第48話 下駄箱の手紙
夏休みと言うのに、グループ会社へ聞き取りに行き、取れるデータ、取るべきデータなど、会長と係長に個別具体的に説明しながら一緒に行動していた。
「やらなくていい事をすっぱり切り落として、ここまで成長して来たんです!」
「なるほど…それはご苦労さまでした。ですが、経営のスリム化は万能ではないですよね?」
「それはそうですけど…何も今更、過去の伝票をデータ化しなくても…」
抵抗の度合いが…なんか引っ掛かる。
受付台帳も手書きなので、修理伝票、メンテナンス報告書とともに保管されているすべての帳票類を、空きビルの1階に集めて、データ入力センターとして立ち上げた。
会長からは、グループ各社に応援チームを編成してもらって、データ入力用のスキャナでOCRソフトを使ってデータに変換していく。
8月いっぱいを使って、新規に作った業務ソフトにデータを入力して解析した。
すると、修理伝票までは使用部品や処置内容が記入されているにもかかわらず、受付処理結果がナンセンスコールや未現象として処理されているものがあった。
つまり、相手に渡す伝票は有効処理(有償)なのに、社内処理は無償処理されているのだ。
データが紐づけされていない事を利用した裏金作りか?
修理伝票に記載された対応事例としては有効なので、データベースからは削除しない。
また、因果関係がおかしい伝票を作る作業者もピックアップできた。
例えば、異常音に対する処理が、光学系清掃など、あり得ない。
そんなこんなで9月になった。
2学期の席順、俺は5位のままだった。
学園生活での変化は、保安課の人員が変わり、俺に会釈をする者が増えた事だ。
郷田課長は基本、夜間勤務のはずだが、昼間に理事長室で弁当を食っている。
中等部と高等部のある棟は、すべての廊下に通過センサーが設置された。
ただ、明るい昼間は、廊下では正常に動作しない。
それと主要な部屋には、人感センサーとそれに連動した超小型カメラも設置が終わっている。
現在は、集計ソフトを一人でコツコツを作っているところらしい。
そのうち、部下を1人付けてやろうかな…。
警備員は誰でもなれる訳ではない。
警備業法の第14条に警備員の制限が規定されている。
暴力的不法行為等で要件規則に定めるものを行うおそれがある者(暴力団員等)
禁錮以上の刑、又は警備業法の罰金刑での執行を終わる等して5年を経過しない者
アルコール、麻薬、大麻、あへん又は覚せい剤の中毒者
つまり、怪しい者はなれないように法で定められているのだ。
そういう意味で、郷田課長は社会的にも、信用できる人物という事だ。
しかも田中理事長の友人なら、発生した事案は全て理事長のもとに届く。
10月になった。
今は設備機器会社の業務システムに取り組んでいる。
各種機器の在庫管理は簡単なものだが、入庫時期を部品ごとに明確にする改善を入れている。
特にゴム類のものには、直射日光(紫外線)は有害で劣化を早める事になるし、経時劣化も激しいため、先入れ先出しを徹底しなければ部品の鮮度が保てない。
この会社は設備機器の設置や保守は得意なのだが、営業力が無く、そのために高橋氏に買収を持ち掛けた。
従って、販売事業は関係会社相手が主になっている。
業務システムでは、その点を改善して、自動的にDMなどを発送するしくみを取り入れた。
工事部署は、技術力があるにもかかわらず仕事が少ない。
そのため、第4の通信事業業者の中継基地工事の下請けを計画した。
この通信事業者は自前のネットワークを早急に構築したいと思ってはいても、基地局の場所、工事の業者の不足が言われていたため、高橋会長から打診をしてもらって下請けに潜り込んだ。
自社ビルの屋上利用と中継局工事で、当分は忙しくなるだろう。
学業の方は全く問題はない。
不思議なもので仕事が忙しく、塾、道場もあれば、悩んでいる時間がない。
降り注ぐ『やらねばならぬ事』を一生懸命にこなしていれば、逆に学校での勉強にも集中できていた。
株価は6月に14500円付近まで落ちて来て、再びこの10月に16000円付近まで上昇してきた。利益確定の売りをしてから、再び14500円で買いの指値指定をしておく。
1週間ほどすると株価は再び14500円付近に落ちて、自動的に買いが成立した。
300万ほど残して、1500万ほどで買いを入れていた。
初めての体験だが、下駄箱に手紙が入っていた。
色々と悩ましい事が書いてあったが、なぜか名前が書いていない…。
どういう事?
設備機器会社に出入りしていて、この会社の稲葉専務が創業者だと分かった。
広い自室で製図版を使って、新規設備の設計をするのが趣味らしい。
当然、施工工事では現場監督をする。
がっちりと故障が発生しないようにマージンを取って設計をするらしく、故障率は低い。
通信設備の増設、減設、故障修理には詳しいのだが、浸水検知、温湿度検知やカメラを用いてリアルタイムに遠隔地の状況を確認する事は、設計には反映されていない。
すべて人間が確認しに行って現地で即応する事を原則としていて、遠隔操作は作業員に対して行うと考えているようだ。
「どうせ現地に行って作業しなければ、何も変わらんではないか!」
おっしゃる事はごもっともだが、準備できる事を放棄していれば、作業対応時間の短縮はできない。
部品単体での交換もいいが、完成品で交換なら調整時間が不要になる物もある。
『もったいない精神』はこちらの都合であり、ユーザー目線ではない。
会長の友人でもある専務さんも
「おまえ、言いたい事をいいよるな~ もしかして、おまえが自己診断とか考えた奴だな~」
「あぁはい。まだ完成していませんけど…」
「そうか~ 高橋の奴が気に入ったとか言っておったが…」




