第57話 機械式警備の手柄
さて、今週は、本命の3階、メンテナンス外勤作業部隊だ。
オフィスビルの法定点検には、建築基準法、電気事業法、フロン排出抑制法、水道法、ビル衛生管理法、および、条例に定められた点検があり、ほぼ専門業者に委託する事になる。
しかし、関連会社に稲葉設備機器を持つ高橋グループでは、一級建築士、電気主任技術者、消防設備士などの有資格者が在籍していて、ビル建設の設計や建設工事に携わっている。
もちろん補修工事も行っているため、立花ビルメンテナンスとの間で、人的な交流もある。
そのため、建築設備検査員や防火設備検査員などの資格を持つ者も多い。
これを単なる人的交流でなく、働き方としてのシナジー効果を得て、実務に活かしていきたいのだ。
そこで5月から、働き方改革として、ポイント制を採用する事にした。
仕事内容はパソコン上に掲示された仕事を自由に選択できる。
ポイントは15日締め25日払いの月給制。
例えば、来週、稲葉設備機器の内勤メンテナンスが掲示されている。
指導担当は『田中係長』で、ポイントは15000。(1ポイント1円)
労働時間は『終日』とあるので、9~17時の7時間労働。
要は、自分自身で1週間先までの労働プログラムを組み立てる事ができる。
上司(指導担当)は都度変わるから、気に入った上司の所にずっと行っても良い。
小弓警備保障の仕事なら、初回に研修を選択して、資格が得られれば、いつでも応募できるようになる。
逆に、稲葉設備の電気主任技術者資格を持つ者が、マンションの受電設備の点検に応募することもできる。
これを実現させるため、グループ会社の名前は『高橋』に統一してゆく方針だ。
これで人員不足、パワハラ問題、社員育成、不公平感が払拭できればいいのだが。
これらの業務システムが導入されて、5月1日からの労働条件は大きく変わる。
あと、1週間ちょっとだ。
業務システムの導入も終わり、パーテーションで仕切られたコンピューター室には、もう人はいないと思っていたら、2係の係長が1人で何やら作業をしていた。
「まだ帰らないんですか?もう19時ですよ」
「あ~ 社長」
「あれから1年、バタバタさせましたけど、お陰様で、ようやく着地できましたね」
「いや~ 路頭に迷うところを坊ちゃんに拾われて、みんな感謝してるんですよ。ほんとうに」
「いえ、こちらこそ」
「そこでいま、坊ちゃんの支援システムを組んでましてね…」
「で、なぜいま『ぼっちゃん呼び』なんです?」
「社長だと、仕事の支援になっちゃいますけど、これは個人の支援システムなんです」
「ほぉ~ 楽しみですね」
「はい。完成しましたら、説明させて頂きます」
4月下旬ともなれば、学園のクラスも落ち着いて来た感じがする。
気が付けば、京進証券の3人組のひとり、5位の大浦未来は剣道部に入部して頭角を現しているらしい。
噂を聞いて、少し剣道場を覗いてみた。
ここではダンス部も練習していて、にぎやかだ。
4月いっぱいまでは、入部の参考にするため、見学者も多い。
剣道特有の稽古を見ながら、基本姿勢の良さがすぐに分かった。
綺麗というより、切れの良い動きで、爽やかな印象が残った。
気配を感じて、後ろを振り返ると3位の京極彩花と6位の勝田美香という廊下ペアというか、ネットバンク組が俺を観察しているようだった。
「あんた、嵯峨の奴らと組むつもりかい?」
「は~? どういう意味だ」
「おい!素直に…いててて!」
勝田美香が、いきなり胸ぐらをつかんで来たので、その手をねじって決めたが、女子とは思えないごつごつとした手をしていた。
「おまえ!」
京極彩花が助けに来たので、手を放した。
「確かに、ネットバンクと組んで消費者金融に手を出すより、京進証券と組んで株で儲ける方がいいようだな…」
「な、お前、高橋グル『そこの者たち!何を揉めているんだ!』」
「こっちへ来い!」
見ると、声の主は『警備』の腕章をつけた郷田課長であった。
「2人とも、理事長室まで来てもらう。弁解は理事長に言え」
「チッ!」
勝田美香の舌打ちに呆れた顔をする俺と郷田課長は、気を取り直して理事長室へ歩く。
「保安課 郷田、入ります」
そう言って、理事長室で問題発見までの経緯を説明する郷田課長。
「そういう事かしら、勝田美香さん」
「わ、私はそのような事はしておりません。そこの高橋くんに腕をつかまれて、俺と付き合えって言われたので、抵抗しただけです! セクハラされたんです!」
「どうなの?高橋くん」
「はい。防犯カメラの映像を見てもらえば分かる事です」
「えっ?」
「あの位置なら剣道場3番と5番に写っているはずですから」
「すみません!わたし…気が動転していて…」
「パンフレットにも書いてあったでしょう?うちは防犯に力を入れていると…」
「……」
「とりあえず、勝田さんはこのまま残って、事情聴取を受けてもらいます。高橋くんは帰っていいわよ」
「はい。では失礼します」




