第88話 ソフィア皇国
帝国歴179年4月
グラスノー男爵家に嫁いだオーロラとの間で決められ、進められたリモージュ王国の見学は、入国許可の目途が立たない事が分かって中止となったが、さすがに入国許可や滞在先の確認も取らずに送り出したシスターマグノリアは、レブランとエベリーに叱られ、反省しきりであった。
普段からマグノリア班の修道女たちは、さまざまな場面で気働きで先回りしたり、後処理をしており、つい、いつも通り特段の配慮や指示などしなかったようだ。
そこで、以降の行動は弟レブランに一任される事になり、久々にソフィア皇国に行商に行こうという事になった。
それというのも、ソフィア皇国の主任監督官になったキャンベル氏から、手紙が来たのだ。
レブランも、今でこそ『友人』と呼んでいるが、元は皇子時代の講師のひとりであったキャンベル氏の事を、今でも、先生だと思っている。
そんな、一回り年上の44歳になったであろう先生から、女の子の衣装に関する問い合わせが来たのだ。
結婚して女の子が欲しがっているのか?と、何度か手紙のやりとりをしてみたが、上司である皇国人のライクリー家から『帝国の民族衣装がほしい』と頼まれた事がわかった。
ちょうど、エベリーの衣装の値付けが終わった後でもあり、女の子用の衣装はそろっている。
キャンベル氏からの手紙には『ぜひ3人で観光を兼ねて来てほしい』と書かれていて、こちらの近況も把握しているようで、さすがに主任監督官の情報網はすごいと思った。
3人分の荷物と商品の量を考えて、リスクの高い荷馬車での砂漠道の横断はやめて、船で移動する事とし、荷物はハンドキャリーで運ぶ事にした。
キャンベル氏からの連絡通り、ソフィア皇国のウィニスク港に到着すると、監督署から迎えの箱馬車が2台来ていて、検問所や市内への入門ゲートも停止不要の優先通行であった。
皇子時代と商人になってからの2回、ソフィア皇国に来たことがあるが、国内の様子はほとんど変わっていないように見えた。
まずは宿泊場所であるホテルに行くつもりであったのだが、いきなり、監督署の官舎に連れて来られた。
そして、驚いたことに、入門ゲートで各自サインをして、血液を1滴垂らすだけで、カードキーが出来上がったのだ。
「レブラン・ベルジェロンさまは、こちらを…」
「エベリー・ベルジェロンさまは、こちらを…」
「ランカ・ベルジェロンさまは、こちらを…」
各自にカードキーが渡されたあと
「この官舎にお部屋をご用意させて頂いておりますが、入れる部屋、入れない部屋などあります。所在はカードキーにより個別に管理されますので、カードの入れ替わりや『入室禁止』などの案内板にはご注意願います」
「なにかご質問は、ございますか?」
「………」
「では、こちらへ…」
入門ゲート脇の守衛室から出て、広い階段を昇ると『ミーティングルーム』に案内された。
そこには、先ほどまで箱馬車に積んであった私たちの荷物が運ばれていた。
「よく来てくれた、久しぶりだねレブランくん、エベリーさん。そして、そちらがランカさんだね」
「お久しぶりです、先生!」
「ははは、懐かしい響きだね。ま~とにかく座ってくれ」
ソファーに座るように促されて、3人席に並んで座った。
「聞いたと思うが、この2階のフロアに客室が4室あって、カード番号と同じ201から203までがあなた達の部屋になっている。そして、これから壁に映し出されるこの国の概要説明を聞いてもらって、分からない事があれば質問してほしい」
「それから、持って来て頂いた衣装類は全品買い取らせて頂くので、気兼ねなく観光を楽しんでほしい」
「では、オリエンテーション映像を見て頂こう…」
そう言うと、何もない白い壁に突然、3つの塔が映し出された。
「ソフィア皇国、それは魔法省、資源省、エネルギー省の3つの主要な部署からなる国家である」
「これら3つの省は、司令部の代表者、すなわち司令長官によって統治されてきた。法による統治である」
映像は、3つの塔の中心部の広場に変わり、次に今いる監督署や裁定所が映し出された。
「司令部は法を制定する立法部と、政策を実行する監督署、正しく法の執行が行われているかを判断する裁定所を有し、秩序ある発展を図っている」
「ただし、2代目司令長官の崩御により、内部的には、3つの省(以降は3系統と呼ぶ)の代表者である教皇の3名による合議制によって運営を行っている」
レブラン
「こ、これは、どのようなしくみで…」
「あー この装置のことかね? ん~まぁ端的に表現すると、『ソフィア皇国とは、この大陸に進んだ技術、発展した経済のしくみなどの文明を持ち込んだ人々だ。そして、それらを少しずつ、少しずつ、ガイアナ帝国やアドラン連邦国、リモージュ王国に伝えて、発展を促している。だから、我々は理解できない不思議なもので囲まれている、と思って間違いないし、いちいち理解しようとせず、そのまま受け入れるしかないんだ」
「レブラン、こんな回答ではダメかな?」
「つまり、先生にも説明はできないと?」
「あぁ、説明できない事だらけだ。今回、君たちを招待したのも、私の意思ではない」
「それって…」
「すまん、言い方が悪かった。別に君たちの招待に反対とか言う意味じゃないんだ。手紙で説明したように、上司である皇国人のライクリー氏から、君たち3人を指名した具体的な依頼だったのだ。民族衣装という話はあくまで口実で、彼には女の子はいない」
「しかも…いや、この話はこれぐらいにしておこう。とにかく、ざっくりとしたこの国の統治機構について理解はできたかな?」
「………」
「………」
「はい。わかります」
「えっ? ランカちゃん、理解できたの?」




