第53話 ニキビ
ホームルームに登場したのは、教務主任の水戸講師であった。
今年の長栄学園の内部進級率は90%。
内部進級は100%審査よるものとなっている。
つまり150名のうちの約15名が基準に達せず、落ちこぼれていなくなったという事だ。
普通科は2クラス60名で、総合学科は3クラス90名。
外からの編入は成績優秀者のみとの事なので、各科1組への編入者となる。
総合学科1組には8名が編入して来ているとの事であった。
そこで教務主任から学園の説明をするという流れになったらしい。
総合学科の4年生は成績順に1組から3組に分かれていて、5年生からは専攻ごとに文系、理数系、情報、簿記の4つのクラスに分かれる。
挨拶では、目指す進路や職業というテーマで話す事と指定された。
最前列の中央、トップバッターの俺は実業家と言っておいた。
隣に座る女子1位、嵯峨里美は金融業との事。
落ち着き払った堂々の態度だった。
女子2位は平田奈々子、同じく金融業。
次々と挨拶がされていくが、『まだ決めていません』が多数で記憶に残らなかった。
毎年恒例、HR終了後の理事長室への招待を教務主任から受けた。
「高橋くんがクラス委員という事ですか?」
隣の嵯峨さんが教務主任に聞いた。
「そういう事ではありません。単なる事務手続きの件です」
「そうですか…」
理事長室へ向かう教務主任に続く俺。
「なかなか気の強そうなお嬢さんですね」
「そうですね…編入生ですけど、入学前に髪型の規制について詳しく問い合わせを受けて、正直驚いた記憶がありますね」
「ほ~ さすが女性ですね」
「先ほどの声で分かりましたが、電話の主は親御さんではなく、ご本人だったようです。」
『コンコン』
「水戸です」
「高橋です」
「お入りさない」
「失礼します」
「いらっしゃい、高橋あきらくん」
「いや、そんな改まって言わなくても…」
「それにしても、あれだけ高橋家の幹部と言われる事を嫌がっていたのに、養子に迎えられるなんて…」
「いや、『虎の威を借る狐』みたいで嫌と言っていただけなんですけど、グループの中身が結構ポンコツだったので、高橋の名前を使って、改革をしようと改名に至ったわけです」
「単なる秘書だと威力が足りないと?」
「その通りです。実際には直系のお孫さんを後継者として定めていますから、俺はその子の代までに、近代化を進めるのが任務というところです」
「へぇ~ 謎の高橋グループがポンコツ?」
「『謎の』って、別に隠してるわけじゃなくて、目立たないようにしてるだけですよ。単に旧華族家の人達が資産を守りながら、お互いにフォローし合える企業が集まっただけです」
「立花家がビルメンテナンス会社を、稲葉家が設備機器会社を、小弓家が警備保障会社を経営していて、維持管理を合理的にするために、不動産の高橋家に集合した。それが高橋グループの正体です」
「そ~なんだ…」
「逆に、戦後に一気に大きくなった田中製薬の方が、人々には脅威に思われるんじゃないんですか?」
「まぁ、悪人扱いされていたのは、間違いないわね。私も良く『成金!』って言われていじめられたわ。本当に成金だったから言い返せないし…」
「いやいや、言い返しましょうよ『成金のどこがいけないのよ!』って」
「ははは。今じゃ言えるんだけどね。当時は小学生だったからね~」
「でも、今では振興企業グループの牽引役とか言われて、持ち上げられているようですね」
「良く知ってるわね」
「あれ?そういえば、嵯峨って、京進証券の代表執行役社長の名前だったような…」
「その通りよ。あきら君は金融業界にも詳しいのね、まいっちゃうわ」
「いえ、経済誌を見る事もあって、確か表紙に出ていたのを思い出しただけです…」
「という事は、2位の平田という子も、関係者かな?」
「その通りよ。女子寮の同室希望が申請されているわ」
「そう言えば、豪華な寮もこの学園の売りでしたね」
「豪華さじゃなくて、セキュリティーの高さが自慢なのよ!」
「ははは、そうでした…」
そんな話をして理事長室を出ると、他の生徒はすっかりいなくなっていた。
高等部に進学後は、秘書の仕事をする約束なので、道場と英語塾はやめていた。
会社に向かう途中、もうすぐ昼という事で、お弁当屋さんに寄った。
「いらっしゃい!あきらさん!」
「こんにちは、とんかつ弁当を1つ! 食べて行きます」
「はいよ!」
お弁当を運んできたのは、東 美咲だった。
「どうぞ~ お味噌汁はサービスね!」
「ありがとう!」
みんな元気そうで良かった。
そう思っていたら、手伝いのおばさんが配達から帰ってきた。
「あきらさん、あんた学校変わったんだって?」
「は~? 変わってませんよ~」
東美咲が向かいに座り
「だって、名簿に石山くんの名前は無かったよ!クラスのみんなが別の高校にいったんじゃないかって、騒いでたし…」
「いや、ちょっと事情があって、名前が変わったんだ…」
「ほんとに? 遥が校門で待ってたけど、見つけられなくて、帰ったんだよ」
「はるかって、水無瀬の事か?」
「そうそう」
「いや、俺、あの子の事、5位だった事しか知らないんだけど… ところで 東…おまえ、ニキビ出てきたんじゃないか?」
「お、おまえ!本人が気にしてるんだから言うなよ!」
そう言うと周囲は笑っていたが、東 美咲は奥に引っ込んでしまった。




