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孤独の人  作者: 神の恵み
現代編
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第44話 蘭の帰国


春休み。

オーナーと蘭と俺の3人で、新宿御苑ぎょえんに来た。

高層ビル群が見える場所に約900本もの桜があるという。

こうしてみると、俺たちはもうすっかり家族のようだ。


奈良県には、吉野山に2万本の桜があるそうだ。

もちろん山寺から出た事はなく、見たこともないが…


喫茶店は日曜以外は閉められないから、日帰りしかできないけど、それでいいと思う。

俺と蘭は、代数も幾何も基本問題をしっかりとやっていて、標準問題も数をこなしている。

だけど、高校の過去問をやってみると、発展問題という難しい問題に苦労した。


でも、授業が楽に受けられる事が目的で先取りしているので、今のままで良しとしよう。




3年生の新学期が始まった。

俺と蘭は、同じ3年1組だった。

席順も同じく5位。


どうやら、期末テストの3位までは満点の者ばかりらしい。

俺と蘭も、英語と数学は満点だが、国語、社会、理科あたりに取りこぼしがある。

でも、楽しく授業を受けているから、満足している。



神田弁護士事務所から連絡があり、杏子ママが入院したとこ事。

3月の会計書類に対して、取締役のママの署名が遅れたため発覚した。


みぞおちの鈍い痛みで、会計書類の確認どころでなくなったママが病院を訪れ、検査により胃に腫瘍が見つかり、癌である事が確認された。


口頭で会計書類の内容を説明し、署名を済ませたため、1-3月期の決算報告は作成中との事。



この連絡を受けて、急遽、蘭は学校に休学届けを提出し、当面の荷物をスーツケースに詰めた。

急な帰国になったがオーストラリアの国籍を持つ蘭は、ビザがいらないので、問題はない。


お店があって、オーナーは見送る事ができなかったが、徳永さんと俺が成田空港まで送って行った。


「行ってくるね」


「杏子ママによろしく」


「なにかあったら、いつでも呼んでくれ。飛んでいくから…」


「どうして徳永さんが飛んでくるのよ?」


「い、いや、英二より頼りになるだろう?」


「ふふふ、ありがとう。少し、安心したわ」


徳永さんのジョーク?で少し緊張がほぐれた気がした。

2人にハグをして、荷物検査に消えた蘭。

ガラス越しに蘭を見付ける事は出来なかった。


オーストラリアに帰国し、親族として手術の同意書にサインして、結果的に、杏子ママは胃の3分の2を摘出して事なきを得た。

命に別状は無く、退院後は、こぶし大の食事量を1日に5~6回摂取する事になる。


ストレスが原因との診断もあり、やむなく蘭は公立学校Year9(中学3年生)に転入を決めた。


オーストラリア市民や永住者の場合は、公立学校の学費は無料で、Year10(高校1年生)までは義務教育だからだ。



俺は蘭の突然のオーストラリア帰国により、絶賛混乱中だ。


女子5位の空席に繰り上がってきたのは、水無瀬みなせはるか

少し前までその席に座っていた蘭とは違い、視線を感じても笑顔は返ってこない。

今そこにいる水無瀬は同級生なのに、俺には彼女の印象はなかった。


軽くため息をついて、ホワイトボードを見る。


普通、講師の目線はZ字を折り返すように教室内を満遍なく確認するが、この教室では板書を写している者に視線を送り、理解度を確認しているのだろう。

前列側に目線が留まることはあまりない。


俺にとっても、1年も前に参考書で学習して、演習問題を何度もしている内容だ。


お昼になり、食堂へ移動し、簡単な丼物を買って席に付く。

蘭は家で作っただし巻き玉子やコロッケを試食用と称して持って来ていた…。

それをむりやり俺に押し付けて、感想を聞く。


そんな事が頭に浮かび、ひとり苦笑して、食事を済ませる。


仕方がない。今はどうしようもないんだから…。


これまで、やりたい事業、やれる事業について模索中で、唯一決まっていたのが、蘭との行動を優先する事だった。


それが、急遽蘭が帰国する事になり、しかも戻れないと分かった。

道場の稽古日に、蘭の退会手続きをして、ロッカーに預けたままの稽古着を回収した。

蘭は俺ほど汗はかかないが、毎回、コインランドリーで洗っていて、蘭の匂いはしない。





稽古着を返しに行った喫茶『いこい』のオーナーも俺と同じように精彩がない。


俺もオーナーも、このうす暗い日々に慣れて、何かの明かりを探して、キョロキョロするんだろうな~、などと客観的な自己診断が俺を落ち着かせる。


中等部に入学当初は、偏差値のばらつきが大きく、間口が広いと言われていた。

それは高等部の総合学科でスポーツや芸術に特化した学習をしたい者がいるからだろうけど。


だが進学を目的とした高等部の普通科は、2クラス60人の定員しかない。

だからこそ、3年ではみんな真剣モードに入っている。


過去を調べれば、総合学科からの大学進学もそれなりに実績がある。

それは、高等部5年からの選択により、狙いの大学以外にも手が届く事の証明だ。

自分の目標がはっきりしていれば、選択科目の自由度が高い分、狙いは広くできるから。


そういう意味で、俺は情報システム系を軸に、会計とビジネス法規を。

蘭は国際ビジネス系を軸に、語学の幅を広げるつもりだったのだが。


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