第67話 護衛任務
その日の昼食は、やはり理事長室で取ることになった。
「水戸講師は結局、中等部の教務主任に戻すんですか?」
「ええ。どうして新しい教育のやり方、理念が理解されないのでしょうかね…」
「理事長は自営とは言え、平社員から製薬会社で働いて、主任研究員、そして専務まで勤めて、兄弟に追い出されたんでしょう?」
「よく知っているわね…」
「そんな、実社会でねたみや、誹謗中傷、最後が裏切り?に遭って、理事長に落ち着いた方と、実社会に出た経験のない教員免許が頼りの人じゃ、価値観が違い過ぎるんですよ」
「ま~ 社会経験のない人では、総合学科の主任は務まらないでしょう。逆に普通科なら塾の講師を主任に雇う方が大学受験に効果的なのでは? 総合学科は、企業で人材育成に携わった事のある人がいいですね」
「あっ!郷田課長ってソフトウェア開発のベテランでしたね…譲ってくれる?」
「もちろん、本人がいいなら、いいですけど…」
話は本人も含めてとんとん拍子に進んで、来年度から情報課講師として教壇に立つことになった。もちろん、企業内の人事経験(課長職)もあって、どういう人物像が理想的かを知っているのが強みだ。
来年度までに、保安課の管理職が必要になった事を受け、高橋HCの業務システムに募集を掛けるとともに、合気道部設立の件もあり、久しぶりに道場を訪ねる事にした。
蘭の指導をしていた女性で、とても礼儀正しい人がいたのだ。
話を聞いてみると、都内在住の人では収入的に成り立たないみたいだ。
そこで地方在住者で、女性の合気道指導の経験がある人物、及び3名ほどで保安の仕事が出来る人を、女子寮に居住して頂く事にすれば、双方ともにメリットがあると分かった。
紹介して頂いたのは、地方の道場を文化センターに出していた方で、地方財政の悪化により、文化センターの建て替えが困難となり、すぐでは無いが移転が必要な事情を持っていた。
従って、話は簡単に進んだ。
道場のメンバーでもある現在無職の女性3名と指導者1名の合計4名が確保できた。
とにかく、全員に小弓警備保障に入社頂き、警備員資格を取って頂く。
その間は小弓警備保障の寮だが、その後は派遣先の学園女子寮へ移動し、合気道部が設立される来年度からは、講師兼任として活動頂くことで、理事長と合意ができた。
女子が多い学園では、女性警備員も必要なのは事実。
あとは、元々の保安課の男性職員1名の構成になる。
合気道の実演披露については、計画の日時に彼女達の都合が付かないため、若干、延期となった。
久々に『災い転じて福となる』だ。
職場の管理職としては、当分は郷田課長に努めてもらい、新しく採用した徳永早紀課長には、管理職研修として、労働基準法の勉強もしてもらわなければならない。
ん? 徳永? まさか…履歴書を見直したが祖父の欄などは無い。
彼女は23歳だから+25で48。+25で73。
徳永さんは66歳だから、孫の可能性は低いだろう。
考えすぎた。
このひとの趣味はバイクだそうだ。メンバーはツーリング仲間。
若いころは白バイ隊員に憧れたそうだ。
学園の警備員という事で、バイク事故を心配する親たちから安堵の声が掛けられたそうだ。
学校を出て携帯を見ると、勝田の親父さんからのメールが入っていて、話がしたいとの事。
ネットバンクの消費者登録や融資申し込みは機械の端末で行われるため、営業所はない。
指定された場所は、雑居ビルの地下。
怖すぎるだろ?
まるで、やくざの事務所に呼ばれた感じ。
階段を下りていくと、意外と廊下は明るいが、扉は鉄製の2重扉。
チャイムを押すとしばらくして内側の扉が開き、竹内がでて来た。
外の格子扉を外に開き、中に招き入れられた。
だが、この部屋には何もなく、L字型に進むと事務机が5つ、社長席が奥に1つある部屋に来た。
「いらっしゃい!」
挨拶をした人が勝田さんのようだ。
それ以外の人は、PCの画面を見ていて、時に『回収にいってきます』と出て行く者がいる。
2人組で行動しているみたいだ。
「珍しいかね?」
「あぁ、もっと怖い人たちかと思ってましたから…」
「ははは。よく言われるが、もうそんな時代じゃないからね。2人組で行動するのも、1人はトレーニー、1人は3年未満の社員だ」
「あぁ、OJTですか…」
「そうそう。それでも定着率は悪いんだ」
「モチベーションの問題でしょうね…あ、やりがいですね」
「やりがいか…だが、誰かがしなきゃならない仕事だ」
「そうですけど…いっそ、デート商法のまねでもしますか」
「デート商法?」
「若い女の子が『代金の回収に来ました~』てね。あとは飲み屋のツケの回収と同じですね」
「う~ん…」
「相手が強気に出てきたら、うしろの男に代わればいいんじゃないかな」
「考えておくよ…」
「でも、お嬢さんや美香ちゃんはだめですよ!」
「分かっているわ!」
それから、本題に入ったのだが、俺の『愛人』という表現の真意を聞きたいとの事だった。
それはそうだろう。
16歳の俺が結婚できるはずもなく、彼女もお嬢さんと行動を共にするのが本来のあるべき形だとするなら、その形に異論はない。
どう考えてもお嬢さんは立場的に誘拐の可能性があって、防衛術の習得が必要。
行動範囲は常に人目がある所でなければ安全性が低くなる。
防犯ブザーは今でも持っているが、それと複数人での行動。
つまり、一緒に行動する人が必要なのだ。
それに関して、来年度から学園に、小弓警備保障の若い女性を配置する事が決まっていて、彼女達に登下校の護衛を私服でさせればいいと提案した。
彼女達は、学校に着けば、そのまま保安課の警備業務に付くので、無駄は無い。
或いは、親元を離れて学園の女子寮に入る事も検討してはどうかと。
だが、この案はお勧めではない。
所詮、籠の鳥になるだけだから、解決策にはならない。
社長である京極氏は、防衛術の習得を了承した。
護衛に付く女性は合気道の習得者だと話した。
高校を卒業するまでは、美香が一緒にいる。
高校を卒業したら、美香ちゃんが離れても大丈夫なようにしてほしいとお願いした。




