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孤独の人  作者: 神の恵み
異世界編
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第73話 ライアンの仲間たち


リハビリを始めてから3日が経った。


名誉侯爵の屋敷だけに、広大な敷地を有している。

屋敷の裏には森が広がっており、ここが王都の防壁内でもかなりはしである事を示唆しさしていた。

侯爵はこの森を切り開いて、ここに住宅や寮、訓練場を建設しようと考えているようだ。


地方都市に散らばる冒険者仲間や愛人やらの信頼のできる連中を集める算段らしい。


離れの部屋も豪華である。

姿見の鏡は無いが、大きな化粧台に半身を映す高さの鏡が付いている。


採寸用のメジャーがあるので、大体を測ってみると身長は1.75mほど。

呼び名は不明だが、単位はmで感覚的にはメートルに近い気がする。


アキュラは16歳というが、生まれた時に1歳だから、満年齢でいえば15歳か…。

日本人とは違い、全体に筋肉質で胸板も厚い。



俺の心配事は国立学園での振る舞いだけだ。


この世界に召喚される以前は、私立中高一貫校の総合学科2年に在籍していて、先行学習に熱心であったため、この世界の学習内容に不安はない。


いじめ対策として合気道道場に通い1級試験にも合格していて、基礎体力には自信があった。

そのあきらの体格と比較しても、このアキュラと言う人物は、数段上の肉体的なポテンシャルを有していた。



朝起きてから、準備運動。そのあと屋敷の周囲をランニング。

1周しか出来なかったが、4日目で走れただけ立派だと思う。

裏の井戸水をかぶって、汗を流す。

以前の記憶では、6時半には起きていた。


使用人用の裏の出入口には、左右に小部屋が4つ、簡単なダイニングキッチンがある。

だが、馬も飼っていないし、馬車もないこの屋敷には、住み込みの下働きはいない。

そのため、この小部屋で靴も下着も脱いで、体を拭いて着替えている。


「エミリー!」


「はい」


そう返事して、着替えを持って小部屋に入ってくる。

アキュラの常識では、着替えは専属メイドの仕事である。

エミリーの持つ乾いた麻の手ぬぐいで、ふたたび体を拭いてもらう。

麻のシャツを後ろから着せてもらい、足を上げてパンツを穿く。


シャツの長さが充分にあり、後ろからパンツを穿かせてもらう事に、恥かしさは感じなかった。

この世界は中世ヨーロッパという印象だが、ゴム素材もあるし、綿や絹の素材もある。


屋敷の玄関には、馬車が方向転換するための円形のロータリーと呼ぶべき施設がある。

大きな玄関から中に入ると、広い空間が広がる。

向かって右側には食堂、会議室、着替えや打ち合わせに使える控室(小部屋)が5部屋ある。

向かって左側には、高位使用人の執事と侍女が住む部屋に続いている。


高位使用人の部屋の裏側、つまり玄関の反対側に面する区画に、いま、俺とエミリーが居るわけだ。


この区画から通路を進むと、高位使用人区画を通らずに、本館のメイン通路に出ることができる。

ダイニングからキッチンに入り込み、どんな構造になっているのか見たかったのだ。

アキュラの記憶では、キッチンの中に入った事などなく、知らない事だらけだ。


キッチンの一角に耐熱レンガで固められた部屋が食糧保管庫になっていた。

冷蔵の魔道具があるのだろう、かなりひんやりとしている。


棚には10リットルたるが複数あり、牛乳と書かれた樽から陶器のコップに1杯分ミルクを拝借はいしゃくして、ダイニングに戻る。

包丁などの貴重な道具は、鍵の掛かる引き出しにしまわれていた。

調味料などは棚の中だ。


今日は侯爵も侍女も執事も皆、地方都市との連絡のため不在だそうだ。


エミリーとふたりで朝食を食べ終わった頃に、運動場みたいに広い裏庭の中央に木材と石が置かれ始めた。

離れの3階から見ていたが、大工が地面を掘り、基礎を作っているようで固めた上から石を埋め込んでいる。

基礎の形から推察するに、組み上げる建物は細長い倉庫のようだ。


職人に聞くと、木材置き場だそうだ。

屋敷の裏の森を切り開き、その木材を使って家を建てるという。

なんと気の長い話か。



午後になって、2人の騎士が屋敷にやってきた。


「ライアン侯爵からお手紙を頂き、防護砦からやって来ました私、リック・ターナーと」


「ルーシー・クレメントでございます」


「それは御足労でした… あいにくライアン侯爵は外出しておりまして…」


「それは承知しております…門番の配置と警備隊を新設するための施設を作るため、大工と打ち合わせをさせて頂く事になっておりまして…」



屋敷のエントランスで話をしていると、執事のセバスが戻って来た。


「すみません!お早い到着ですね~ 遅れてすみません」


「セバスさん、ちょっと早く着いてしまいました。申し訳ありません」


「いえいえ、丁度良いので紹介いたします。こちらが侯爵の後継者、アキュラ様です」


2人が驚いた顔をしたあと、いきなり敬礼をした。


裏庭で大工と打ち合わせを済ませたあと、食堂で話をしたところ、2人はともにライアン侯爵から声を掛けられて学園に通った特待生であった。


入学以来、ずっとライバル的な存在であったが、3年生のダンジョン実習でターナーがクレメントを助けてから、リック、ルーシーと名前で呼び合う親しい関係になったそうだ。

現在は交代で砦に勤務する騎士団の指揮官である。



だが、今回の警備隊新設の話を侯爵から依頼されて、騎士団を退団して屋敷にくる事にしたそうだ。

話しが終わって皆で門扉もんぴの所まで移動した頃には、詰所の基礎部分が地面に書かれていた。

大工によると基礎から上の構造はこれから考えるとの事。


だったらという事で執事のセバスに、大型のカエル、サンドワームなどの魔物素材の仕入れを依頼した。

どちらも乾燥すると固まる素材であると学園の授業で習ったので、この接着剤を使って詰所を試作したいと考えたからだ。



国立学園は元々ライアン爺さんが設立に尽力した学校だ。

当初の設立目的は、侯爵部隊の戦闘員養成学校だった。

だから立地も屋敷から10分の王都西側に建っている。


卒業生が世の中に出ていく頃には、その知識、技能、そして集団戦闘訓練により、魔物との戦闘でも簡単に死なない戦闘員が養成されている事が認められ評価された。


そして、各エリア領主からの要望により『国立学園』に昇格させて各エリアからの生徒も受け入れるようになった。


だが、魔物溢れから20年。

汗と泥にまみれた養成所から、嫁探し、婿探しの場に変わりつつある学園は、来年度から完全に男女共学の環境に変わるらしい。


それもあって、屋敷の裏庭に訓練施設を作る事にしたのだろう。


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