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孤独の人  作者: 神の恵み
異世界編
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第87話 グラスノー男爵家の商隊


計画外の船長との交流であったが、話を聞く限りでは、高速帆船はんせんでの沿岸沿いの航路は、特別揺れが大きいわけではなく、快適な航海が期待できるようであった。


「あの陸送隊は同じくトンプソン公爵家の輸送隊なんですよね?」


船長は眉を寄せて言う。


「いえ、彼らはグラスノー男爵家の商隊です。ただし、彼らが『トンプソン公爵家』から指示された物品を調達して搬送している場合に限り、『トンプソン公爵家の輸送隊』を名乗っても良いと許可されています」


「そういえば、シスターマグノリアには『商隊』と名乗っていましたね…」


「そうでしょう。あのグラスノー男爵家に嫁いできたオーロラという元修道女は、しっかり者で何でもできる働き者ですが、見栄っ張りなのが玉にきずで、過去に身分を偽る事件を起こして注意を受けてますからね…さすがにもうしないと思いますよ」


「つまり、もうトンプソン公爵家の荷物を下したので、輸送隊ではなく、『グラスノー男爵家の商隊』という事ですね?」


「そうです。定期的にアドラン連邦国から毒ガエルの素材注文が入りますから、彼らは主にそれを採集しに湿地帯に来ているのですよ」


採集の責任者はグラスノーの次男坊で、今のところ長男が男爵位を継ぐのは揺るがない。

もし、物流事業で食べていくなら、子爵家と縁を結べば良かったのだが、他国の庶民を嫁にもらったが為に、冒険者みたいな、物流業みたいな中途半端になってしまった、と船長は言っていた。


旦那が出世の道を捨て、自分を選んでくれたのだから。

そう思うと、オーロラはシスターマグノリアの人脈を維持、利用しようとするのは理解ができた。


「貴方たちを王国に連れて行くと言っていたそうですが、湿地帯を最短の北東方向に縦断したとしても、2か月は掛かるでしょうし、その間、魔物の狩りに付き合わせておいて、国境で通行許可証が取れなければ『さようなら』するつもりだったのでしょう。ずる賢い女ですよ、全く!」


話によれば、リモージュ王国は森林地帯が少なく、また、森林資源の豊富なアドラン連邦国から低コストでの調達が可能なため、紙の加工業は発達していない。

しかし逆に、定型サイズ以外の紙は手に入らないため、半製品を仕入れてカットする商売は利幅が大きく、船の輸送力を活かせる商材らしい。


翌日、私たち一行は、グラスノー男爵家の商隊が食材や飲料水などを購入して、荷馬車に積み込む姿を横目で見ながらサグネを出発し、ゆっくりと領都リングストンに向かった。


途中、商隊の護衛をしている冒険者の女性アーチャーが単騎で追いついて来た。


「お待ちください! まもなく街道を外れ、湿地帯の真ん中を縦断するルートに差し掛かります。輸送隊が先導致しますので、しばらくお待ちください」


馭者ぎょしゃをつとめるシエンナが答えた。


「我々はこのまま領都リングストンに戻ることにした。そのように『グラスノー商隊』にお伝えいただきたい」


「えっ? 確かにリングストンから湿地帯の北側を通るルートなら重たい馬車でも通行はできますが、我々と一緒でないと、国境の検問ゲートを通れないと思いますよ」


この女性アーチャーは女性騎士であるシエンナを尊敬しているようで、時折、シエンナに質問をしたり、軽食を持ってきたりして、なにかと接触を図っていた。


シエンナは、そんな彼女に少しだけ同情したのだろう。

もう少し、詳しく説明をした。


「私たちはすでにトンプソン公爵家のクルーガー船長と話をして、通行許可証の申請手続きについて確認している。今回はリモージュ王国には入国できないと回答を得ているのよ…まさか私たちに密入国をさせるつもり?」


「ま、まさかそのような!」


「やり手と評判のオーロラ夫人が何を考えているのかは知らないけど、私たちをだました事のつぐないはしてもらいます。貴方はこの件に首を突っ込まないで、このまま引き返して、私たちから『帝都に帰ることにした』と言われたと報告しておきなさい。いいわね? さあ、早く戻りなさい!」


2頭引きの馬車から1頭を切り離して乗って来たのだろうから、彼らの荷馬車は我々には追いつけないだろうし、むしろ湿地帯を突っ切る道へ逃げ込むつもりだろう。


わざとゆっくり進んでいたのもここまで。

早速、領都リングストンへ向かって馬車を走らせ、ギャニオン領の守備隊本部に入って行った。


「シスターマグノリアの守護騎士、シエンナと申す。テイラー隊長はおられるか?」


「はい!しばらくお待ちください!」


テイラー隊長と思われる体格の良い男が出てきた。


「おぉ、シエンナ殿ではないか!久しぶりじゃの…」


「はい、ご無沙汰しております」


「どうした?」


「はい、実は先日通りましたリモージュ王国の『トンプソン公爵家の輸送隊』を名乗っていた者達の件で」


「うむ」


「彼らは南部の都市サグネで積み荷を下し、その後、毒ガエルなどの魔獣資源を回収する目的で湿地帯を縦断しているのです。たまたま襲われて退治するのとは異なり、他国の資源を営利目的で無断回収することを黙認して良いものかと思い、ご報告に伺いました」


「なるほど…確かに自衛のための行為ではなく、そもそもが資源回収が目的での狩猟行為か…わかった。領主さまに確認のうえ対応することとしよう」


「それと、彼らは『トンプソン公爵家の輸送隊』を名乗っていますが、それは彼らの役割であり、身分は『グラスノー男爵家の商隊』なのです」


「なんと!それでは身分詐称ではないか!」


「はい。今回のように、守備隊に身分を錯誤させるような通行許可証の申請は、改めさせるよう指導すべきだとわたくしも思います。あっ、出過ぎたことを申しました」


「いや、あなたの申される通りだ!これもこちらで対応しておこう。領地の異なる者からの申請では、分からぬ事も多くてな~。貴重な報告をありがとう」


こうして、リモージュ王国行きは中止となった。



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