第49話 有効なカード
11月になった。
今月は警備保障会社の業務システムだ。
学園の機械警備端末は、警備保障会社には置かない。
学園の中にある警備員の待機室でコントロールするからだ。
高橋ホールディングス(HC)の秘書室に端末を置くのは、あくまで証拠としての保存の目的。
業務内容は主に第1号警備業である施設・住宅警備である。
高橋HCは、看板こそ外に出していないが、宅地建物取引業の知事免許を所得し、ビルの賃貸借も手掛けており、そのために手に入れた警備事業だ。
警備会社の業務システムには特に問題はなく、経費処理をシステム側で自動計算してミスを防ぐと共に、会計のできる職員がいないので、機械的に処理をしようとするもの。
特異な点といえば、都内各所に分駐所があることだ。
そのため、機械警備の警報から平均3分で対応できている。
それは逆に、不動産を取得し分駐所を設置してまで行うデメリットを抱えている事でもある。
人事や技術指導などは、こちらも創業者だった小弓専務が剛腕を発揮している。
専務秘書の方が、『資産家の次男で、趣味のために作った会社だ』と嘆いていて、なんとなく全体像が見えてきた。
資産家の当主としては、屋敷内には他人は入れたくないが、警備は厳重にしたい。
屋敷には特別な部屋もあるし、隠し通路やシェルターもあるという。
その要望を叶えるために、あの設備機器会社の稲葉専務は手書きで図面を引き、機械警備、通信設備を設計・施工し、その通報を受ける警備保障分駐所をすぐそばに置いたのだ。
おそらく、世界に一枚しかない屋敷の図面は、分駐所に保管されているのだろう。
そして、その資産家の関係者を分駐所の所長として配置しているのだ。
専用分駐所がある分、警備保障会社に支払われる費用は、他社とは違い圧倒的に金額が高い。
だが、関係者である分駐所所長には高額な報酬として還元されるしくみなのだ。
所長にも、会社にも利益が大きいというWin-Winの関係が作られている。
後で聞いた話だが、あの設備機器会社の稲葉専務も旧華族の末裔で、三男だそうだ。
つまり、この高橋HCのグループ会社は、資産家の次男、三男の生活のために作られた会社だったのだ。
嫌な事、面倒な事、具体的には、会社の運営や従業員の面倒は、友人の高橋氏の会社にまかせ、自分達は好きな地位で好きな事に没頭しているという訳だ…。
初めて知ったのだが、会長は兵庫県香住町に社員の保養所として民宿を買い上げて、放置しているらしい。
どういう事かと聞いてみると、夫婦でふらっと蟹を食べに行った民宿が気に入ったのだが、経営が行き詰まり、来年はもう営業しないという話を聞き、ポンと2000万円で買ったそうだ。
高橋会長自身がこれだから、グループ会社の専務たちに、『真面目に経営しろ』とは言えるはずもない。
民宿側はその2000万を運転資金にして、現在も営業中だそうだ。
もちろん、電気ガス水道など基本的には売却前と同じく自分達で払っている。
家賃が要らないのだから、何とかなるだろう。
当初は本当に、保養所として年1回は社員旅行にでも使うつもりだったそうだが、東京からは遠すぎた。
新幹線と特急を乗り継いでも、6時間は掛かってしまう。
会長に連絡を取り、正月休みに父と継母、陽菜と赤ちゃんと祖母と俺の6人で予約を取ってもらった。
「わかった。連絡しておこう。あきら、それと宅地建物取引士の資格を取っておいてくれ。私がいなくなると資格保有者がいなくなるからな」
「分かりました」
調べてみたら通信教育講座もあるみたいだ。
費用は高橋HCに請求すればいいだろう。
蘭の誕生日の前日、Skypeで久々にビデオ通信をした。
当日だったら、何かの催しもあるかも知れないと思ったからだ。
「1日早いけど、誕生日おめでとう」
「ありがとう。あきら最近忙しいみたいね」
「そうそう。いろいろと頼まれる事が多くてね…」
この後、お互いに思っている肝心なこと…今はどう思っているのか?は聞けずに終わった。
俺も蘭も、まだ中学生。
自分の人生ではあるものの、思い通りには歯車は動かせない。
12月に入った。
高橋HCに設置された学園の機械警備情報には、とんでもない画像が記録されていた。
生活指導課の部屋に設置された人感センサーと連動した超小型カメラの動画で、生活指導の女性講師上村朱里に、国語科の講師がメモを渡している動画であった。
本来、交流がないはずの2人にどんな接点があるのか?
生活指導課の部屋に出入りする講師たちが、次々と上村講師にメモを渡す姿が捕らえられていた。
だが、高橋HCのサーバーに蓄えられた画像データは、警備保障会社としてバックアップのためにあるだけで、俺が見ることは想定外だったから、当然、この画像の事は誰にも言えない。
だが、警備課の郷田課長から理事長に報告が上がっていたのだろう。
理事長室に教務主任、そしてなぜか俺も呼ばれていた。
本来、テスト問題は各講師に問題を作成させ、編集するのは教務主任であるため、作成された問題が採用されるかどうかは分からない。
この方式では、単に記憶力を問う問題は採用されず、正しく理解度を測定できる問題にするため、教務主任により、内容が一部改訂される場合もある。
だが、最終案ではないにせよ、どのような問題が作成されたのかを知る事は、テスト対策としては有効だろう。
ここからは推測でしかないが、恐らくは前田理事経由で純子に伝達されるのだろう。
或いは、家庭教師がそれとなくテスト対策として使うのだろうか…。
「ま~そんな事だろうとは思っていたけど…」
教務主任の話では、以前から、保健体育や家庭科のテストはほぼ満点だったらしい。
前田順子の解答は、他の教科でも、完璧な解答の設問と、そうでない設問が極端に存在していたためだ。
「教務主任や理事長と話している俺も疑われるんじゃ…」
「それはないわ。あなたは総合学科に進学するんだもの…」
確かに、1組から総合学科に進学する者は限られるから、そんな必要は無い。
「それはそうか…それで、どうするんですか?」
「どうにもしないわよ。ただ、講師側には有効なカードが出来たわね…」
「何を考えているのかな~」




