第40話 華族
『不生不滅』
生じたというものでなく、滅したというものでなく
仏教の根本思想は、諸行無常、人も物事も永遠のものはない。
そんな意味だそうです。
それに反するような不生不滅ですが、これも不確定性原理のような…。
そこにあるとは言えず、生まれたわけでも、滅したわけでもない…
解説本からの推察です。
いいきっかけが出来た。
そう思った俺は、この事件を昼食時に理事長に持ち込んだ。
前田純子が、柔道部の3年生を挑発して前田自身を脅すように仕向け、石山に守らせる。
護衛にさせた狂言芝居だった。
これは、雇用主と護衛の間の信頼を損なう行為であり、継続して依頼を履行する事はできなくなった。
「石山くん、よく言いました。その通りです。私からこの件は前田理事に抗議した上で、依頼を破棄させてもらうわ。その代わり、月5万円の報酬がなくなるけど、惜しくはないの?」
「えっ? たったの5万だったんですか?」
「たった?」
「俺ならデイトレードで、週に30万円は稼げるのに…」
「いや、それなら1クール分30万円の著作権報酬も…」
「えっと、もうその話は忘れましょう…」
教室に戻り、前田純子に理事長からの手紙を渡した。
「これは理事長から。お父上にお渡しください。護衛任務は終了になりました」
「…そんな…私が叱られます!どうか、どうかお考え直しください!」
小さい声で前田に
「クラスメートが見てます…交渉は大人達にまかせましょう」
最悪の雰囲気のなかで、午後の授業を受けた。
隣に座る女子2位の東美咲がささやいた。
「石山くんって、命知らずね…」
それは言い過ぎだろうと、斜め後ろの前田を見ると、いつも真面目に勉強している前田が、ノートに般若や鬼の顔を落書きしていた。
・・うまい。父親の怒った顔なのか?
そう言えば、彼女は美術部に入っていた。
俺も仏像の絵は特別にうまい。
山寺の本堂にあった金剛力士像を、久しぶりにノートに書いてみた。
「うまいわね~」
家庭科の講師、芝山に見つかってしまった。
(目の前だからな…)
どれどれ…と言いながら、取り上げられてしまった。
授業が終わり、芝山講師は俺から取り上げたノートを前田に渡した。
「前田さんをいじめた罰です。返してほしければ、前田さんにお願いしなさい」
「先生! ありがとう!」
「お父様によろしくね!」
そう言えば、家庭科も前田理事の縄張りだった。
「石山くん、ありがとう!」
「えっ あげてないし…」
「これでチャラね!」
「チャラ? まぁいいけど…」
学校から商店街まで来て、俺はコンビニのATMでお金を下ろした。
蘭がデザートを見ながら
「そう言えば、出会いはこのコンビニだったね」
「そうだな~」
コンビニを出て『憩』に入って、いつもの席に座る。
「最初に座ったのも、この席だったし…」
今では注文を伝えなくても、コーヒーはオーダーされている。
政権が変わって約1年。
円高が解消され株価が上昇して、再び警戒心から株価は下がる。
それを繰り返しながらも上昇基調だ。
16000円を超えてきたので、どこまで行くか、期待されている。
こういう時こそ、利益確定で売っておく。
素人ほど尻尾の先まで食べようとして、失敗するものだ。
いつもオーナーに教わってばかりだったので、自分でも長栄学園について調べておいた。
この学園、元は私立女子校、お嬢様学校だった。
東京で起きた不幸な事故が発端で聞く事が多くなった『上級国民』。
そんな人達が学園にいるのかと思ったが、特別な待遇を受ける人を上級国民と呼んでいるだけで、そんな分類の人は存在しないと分かった。
だけど、昔の日本には華族と呼ばれた特権階級の人たちが実在していた。
それは、元公家の堂上華族と元大名の大名華族。
明治時代に作られた正式な身分制度だった。
これらの身分序列は、皇族、華族、士族、平民だったそうだが、戦争に破れてGHQの政策によって、華族制度は廃止された。
そういえば、公家って朝廷で働く官僚の事だったんだね。
だから、高い役職には高い身分が必要だと習った記憶がある。
公家時代の家格には序列の高い順に6つがあったそうだ。
1:摂家
2:清華家
3:大臣家
4:羽林家
5:名家
6:半家
一方の大名華族は、元藩主だったわけで、資産家が多かったらしい。
では、この長栄学園には?といえば、そんな事、インターネットで俺に調べられるわけもなく、華族制度の勉強にはなりましたが…。
学園には、中等部、高等部の校舎以外に、クラブハウス、剣道場、体育館、講堂など多くの建物があり、文化部の多くはクラブハウス棟に部屋を持っていた。
この学園は進学率も高く、授業時間の多さをアピールしているのだが、『部活動にも力を入れており』というPR文章も書かれている。
そして、そのPRを実現する手段が、文化部の顧問を外部の専門家に任せている事なのだろう。華道部、書道部、茶道部の各クラブでは、家元からの免状も発行されるらしい。
尚、自動車部では自動車教習所なみの学習と練習もできる。
もちろん、内燃機関やトランスミッションなど、構造の学習がメインのようだが。
これに関連して、製造業に進路を希望する者の選択科目にはCAD操作を学ぶ授業もある。




