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孤独の人  作者: 神の恵み
現代編
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第68話 毒

雑居ビルの地下にあるネットバンクの事務所。


「本人はうれしそうにしているが、娘に愛人にならないかと言った真意を教えてもらえないか?」



『愛人』と言った事の意味を、正直に説明した。

まず、彼女は自分の身体の傷の事で、彼女自身が『結婚』という事に忌避感きひかんを持っている。

おそらく、自分自身の中に、新婦の定義、こうあるべきという条件でもあるのだろう。


だったら、結婚と言う定義から外れれば、彼女は自由になれると考えた。

そして愛人。

これは彼女の定義では『都合のいい女』という事らしい。


そんなみにくい、あこがれには成りえない立場なら、体の傷など、どうって事はないと割り切れるなら、それでいいのではないか?と思う。

それともうひとつ、『都合のいい女』なら、何かの宴席に同伴する必要も無ければ、家事からも解放される。


俺の周囲からも、親戚からも、親からも反対される事はない、自由な立場。

結婚していないのだから、離婚なんて考えなくていい。

子供ができれば認知すればいいだけの事だ。


最後は、俺の立場が不安定な事だ。

正式な高橋ホールディングスの相続者は、陽菜ちゃんであり、俺は中継役。

独立までには、資産は作るが、どんな人生になるかは分からない。



ここまでの話を聞いて、京極社長と勝田の親父さんは納得できなくても、理解はしたようだった。

京極社長が感慨深く言った。


「俺のように流され続けているのもどうかと思うが…君は考え過ぎている気がする。だが、それも人生だ」


そして、勝田の親父さんは、美香が彩花と離れても大丈夫なように努力はすると、約束してくれた。


「いきなり切り離す訳にはいかないが、当分は君の所の警備保障の世話になるよ。準備ができたら、その携帯から連絡をくれ」


「分かりました」


地下の部屋から通路に出て気が付いた。

この部屋のドアには、ノブが無い。

チャイムを押す以外に、扉を開ける方法がないのだ。



17時になってしまった。

ま~ 護衛の仕事を取ったんだから、営業だと思えばいいかな。

携帯で執事さんにメールで、いまから帰宅するので、夕食のお願いをした。

執事に食事の手配を依頼するのは初めてだったが、快く引き受けてもらった。


邸宅に着いたのは18時。

事務棟に行き、決裁申請画面をチェックしてから、小弓おゆみ警備保障の新入社員採用の件が、どの程度手続きが進んでいるかもチェック。


そしてネットバンクの護衛業務の件を専務に伝達。

新入社員研修の日程消化の目途が立った時点で、京極社長あてに連絡を入れる事にした。

契約書はそのあとでいいだろう。



そして邸宅に戻った。

1階で食事を済ませてから、2階の自室に。

今日は緊張したせいか、疲れた。


シャワーだけで済ませて寝る事にする。

だるい。


部屋に戻り、気になっていた勾玉を学習机の引き出しから取り出す。

久々に手に取り、少し指で磨く。




夢を見ていた。

あの武士の夢だ。

大きな屋敷の中にある道場で若手の相手をしているようだ。

激しく体をぶつけあう勢いで、木刀を振る。


『ガツ!』

『カンッ ガツ!』


いや、後ろにも若手がいる。

2人を相手にしているのだ。


「吉岡! もっと早く見切れ!」


師範しはんが俺に指示をしている。


『カンッ ガツ!』

『カンッ ガツ!』


「吉岡! もっと早く、もっと早くだ!」


横から投げ縄のような物が足元に投げられ、身動きができなくなった時、胴に一撃を食らった。

夢の中のはずだが、じわじわと腹が痛み始めた。


メッセージが頭に響いた。


『寿命を10年使い、毒物除去をおこなっています!』



夢の続きを見ていた。

あの武士の夢だ。


横に現れたのは、城代の浅見あさみ利信としのぶ殿であった。


「吉岡の容態ようだいは、いかがです?」


「うむ、思わしくない。すでに毒が全身にまわっているようだ」


「どういう事でしょう?」


「詳しい事は分からぬ。稽古途中であったのに毒などと…」




「あきら…あきら…」


頭が痛い…目を覚ますとベッドの周囲には、医師と思われる人がいて、無表情で俺を見ていた。


6時半には起きてくるはずの俺が来ないのを心配して、起こしに来た執事殿が、すぐそばで声を掛けても起きない俺を心配して、かかりつけ医を呼んでくれたそうだ。


体温や血圧、呼吸は正常で、苦しんでいるようすは無いため、意識障害を懸念して体を無理に動かさず、会長が声掛けを行ったところ目を覚ました、という経緯であった。


だが例のメッセージは、俺の頭の中で悪い知らせを報告していた。


『毒物除去が間に合わず、内臓機能を回復できません…』


そしてこの日、総合病院に運ばれた俺は、集中治療室に運ばれた。



***** 有本蘭 英名Ran Turner Arimoto *****



高橋ホールディングス会長からあきらの父、そして祖父の有本英二へと、あきらの容体が知らされて、私の元にも連絡が来た。


会長の話では、あきらは病気じゃなく、執事が入れた毒のせいで倒れたとの事。

執事は高橋一族の問題児なので、世間に出せないという理由で、執事という役目を与えて、この屋敷に閉じ込めていたようなものだったそうだ。


たまたまあきらが高橋になり、この屋敷に越して来た。

そしてあの日、食事の用意を指示された事をチャンスととらえ、レストランで作られレトルトにされた高橋家特製の安全なはずの食事に毒を混ぜたらしい。


事件当日の調理器具や食器類から毒が検出されて、逮捕されたそうだ。

まだ、動機は不明で、取り調べはこれからだそうだ。


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