、被験者が誰かは分からない、という事でしたね」
「だが、事故死を疑う声もある」
「(2人に説明をしなくて済んだのは助かります)」
「やっぱり!」
「(とにかく、3教皇のだれかが少女の命を狙っている可能性がありますから、用心をするように!)」
「(ミリー、エベリーさんがベッドに入ったかどうか確認して)」
「(キャンベルは、レブランさんの確認を)」
「了解」
「了解」
客室にカメラはないが、音声は拾える。
執務室に戻って、音声とベッドの重量計から、眠る体制に入っているだろうと推察し、睡眠誘導ガスを部屋に入れて、時間を待つ。
特別な事ではない。
耳の後ろに装置を入れるだけだ。
特殊な注射器で一瞬で入り、2時間ほどで機能し始める。
それにしても、司令部の誰がこんな事をしているのだろうか?
私には全く想像がつかない。
あの指示を飛ばしてくる女性が誰なのか、そのうちに分かる時が来るのだろうか…




