第60話 襲撃
6月になった。
5月から実施したポイント制と給与評価の方法変更により、高橋グループのモチベーションは上がったようだ。
会社は今まで現状維持を長らく目標としてきたため、時代の進歩について行けてない。
その分劣化が進んだとも言える。
それが徐々に改善されつつあるというのが、現状だと思う。
株価が20000円を超えてきた。
心配なので利益確定をしておく。
資金はようやく2000万を超えてきた。
個別銘柄とは違って大きく変動はしないからね。
父も俺もマンションから引っ越して、祖母は昔通り一人で暮らしていたけれど、これからの事を考えて、巣鴨の友人の近くに引っ越す事になった。
今ならまだタワーマンションもそれなりの値段で売れるからだ。
その売却したお金の一部を俺にもくれるらしい。
今日はちょうど学園の記念日で休み。
喫茶『憩』で祖母と待ち合わせして、巣鴨のその友人宅へ来た。
借家だと言うが、比較的きれいな中層マンションの2階に住むお婆さんが、その人だ。
部屋のダイニングテーブルで、紅茶を入れてもらったが、食器はそれなりに高そうな白磁の物である。
『キンコーン』
チャイムが鳴り、インターホンの画面を見ると、なんと、京極彩花と勝田美香がいるではないか。
「どうぞ~」
そう言って、玄関ホールの解除ボタンを押すとエレベータが下りて来て、乗れるようになる。
再びインターホンが違う音で鳴り、玄関到着を知らせた。
玄関に俺が出ると、ふたりは驚いて固まっていた。
「ま~ 可愛らしいお嬢さんたちね。どうぞ、お入りください」
「あ、失礼します」
中に入ってもらい、ダイニングで封筒を受け取ると、中身は宝くじだった。
そう。それは宝くじを使ったマネーロンダリングだ。
今回は3000万の宝くじ当選券を3500万で買ったのだった。
祖母の知り合いの人は、政治家の妻だった人で、ネットバンクの常連客。
今回は祖母がマンションを売って得た1億8千万円のうち、俺に3000万ほど譲りたいという話を聞いて、宝くじ当選券を買う事にしたのだ。
これで贈与税から逃れる事ができるとの事。
但し、信用ができないという祖母に代わり、常連の友人が代わりに買ったために、このマンションで引き渡される事になったらしい。
「彩花、この仕事は、いつもやってるのか?」
「そうだね、宝くじを運ぶだけだから目立たないし、美香もいるしね」
祖母が優しい顔をして
「蘭さんがいなくなって、寂しそうだったあきらに、こんな可愛い女友だちが出来て本当に良かったわ」
「ははは。彼女達も、俺が友達がいなくて可哀想と思って近づいてきた『愛すべき人』だよ。高橋の関係者と知っていれば、むしろ、近づいては来なかっただろうね」
「なるほどね…」
「ところで、その『らんさん』って?」
「いや、今はまだ、ふたりには何とも言えないんだ。あっちからも連絡は無いし、こっちからも連絡はしてない」
「そうなの? それであきらはどうするつもりなの?」
祖母の問い掛けには、今は答えが出せない。
「俺がオーストラリアへ行くという選択肢は無いな。それって紐みたいな立場だし…、蘭も父親の事業を捨てる事は、選択肢にはないと思う。けど、今すぐ結論を出さなきゃならない事でもないからね」
「そう言えば、引っ越すのはこのマンションなの?」
「そうそう。2階は空いてなくて、ちょうど真上の3階が引っ越したからね。今はリフォーム中よ」
「もうそろそろお昼だけど、近くのお蕎麦屋さんにでも行く?」
そう言った友人のお婆さんに対して、やや引き気味のふたりを見て
「いや、俺たち3人は、ブラブラとこのあたりのようすを見てから帰ります。今日はどうもお世話になりました」
「あきら、またね!」
巣鴨の商店街を歩く3人。
屋台も出ていて、にぎやかな通りだ。
仲良くなるつもりで彩花の手を握ろうとしたら
「ダメ! みんなが見て キャ!」
と手を払われると同時に、怖い人相のお兄さんが露天商の横から現れた。
気配を感じた俺は、ズボンのポケットに差した特殊警棒を素早く取り出して振り伸ばし、殴りかかってきた男の横に体を移動させて、腕を叩く!
『バシッ』
「いてっ!」
「やめなさい 竹内!」
そう言われて立ち止まった男に、美香のパンチが顔面にヒットした。
男は2mは飛んでいっただろうか。
もう一人の男は、腕を強打され、服の上からは見えないが間違いなく痣にはなっているだろう。
「高橋くんも、なにも警棒で殴らなくても…」
「なにを言ってるんだ! 俺は宝くじを持ってるんだぞ!」
彩花と美香は、ハッとした顔をして、頭を下げた。
「そ、そうだったわ、ごめんなさい。とんだ失態ね」
もう一人の男も、今更ながら、美香のパンチを受けて、2mほど飛んでいた。
「みんなが見てると言ったのは、こいつらが屋台の後ろから見張り役としていたからか?」
「そ、そうなの…ごめんなさい」
「ふたりと一緒だと守られると思っていたけど、まさか襲われるとはな…もし俺が普通の高校生なら、宝くじは奪われていたのか?」
「ち、ちがうわ! それは誤解よ!」
ふたりが会社の者を叱っている間に、俺は一人で高橋邸に戻ってきた。
やっぱりあのふたりと付き合うのは、リスクが伴うという事のようだ。
しばらくして、祖母から電話が掛かってきた。
あのふたりが、俺の住まいを聞きに来たそうだ。
「そう、だけどこの邸宅はセキュリティーが厳しくて、俺がOKしても、身元不詳の人は入れないよ」
説明した通りに、美香は門扉さえ開けてもらえずに、帰っていった。




