第83話 連邦国成立秘話
10~12月の2学期も残りわずか…。
アドラン連邦国が成立したのは、今から360年ほど前の話。その頃、東の隣国で3つの地域が1つになって『リモージュ王国』が出来た。この通知を受けた旧連邦国地域の豪族たちが同じように『国』を作って、規模を大きくして対抗する事に合意した。
だが、リモージュ王国のように工業都市、農業都市、海運漁業と優位点の異なる都市の集合体ではないアドランでは、東西南北の豪族たちは対等な連邦国を目指し、国王を1代限りの輪番制としたのだった。
ここ南部エリアの北側に広がる広大な農地を支配していたのが、豪農と呼ばれるウォーカー家であった。農具や食肉などの物資を他領との交易で手に入れていた事もあり、国を設立する資金提供に積極的に名乗り出て、南部エリア領主と公爵位を得た。
一方、南部エリアの南側にそびえるフット連山の麓から広がる森林地帯と、山から流れる清流に恵まれた地域を治めていたのが、豪族グラハム家であった。
木材の供給源でもあり、食肉の豊富な地域でもあるのだが、北側をウォーカー家に抑えられ、陸続きの西部エリア以外との交易は発達しなかった。
一方、南側の山麓や、西側の森林地帯から出没する大型獣や魔物に集落を襲われる事に対抗するため、領地を防壁で囲った限られた土地に住んでいたため、早くから2階建て、3階建ての建築が発達していた。
連邦国構想が具体化してくると、国王の住む王宮と国の行政機関である宮廷が必要になり、グラハム家は、領地としていた土地を提供し、優れた建築技術を生かして王城、宮廷、城壁を建設して資金を得たのだった。
グラハム家は支配地だった防壁の町を王都として国王に献上して、宮廷貴族としての地位(子爵位)を得たのだが、連邦を構成する4公爵家は領土を手放すこの行為をいわゆる『田分け』行為だと嘲笑った。
だがこれには考えがあった。
国王の支配地になった王都の人頭税は国王の唯一の税収となり、領地・領民を失ったグラハム家には1代限りの免税特権が与えられたのだ。
つまり、免税期間内に収入を得る事業なり、領地を確保する時間的余裕という意味であった。
通例として、公爵家代表は国王就任期間を長く維持するため、成人してすぐの者を送り込んでくる。
しかも国王の職は、領地の運営よりも優先順位が下位にあるため、領主争いに破れた者が身内を連れてきて窓際生活を送る、それが代々続いているのだ。
そんな単なる名誉職の国王に代わり、グラハム子爵が王都の経済運営を担当し、グラハム侯爵が育てた騎士団が治安維持部隊として国王の指揮権の下に入ったのだった。
新しく出来た王城や宮廷は城壁の中にあるとは言え、王都内には大勢の貴族たちが食事をしたり、買い物をしたりするわけで、当然、貴族間のもめ事や領民とのもめ事も発生する。
そこで、『貴族法』の制定をもって、各地から赴任した貴族の取り締まりや貴族間の調整、仲裁を宰相の代理として実務を担当する『法務担当』には、東部出身のキング子爵家が担当した。
検察官に相当する職務だが、裁判長はもちろん国王、または宰相が代理を務める。
これら貴族の役割と権限の範囲に関する規定を定めた法が貴族法である。
貴族法では、政治を担当する公爵、武力を担当する侯爵、物流を担当する子爵が規定されている。
貴族は、国家から報酬ももらう立場であるが、公爵だけは国税という分担金を拠出する立場でもある。
だからこそ、王都の人頭税が国王の運営財源になる事は、4公爵の負担軽減にもなり歓迎されたのだ。
面白くないのは南部エリアのウォーカー公爵家だけだ。
旧グラハム家の領民から人頭税が取れないばかりか、王都に運搬される資材からも通行税が取れない。
また、この貴族法は一般人を縛るものではない。
婚姻に限って言えば、本人同士の合意書と証人さえいれば夫婦と認められる。
これら慣習に関するものは、いわば民法に該当するのだが、貴族法で明文化された経緯がある。
例えば、売買が成立する前に破損させてしまった場合の損害賠償も規定されている。
逆に、契約書や証書にしない限り、非嫡出子は認知された庶子であっても、相続も補償もされない。
だから、契約に詳しい父上は忙しい。
結局、王都はグラハム領土を譲り受けたものであり、領民の意識もグラハム家の屋根の上に、さらに国王の屋根が出来た程度の認識でしかなかった。
従って、王都の実質的な戦闘部隊はグラハム侯爵家とされ、国家財政から報酬をもらう立場になった。
そういう理由でグラハム家は戦闘部隊としての侯爵家、宮廷官僚としての子爵家の2つの爵位を持つ事になった。
建国したばかりの260年前には、考えられない貧乏くじだと思われた王都建設だったが、現在の東京と同じく、優秀な人材の官僚たちが集まり、彼らの報酬を自らが決め、自分達の住環境整備を行政として実施していった。
当然、静かだった田舎の町は、人口が増加し、商業活動も活発になり、それが国王の人頭税に反映された。
やがて、北京の三環路、四環路、五環路と都市が大きくなっていったように、防壁は外へ外へと拡張されていき、現在の姿となった。
その工事は全て防衛担当であるグラハム侯爵家が担当するのだが、発注は通商産業(内政)担当のグラハム子爵。
合理的な価格とは言え、木材資材、人件費、工事手数料などで潤ったのは当然。
今では組織上、国王配下の騎士団という戦闘部隊だが、平和時には建設公団みたいなものだ。
屋敷に戻ってくると、屋敷の裏の森の木が切られて開かれた空間になっていた。
指揮をしているライアン爺さんに聞くと、この場所に訓練場を作ると言うではないか。
「訓練場?」
「そうじゃ、ギャニオン率いる近接戦闘部隊と、警備隊のための訓練場だ」
「なるほど」
森を切り開いている騎士団と警備隊の2人に集まってもらった。
警備隊副隊長のルーシーは魔法師なので、彼女に正しいスクロールの使い方を実践してもらう事にした。
「そう。この外周に有る四角い部分に魔力を流して…」
「あっ、照準が見えました!」
「そう。そこに魔力量ゲージが見えるでしょう?」
「はい」
「そこに魔力をフルに充填して、加速は1mから15mまでに設定して発射してみて!」
「はい。いきます!」
すると、スクロールから発光してすぐに光は消えてしまった。
スクロールを広げてみると、途中でミスリル線が切れてしまっていた。
これ以上の実験はできないので、今日の講習はここまで。
このあとの空いた時間は、集成材を使った隊員寮の構造を考える事にした。
基本設計は3階建て。
1階に必要な物は、大型キッチン、大型食堂、食糧庫、シャワー室、寮長家族の部屋。
2階から上が客室。
通路を挟んで左右が部屋。
各部屋にトイレとシャワー、クローゼット、ベッド、机。
この建物を真横から見た図面(立面図)や、断面図で確認しなければならない。
1階の柱を少なくした分だけ梁を太くして、壁面の筋交いも多く入れて、壁面で支える構造にした。
建物の裏に汚水処理のための浄化槽を埋めて、内部にスライムを入れて一次処理とする。
最終槽には定期的にクリーン魔法によって除菌する構造にした。
これで川に排水を戻しても大丈夫だろう。
2階は2人部屋が5部屋、1人部屋が3部屋、大部屋(1人部屋2つ分)にした。
3階は通路を挟んで2人部屋が左右に各5部屋の設計。
照明器具は、いわゆるライトの魔道具だ。
各部屋の排水管を地下まで引き、裏の浄化槽に繋ぐ。
こんなものかな…。




