第55話 営業課の整理
結局、立花専務は母親を交えた話し合いで、顧問という形で名前だけは残し、実質的に引退頂く事になった。
母親からは、報酬が支払われる形で決着したことに、感謝された。
今頃は、親子で私物を片付けていることだろう。
後で聞いた話では、『廃棄の物もある』と一部引き取りを拒否したらしいが、要らない物も持ち帰って、ゴミは自宅から出すように、と会長は叱ったそうだ。
そして片桐部長は、背任、業務上横領、私文書偽造の刑事告訴、懲戒解雇処分に決まった。
小野田課長、片山課長は、自主退職処分にとし、今日中に私物を持ち帰るように指示をしてある。
今は、佐々木さんにお願いして、専務の事務机の内容物を整理してもらって再利用可能な物は総務課へ、残りはゴミ(会社なので産業廃棄物)として、専門の業者にゆだねられる。
そして俺は、専務の事務机の前に置かれたソファーに座り、運送業者に連絡を取っている。
高橋邸の空き部屋に積まれた手書きの帳票類を、5階の保管場所に戻すためだ。
帳票類は、税法で『事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から7年間』の保存義務がある。
まもなく、課長や部長の事務机が余ってくる。
そこで、専務の机と2人の課長の机で1つの島を作る事にした。
早速、管理課と総務課の連中を使って、ソファーを部屋の隅に移動した。
書棚の空きスパースを集約させ、からっぽの書棚をパーティション代わりにして島を囲む。
専務席は俺の社長席になった。
社員が良く見える側に佐々木を座らせ、社長秘書に任命して、荷物の移動を指示。
もうひと席は、システム担当が来た時の席にしよう。
システム担当1係が作った業務会計システムは各社で既に稼働しているが、2係が作ったメンテナンス業務の支援システムはまだ導入していない。
2係と連絡を取り、4階にパソコンとシステムの導入を指示した。
一方、学園の総合学科1組は、中等部とは全く違っていた。
新興企業に講師陣を求め、企業の求める人材の養成所と化した所があり、女子1位の嵯峨、2位の平田、5位の大浦は、京進証券の社長派閥のメンバーだった。
3名は常に行動を共にしている。
1.2.5位の席は、最前列中央、窓側、2列目窓側の3角形を作っていた。
「高橋くん、私と席を代わってくれない?」
俺が嵯峨と席を代われば、通路を挟んで隣同士に成れる。
「仕方ないな、君の責任でおこなう事だ。いいな?」
「はは。気の小さい男ね…もちろん責任はわたしが取るわ!」
そんな事で、同順位の左右が入れ替わり、俺の席に嵯峨が座って、京進証券の密集陣形ができた。
女子3位の京極と6位の勝田も、ネットバンクのCEOとその側近という話だ。
こちらは窓側1列目と2列目のコンビだ。
女子は男子と違って固まりたがるのか…。
翌日、立花ビルメンテナンスでは、佐々木秘書が朝からシステム2係の作業のようすを見ていたり、時には手伝いもしていたらしい。
放課後にならないと、俺は出社できないのだから、秘書が暇なのは俺の責任だ。
出社して一番に決裁が必要な申請画面を見る。
不急、不明瞭、不必要、妥当な金額ではないと思われる申請に質問を入れ、佐々木秘書が補足説明を入れてくれる。
電子決済システムは書面で処理されるため、権限があれば、誰でも閲覧はできるが補足説明欄は秘書の佐々木にしか、書き込み権限がない。
俺は、疑問点が解消されない場合には、その申請を保留か却下のフォルダに入れる。
佐々木秘書がどれだけ内容を理解しているか、納得しているかが可否の大きな要素になるため、当初、敬遠されていた佐々木秘書は、営業、総務、管理の各部署から手厚く遇される事になった。
その佐々木秘書から質問がきた。
「私達はどうなるのですか? 課長や部長がいなくなって、どうやって評価するのです?」
「事務職の方々の給与体系も変更を考えています。まずは、年齢給。1歳年を取っただけだと悲しいですけど、給料が1歳分上がるなら、少しは悲しみも癒えるでしょう?」
「そうですね」
「次が能力給。色々な資格を有するだけで、給与に反映させます。つまり、潜在的な能力でも評価しようとするものです。既に業務システム内に自己プロフィールを入力できるようになっているでしょう?」
「後で見てみます」
「例えば総務なら書道の段位などでしょうか。社内だと表彰状作成に使えますし、字が綺麗なのは会社の印象にもいい影響がありますから。また管理課なら衛生管理の資格でしょうか…お茶やお花の免状でもいいですよ」
「最後が成果給。例えば今回の給与体系の変更通知通達の文章作成は、タスクに応募チェックがありますから、この仕事を受ける資格のある人はチェックを入れる事ができます。最大2人チェック可能で、例文がありますから、それを参考に作成して提出して頂きます」
「採用された方、採用されなかった方も、内容を見てポイントを付加します。いわゆる業務量と精度によるポイント制になります」
「この3つの要素で、給与が決まるしくみにします。できる限り成長を評価する制度にしたいですね」




