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孤独の人  作者: 神の恵み
現代編
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第45話 関係改善


リックトレードの貿易事業は、オーストラリアにいる日本人というニッチな市場に対する多品種少量販売であり、利益率は低かった。


だが国籍を問わず、豊かな環境で育った留学生達には、多少の価格差はあっても日本製品が支持されて、一定規模の市場にまで育ってきたと思う。


そして、人件費の最小化と不良在庫の削減策により、利益率の低さをカバーしたのが、今のリックトレードだ。


だが俺には、いま以上の利益拡大策は思いつかない。


日本人のパスポート保有率は19%程度しかなく、可処分所得は年々減少傾向にある。

一方で、日本にはきれいな海も山もあって、地域によってはそれらが雪景色に変化したり、紅葉に染まる四季があって、海外に出る必要はないという意見もある。


確かに温泉と美味しいご飯があれば、俺は他には何もいらない。

それらと比較すれば、日本人相手のオーストラリア観光事業は、それほど魅力的ではない。


つまり、オーストラリアでの観光事業は難しいというのが、俺の出した結論だ。




基本路線は総合学科の情報システム系を軸に、会計とビジネス法規という事に変更はない。

心配した父がマンションにやってきたので、そのように話し合っていた。

また、俺がオーストラリアで事業を行うのは難しいという結論を得た事も話した。


オーストラリアのMBA留学者を雇用する際に調べた、早稲田大学ビジネススクール(WBS)が、実務経験3年以上を入学条件としている事も合わせて説明して、実業家になるために、どこかの会社で一時的に勤める事もあるが、サラリーマンになるつもりはないと説明した。




4月下旬に蘭がYear9(中3)のTerm2 (2学期)に編入した。

科目は、英語 、数学 、科学、健康と体育、人文学と社会学、芸術、技術、英語以外の言語になっていて、蘭は日本語を選択したそうだ。


オーストラリアでは、2008年に『NAPLAN』という共通テストが導入されている。

NAPLANは毎年5月に行われて、読解力、文章力、基礎英語能力、計算能力が評価される。

NAPLAN(ナップラン)とは、National Assessment Program-Literacy and Numeracy の略。


このテストで、オーストラリア全国平均と、各自のレベルがどのくらいの位置にあるのかを知ることができるらしい。

NAPLANを受ける学年は、Year3、5、7,9なので、蘭は5月にこの共通テストを受ける事になる。


オーストラリアと日本の時差は2時間、季節は反対になるため、日本は春だがオーストラリアは秋だ。


杏子ママは自宅療養中で、夜22時には休むので、Skypeでの話は俺が道場から戻った19:30分から20時の間となる。


蘭の表情には、明らかに疲れが出ていた。

杏子ママの件、会社でのママの代役、そして学校。

お互いに落ち込んでいても仕方ないし、いまの俺にはどうにもできない。



モチベーションが落ちたのは間違いないが、以前と変わらず勉強はしている。

学校で俺は、そもそも他人に関心が無かったし、周囲もそれを知っていたから、むしろ変わったのは周囲の方だった。


いつものように食堂で一人、簡単な丼物を買って席に座ると、東美咲が店の弁当を持って向かいの席にやって来た。


「何かおかず、一つならあげるけど、要る?」


「は?そんなの利息にもならないよ?」


「何よ、それ」


軽い冗談のつもりだったのだが、東は怒って行ってしまった。

えない男のえないジョーク。


そして直後に斉藤が向かいに座り


「お、なんだもう有本の代わりを狙ってきたのか?」


「ちがう、ちがう」


普段は口を利く事もない2人が来るのだから、それほどあわれに見えるのか…。



5月になった。


麻衣さんは、出産予定が近づき産婦人科に入院した。

2人目という事もあり、無事男の子を出産したのだが、病院を訪れたご両親と我が父との会話で、行き違いがあったらしい。


「息子は、早稲田大学ビジネススクール(WBS)の入学条件を既に意識して行動している」


軽く、自慢話しをしたつもりの父の話から、ここで対抗意識?を持った会長が意地になったのではないか、と麻衣さんは言う。


「ならば、高橋HCの会長秘書の仕事を用意してやってもいい。ビジネスの現場が見れるぞ」


麻衣さんは『いい大人が何を自慢しあっているの?』と文句を言ったそうだが、受けるかどうかは本人が決めていいとの結論に至ったそうだ。



会長は現在61歳。

陽菜に会社を譲りたいと言ってはいるものの、年齢的には中継ぎが欲しいのだろう。

俺が弁当屋に個人融資をした際の事業拡大策を聞いて、俺に関心を持ったそうだ。


ちょうど、父が高橋家の財産には関わらないという契約を交わしている事もあり、安心できるし、秘書と言っても、秘密保持契約を交わした上で、事業に関する事を少しずつ教えて行こうという仕事内容だ。



今、会長と父は、生まれたばかりの子供の名付けで意見を出し合っているところだ。

会長夫人と麻衣さん親子は、ただ呆れているみたいだが、おかげで、関係に改善が見られる。

ここ最近の唯一ゆいいつ朗報ろうほうと言える。


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