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孤独の人  作者: 神の恵み
異世界編
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第86話 リモージュへの道


帝国歴179年1月中旬



私のリモージュ王国行きに同行するのは、ベルジェロン家の輸送隊として組織された2台の荷馬車であった。

1台目は護衛のシエンナさんが馭者ぎょしゃを務め、私が腕輪による半径100m以内の害意の存在を調べる。

調べるとは言っても、パッシブ能力なので腕輪からの警告があれば知らせるだけだ。


2台目はエンジニアのイアンさんが馭者を務め、弓使いのレイドさんが積み荷の間から後方を警戒することになっている。


この2台目の荷馬車は特殊な構造で、鉄製の車輪に魔物の皮が巻きつけてあるスポーク付きタイヤ4輪が付いている。横方向は幌だけに見えるが、内側には盾が片側に3枚ずつはめ込んであり、引き抜けばそのまま盾として使用できる。


これはエンジニアのイアンさん特製の荷馬車で、耐久試験を兼ねて飲料水や食料、補修用部品など積載重量の大きい荷物を積んで運んでいる荷馬車だ。


当然馬もかっこいい馬ではなく、足の太い運搬用の馬が2頭で引いている。

いわば装甲車仕様といったところか。


ガイアナ帝国内を最短距離で東に進むのかと思いきや、ギャニオン領の北部最大の都市リングストンから南部最大の都市サグネを経て、シスターバイオレットの出身地である港町に行き、迎えの船に重量物を載せ替えて荷馬車を軽くしてからサグネに戻るという。


その理由は、シスターアビゲイルの出身地である領都リングストンから東は湿地帯であり、サグネからの最短ルートでは、重い荷馬車は道にはまってしまうからだそうだ。


当然、シエンナさんとイアンさんが怒った。

街道が整備されている帝都から領都リングストンまでは、わずか3日で到着しているし、ここまでは案内などは要らない。


シエンナ

「ここから4日掛かるルートを往復して付いて行っても意味がないわ。この領都リングストンとサグネの観光でもして彼らと合流するようにしましょうか…」


イアン

「ランカお嬢様、どうされます? 一旦、南部のサグネを見に行きましょうか?」


「ん~とね、まず、荷馬車を軽くする必要があるルートって、南部のサグネから東へ、湿地帯の真ん中を北東方向に突っ切るルートという事でしょう?」


「彼らの説明ではそうでしょうな…」


「どうせリモージュ王国へ行けないなら、その船を見てみたいですね。リモージュ王国の海上輸送といえばトンプソン公爵家の配下でしょうから、どのような大きさの、どのような構造の船なのか…いずれ我がベルジェロン家が輸送船を作る可能性だってあるかも知れませんからね」


「そりゃ~おもしろそうですね~ 考えただけでもわくわくしますぜ!」


「イアンったら、はしゃぐのが早すぎるわよ! では、我々も付いて行くって事で話をしてきますね」


ここ領都リングストンでは、たとえ帝都からの便であっても通行許可証のチェックは厳しい。


そこで、先行した隣国トンプソン公爵家の輸送隊5輌の通行チェックの担当官に、彼らの車両状況を聞いてみた。


「あの輸送隊は隣国トンプソン公爵家の輸送隊だろ?」


「はい、そうです」


「隣国の通行許可証がそのまま通用するのか?」


「いえ、シスターバイオレット名義で申請された帝国の通行許可証であります」


「商隊が運んでいるものは何だ?」


「1輌は紙ですね。あと1輌には本、酒、衣服などです」


つまり5輌編成の先頭と最後には護衛と称する冒険者が乗り、中央2輌の荷馬車に貿易品、1輌は箱馬車の構成なのだ。


おそらく、荷物を軽くして湿地帯の真ん中を通るのは、湿地帯の毒ガエルやワニ皮などの資源採集をして戻るつもりなんだろうというのが私の推測。


翌日に南部の都市サグネに向けて出発したが、この街道もきちんと整備されていて、長距離を3日間で走破することに全く問題は無かった。


このサグネから港町までは距離は近いのだが、街道が整備されておらず、丸1日掛かる。

ただ、港町から来る荷馬車は無く、すれ違いに苦労する事がなかったのは幸いだった。


船は全長は30mほどの、初期のキャラベル船のような2本マストの小型帆船だった。

荷馬車に積んであった大きい方の木箱は、1m×2mのカットしていない半製品の紙が入った木箱だった。

もう1台の荷馬車の日用品類を詰め込んだ木箱を船に積み込んでいる間に、船長らしき人物に話を聞いてみた。


シエンナ

「はじめまして、私はガイアナ帝国ベルジェロン公爵家のシエンナと申します。少しお話を伺ってもよろしいでしょうか?」


「あぁ、私はこの船の船長を務めておりますトンプソン公爵家の輸送隊、クルーガーと申します。どんな事でも結構ですよ…」


服装から想像していた通り、この人が船長であった。


「このあとはリモージュ王国へ戻られるのですか?」


「はい、南部のリゴレット港という本拠地へ戻ります…この船なら3週間で帰れますから」


船長の話では、船の長さと幅の比が3.5対1で、高い速力と機動性を両立させた小型の船なので、座礁の危険性が低く沿岸の浅瀬や河川を探検することも可能だそうで、今回は試験的な運航だそうだ。

本来なら、試験運行であっても、もっと荷物を載せたかったらしい。


「我々4名をリモージュ王国へ運ぶ事は可能ですか?」


少し驚いた印象のクルーガー船長が、何やら考えたあと


「もちろん可能ですが、公爵の通行許可証はお持ちですか?あっ、通信の魔道具がありますから…でも証明書の提示やらが必要なんで、通行許可証の取得には時間が掛かるでしょうな~。それと、客船ではないので提供できるのは基本的に部屋だけです。食事や水、調理も自給自足が条件という事で良ろしければ、という条件ですが…」


つまり、クルーガー船長は、ベルジェロン公爵家の帝国での地位について理解していて、トンプソン公爵家としての対応をしようとしているらしい。


「なるほど…では今回はあきらめる事にしましょう」


それから、正式な乗船、入国の許可手続きに関する回答が得られるまで、互いの国の簡単な図に、都市や産業などを書いて教えあう事が始まった。


その日のうちに回答が来て、当然、文書での申請が必要ではあるが、通行許可証の申請は歓迎するとの返事であった。


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