第33話 ハモる
進級して、2年1組になった。
教室は3階になり、席は相変わらず窓際だ。
蘭は無事に1組になり、2列目の窓際。
つまり5位の席で、俺の斜め後ろ。
次の目標は2位になって、隣同士に並んで座る事だろうか…。
お昼休み、食堂には野村優香と清水が並んで席に座る姿が見えた。
蘭も気が付いたようだ。
「清水くん、女子の友達ができたみたいね」
「うん、でも初日だから、まだ友達とまでは言えないかも。じゃましないようにしないと…」
「そうだね」
午後の英語の授業になり、教室が移動になった。
100インチディスプレイが設置された教室を1階に作って、英語教室となっていた。
なるほど、高額な設備だから共有できるようにしたようだ。
2年生用のコンテンツも作られていた。
ま~ やり方さえ分かれば、誰でもできる。
重要なのはレジュメなのだから。
今日の授業が終わり、蘭と教室を出ると、うしろから声が掛かる。
「待ってくれよ~」
清水の声だ。
振り返ると野村さんの姿はなく、彼ひとりが走ってくる。
「一緒に帰ろう!」
蘭に小声で
「ガールフレンドの報告かな?」
「はは。かわいい」
俺と蘭の間に割り込んで来た。
仕方がないので、俺が後ろにさがる。
「ま~た2組だよ~」
「そんな話はいいから、野村さんの話をしろよ」
「なんで名前を知ってるの?」
先に反応したのは蘭だった。
「1組の断トツトップの男は斉藤くんで、彼の親戚だと本人から聞いたからね」
「そうなの…」
「清水、今日食堂で見たよ」
「そうそう、仲良く並んで食事してたでしょ?」
清水はつまらなそうな表情で
「あ~ あれか。彼女から声を掛けられて、一瞬喜んだけど、お前達ふたりの事ばかり聞かれたよ。俺には関心ないみたい」
「どういう事?」
「俺が聞きたいよ」
少し前の情報だけど、それを出しておこう。
「2組の前田純子の所に、3組の男女が来て、蘭に対する脅し文句を言って帰った事があっただろう?」
「ああ、あったな」
「あれと関係あるのかな?野村さんも3組だったんだろ?」
「…どうだろう…」
「そう言えば、前田純子は1組に入って来てたな」
「そうそう。わたしの真後ろだった」
「3列目、8位だな~ にらまれた?」
「だから、にらまれた事ないって…」
いつもの通り、駅とは反対方向に歩く俺たちの横に、車道の車が並んだと思ったら
「有本さん、送ってあげようか?」
山里のぎこちない笑顔が、車の窓越しに見えた。
「誰?」
キザオくんで通っている3位の山里を知らない蘭ではないはずだ。
蘭は腹を立てると、本当にきつい。
「そんな庶民のどこがいいのかな~」
そう言うと、スーと窓ガラスが上がっていって、車は走っていった。
「昔、2組に来てたけど、わたしが昼休み教室にいなかったら、来なくなったんだけどな~」
「えっ? そんなことがあったのか…言ってくれれば良かったのに…」
「ううん、あの頃あきらは理事長に呼ばれたり、忙しい頃だったから…」
「あ~ あの頃か~」
2年生になって、俺や蘭に部活の勧誘が来た。
「いや、部活って1年生まででしょ?勉強があるんだし…」
俺にはそんな余裕はない。これがお断りする定番のセリフだ。
中高一貫校にいると、高校受験という緊張感を失ってしまう。
清水は、以前に話をしたお役所勤めを真剣に考えているようだ。
小売業は今でも実店舗の経営が難しい。
金物屋さんから、徐々に鍵屋さんあたりにシフトしていく事を考えてはどうだろう。
鍵の紛失には、即応性と対応力、技術力がないと対処できないから。
俺の提案を、そのまま父親に言ったそうだ。
「お前な~ もっと自分なりに消化して、発展させてから言えよ」
思わず本音を言ってしまった。
そもそも社長にはVisionが、取締役にはPolicyが、執行役員にはGrand Strategyが求められる。
それを企業の将来像も大戦略も無しに『こんな仕事がしたい』などと…。
「そうか~ 俺ももっと勉強しなきゃな~」
この男、小学校の時は鈴本に引っ付いていた。
鈴本と同じ学校に行くと言い、同じ学習塾に行っていた。
だけど結局、自分だけ落ちて、今は俺と蘭に引っ付いてくる。
どうも自分自身の問題点が見えていないようだ。
俺はこれ以上、清水に干渉すべきじゃない。
彼が失敗した時、『お前のせいだ!』とか言われそう。
そういう意味では、俺自身の4-6月期の目標は何だろう?
蘭にも聞いてみた。
「取締役にはえらそうに言ったけど、俺たちの目標は?と思っちゃったよ」
「そうね~ 私が相手をした秘書役の彼女はMBAを目指してるから、結構具体的なところまで考えていたわね」
清水は俺たちの方を見ながら、聞き耳を立てていた。
「なにか質問は?」
「う~んとね、MBAってなに?」
「そこか!」
「そこか!」
俺と蘭はハモってしまった。




