第81話 生活魔法
翌朝起きてから、準備運動をして屋敷の周囲を5周ランニング。
随分と体力も持久力も戻って来た気がする。
部屋に戻ってシャワーを浴び、7時半の少し前に合わせて1階に降りると、エミリーはキッチンで牛乳を温めていたようだ。
侍女のイスラ、執事のセバスは既に席についている。
「おはよう」
「おはようございます、アキュラさま、ライアンさま」
「おはよう、みんな揃っているみたいだな…」
爺さんが朝食に手を付けると、朝食の開始。
白パンとシチュー、俺には追加で牛乳がある。
朝食が済むと、昨日持ち帰った自作教科書を持って、屋敷を出る。
正面ゲート横に警備詰所があり、警備隊のリックとルーシーに挨拶をする。
2人は屋敷に建てた2階建てに入居する際に、婚姻の届けをした新婚夫婦である。
屋敷前の街道は、馬車3台が余裕で通れる幅があり、西の防護砦から王城の城壁まで続いている。
魔物あふれが発生する以前から、防壁外で動物狩りを行う狩猟民も多かったのだが、魔物には対抗できなかった。
あれから20年が経過して、防護砦は西、南西、南と3方向に建設され、街道に繋がっている。
学園に到着して入出門ゲートに学生カードを当てる。
学生カードには『1C教室-魔法1』と表示されている。
入学時点で魔力は測定されていて、最低基準の5は有しているはず。
まして貴族なら平均的な20~30程度はある。
そうは言っても、今日は生活魔法からのスタート。
魔力消費は1~3で、魔力によってその大きさは変わる。
少し早めに教室に来たのだが、学生カードに席は指定されていて、判断に迷う事はない。
1学期の成績がBだった俺は2列目の窓側席。3人机だが、貴族は2人で使うのが一般的だ。
「おはよう」
声を掛けて来たのは、2列目中央席。
「確か君は…」
「トミー・ウォーカーだ、よろしく」
「あぁ、俺はアキュラ・グラハム、よろしく」
それにしても挨拶なんて、珍しい。
この男は、南部エリアの領主、ウォーカー公爵家の分家筋の男だったはず。
領主といってもここ20年、グラハム名誉侯爵の研究所がスクロールの複製品を作れるようになり、グラハム侯爵の方が上に見られる事が多いのが実情だ。
(この男が俺に接触してきた目的は何だろう?…)
授業が始まると、オードリー講師の生活魔法に関する解説が始まった。
この講師の服装は白衣で、胸にライアン研究所の刺繍があった。
なるほど…。
習得を早めるために、スクロールを提供しているのだろう。
だが、講師まで派遣しているとは知らなかった。
生活魔法の種類はクリーン、ファイアー、ウォーター、ライトの4種類。
発動距離は最遠で1m、消費魔力は1から3までとのこと。
魔力量が効果範囲や持続時間、発現量に影響するそうだ。
スクロールを使い魔法の発現を体験する事で、より具体的なイメージができ、習得が早くなる。
俺はすでに屋敷の宝物庫で4種類の習得は終わっていたが、生活魔法のスクロールは一般に販売もされていて、貴族ほどの財力があれば当たり前の事らしい。
スクロールの体験使用により、生活魔法の発現ができるようになれば、課題は終了となる。
とりあえず、みんなと同じように、クリーン、ファイアー、ウォーター、ライトを発現させる。
広げた手の平の親指以外に、それぞれ直径1㎝くらいのガラス球のような生活魔法が浮かぶ。
「グラハムさん、普通はどれか1つを発現させるものですよ…」
クスクスと小さく笑いながら、講師から注意された。
あわてて、すべてを消した。
(そうだったのか…)
しばらく窓の外に目をやり、時間をつぶすと、1時限目終了の鐘がなった。
学生カードには『1F教室-魔物』と表示されている。
休憩10分をはさんで、教室に移動して窓の外を見ると、薬草園があった。
そういえば、学園内に『薬草クラブ』という部活があった。
育てるだけでもいいし、加工ができれば尚良い、という主旨のようだ。
授業が始まると、金属籠に入ったホーンラビットを持った講師がやってきた。
危険度レベルは1だが、スライムの危険度2とは整合性が取れていない気がする。
少し突いて、ホーンラビットの目が赤くなるところを披露してくれた。
籠に入っているので、跳躍の前動作は見る事はできないが、黒板で図示してくれた。
見たくはなかったのだが、毒ガエルの見本もある。
危険度は3。解毒剤を持っていない場合の危険度だろう。
こちらはアクリル容器のような中に入っていて、毒を出されても大丈夫な配慮がされていた。
授業終了の鐘と同時に、ファイアーアローがホーンラビットに向けて飛んできた。
打ったのは例のトミー・ウォーカーだったが、金属籠には防護魔法が掛けてあり、ファイアーアローが霧散して事なきを得た。
「何をするんですか、ウォーカーくん! 授業妨害として報告しますから、そのつもりでいなさい!」
「たかがホーンラビットの1匹や2匹、いつでも弁償してやるよ!」
『俺は攻撃魔法が使えるんだ!どうだ!』というアピールなのだろうか…。
魔物講師は、元冒険者か狩人あがりが多く、貴族位の講師は決して担当しない科目だ。
差別意識もあるし、魔物に対する潜在的な恐怖心が影響している気がする。
詠唱もしていなかったようだし、スキルの付いた杖でも使っているのだろうか…。
俺は魔法陣による発動しか知らないから、呪文による魔法は全く知らない。
昼食を食堂で取り、午後は昨日同様『グラウンド-基礎体力強化』である。
確かに1年生は体力作りが1番だ。
俺のやっている準備運動のあと、グラウンドを6周と1周増えていた。
学園から戻り、魔法陣の教書を持って、机に向かう。
エミリーにお茶と菓子の用意を頼み、早速読み始める。
最初のページには、この書を記したマーカス氏の攻撃魔法に関する注意事項があった。
魔力には、その量に起因する圧力(初速)、継続時間に起因する加速度、濃度に起因する質量の違いが記されていて、この3つの要素に注目するように、と書いてあった。
1項目目はファイアーアローの魔法陣である。
外円部の四角い部分が、魔法を起動させて各種の設定を可能にする部分。
最大射程が50m、加速部は手元1mから15mまでと解説が書いてある。
魔力量は初速、魔力濃度は熱量になるようだ。
その内側からは、魔力から魔法に変換される術式のようで、四角い起動部に魔力を入れないと設定は省略されて、加速なしで発動してしまうようだ。
倉庫からファイアーアローのスクロールを持って来て、窓の外に向けて、起動部に魔力を入れる。
すると頭に設定画面と魔力量ゲージ、照準が浮かんだ。
起動のコールをやめて、魔法陣の起動部以外に魔力を入れると、1秒ほどでファイアーアローが飛び出した。
問題は、魔力量を増やす方法と、魔力濃度を増やす方法だろう。
それによって、大きく威力が変わる。
ページを進めて、ウォーターアローの魔法陣を見てみる。
更にページを進めて、アイスアローの魔法陣を見てみる。
この3つの魔法陣の違いは、四角い起動部が違うだけだ。
どの属性の魔力でも、この起動部から魔力を流せば4属性の魔力に変換されるのだろう。
とにかく、アイスアローの魔法陣を複写する事にした。
10枚写して、自分なりに成功といえるものは2~3枚。
だけど、鉛筆で書いたものなので発動はしない。




