第64話 竹内の思い
俺の名前は、竹内 真。
出ていった親父の話では、まことと読むらしい。
なにが『まこと』だよ、パチンコにはまって稼ぎは母親のパートで支えられていた家だ。
よく、スーパーの裏口から入って、怒られたけど、パンの耳はたくさん貰えた。
中学まではなんとかなったけど、高校なんて行けるはずもない。
建築現場でよく働いたけど、たまたま知り合った警備のおっさんに余った総菜弁当をもらった。
そのおっさんも借金があるらしく、時々借金の取り立てに来ていたのが『かっちゃん』と呼ばれていた人で、あんまり怖い感じの人ではなかった。
でも、かっちゃんという人は、怒らせるととんでもなく怖い人だった。
ゲームで言うと狂戦士のようなキャラだ。
現場にあったスコップで、あっという間に4~5人を倒してしまう。
「現場監督の若造が、なに分かったような事を言ってやがるんだ!」
おっさんに聞いたら、給料天引きとか言って、ピンハネしようとしたらしい。
建設業者のお偉いさんが来たが、電話一本で、謝って帰っていった。
この工事はそもそも、その政治家の力で建設業者に決まったのだ。
マジかっこ良かったから、できるだけ後ろについて、現場を歩き回った。
そしたら、いつの間にか、パシリとして採用されていた。
そんな頃に事件があった。
当時12歳の小学生だった、かっちゃんの娘が、血まみれになって学校から戻って来た。
近所の空き地に連れ込まれて、京極のお嬢さんを守ってボコボコにされたそうだ。
その時の相手に変態中学生がいて、そいつに犯されそうになって、しょんべんぶちまけて、その気をくじいたそうだ。
かっちゃんの娘もかっこいい。
だけど、その変態野郎は腹いせに、持っていた小刀で娘さんの身体を切り刻みやがった。
それで、今でも傷跡が残っている事は、みんなが知っている。
あとで、かっちゃんと俺たち、(いや、実は俺は参加できなかったけど)、勝田のおやじの働きで、変態少年をボコボコにした話は、今のグループの家族愛の物語だ。
そんな美香ちゃんとお嬢が、巣鴨に来る事は聞いていた。
金券を近くの政治家の後家さんに、届けに行く楽な仕事だ。
そこにはお婆さんだけしか住んでないから、問題は起こりようがない。
そんな巣鴨の商店街を、お嬢と美香ちゃんが歩いてくる。
仕事が終わったようで、俺たちに笑顔を見せた。
だが、そのお嬢が隣の男に手を握られそうになり『ダメ!』と言ったのだ。
俺たちはすぐさま飛び出し、男の排除を試みた。
だが、この男は特殊警棒を持ち、動きも素早かった。
つかもうとした腕を素早く叩かれて、思わず頭に血が上った。
「この野郎!」
するとお嬢から
「やめなさい 竹内!」
と声が掛かった。
は?どうして…と混乱していると、美香ちゃんがパンチを繰り出して来た。
よけるなんてできない。
美香ちゃんに恥をかかせるわけにはいかないからだ。
だけど、それにしても、お嬢が届けた金券を男が持ってるなんて、誰も想像してなかったけど、事実だったらしく、とんでもない失態をしてしまった。
その後、杉浦も同様に、美香ちゃんからパンチをもらっていた。
あのかわいい美香ちゃんが、それほど本気で怒っていたんだ。
お嬢もそうだが、美香ちゃんはあの男に本気で惚れている。
しかも男は、高橋ホールディングスという貴族グループの幹部らしい。
なるほど、3000万の金券を胸ポケットに入れても、堂々としていたはずだ。
男は金券を奪い返しに来たと思ったらしく、お嬢が誤解だと言っても聞いてはくれず、怒って一人で帰ってしまった。
その後、京極さんと勝田のおやじさんは頭を抱えた。
高橋グループは政治家たちと同じくらい、やっかいな存在だと言っていた。
だが、相手は高校生。
詫びを入れるのも簡単だ。
俺が『お詫びに女を世話すりゃ、いちころだと思うんですが…』
みんなが笑って、そうだそうだと同意した。
お嬢と美香ちゃんは、こんな話は聞きたくないようで、部屋を出ていった。
翌日、高橋のガキを迎えに行って、小型の携帯を渡す。
そのあとは、デリヘルの売れっ子、けいこ姐さんの待つ部屋に案内する。
会社で押さえている部屋はいくつかある。
高校生だから、政治家ほど豪華な部屋はいらない。
思った通り、ガキは有頂天になっていて、これなら問題はないだろう。
俺は台所のテーブルに座り、事が終われば、ガキを送っていくのが役目だ。
「おい、竹内はここで何を?」
「規則でしてね…間違いがないように…規則です」
そう、規則なのさ。
お前の早漏を確かめるつもりはないが、どうせ早く終わるだろう。
テーブルに、買ってきたおにぎりとカップ麺のコンビニ袋を置いて待つ。
お姐さんの好きなカップ麺も買ってある。
(おいらも相手にしてくれないかな…なんてね)
浴室から出て、ふたりは寝室に入っていった。
そうだな、1回目は5分かな? 2回目で30分という所だろう。
『キンコン! キンコンキンコン!』
「開けて竹内! 開けて!」
ど、どうして美香ちゃんが? 緊急事態か?
『ガチャ』
「どいて!」
俺を押し退けて、浴室を見て、すばやく寝室に飛び込む美香ちゃん。
「高橋くん!良かった、間に合った!」
美香ちゃんは土下座姿勢になり
「けいこ姐さん!譲ってください!」
それからは俺も、けいこ姐さんも、美香ちゃんの初めての手伝いをした。
男にも歯を磨かせて、お茶も入れた。
美香ちゃんの体の傷を見て、男が逃げ出さないか、それだけが気がかり。
そこで姐さんは、真っ暗の部屋で過ごさせればいいと言い出した。
なるほど。
寝室に入ったふたりから、それらしい声が聞こえた。
この男、どうやら初めてではないらしい。
くそ野郎め!
照明用のブレーカーを落とし、部屋を出た。
洗面器の照明は関係ないから、翌朝も気が付かないだろう。
おめでとう、美香ちゃん。




