第31話 英検2級
お読みいただき、ありがとうございます。
今日の投稿は、第34話まで投稿して終わりにします。
1月下旬
神田弁護士事務所から、リックトレードの業績が大幅に改善してきたと報告があった。
これまでの経緯をまとめると
前年4-6月期の決算は好調。(粉飾されていた)6月末にマックが逮捕により退任。
前年7-9月期で新取締役体制になり、コスト削減、在庫処分による損失額を計上。
前年10-12月期 資本を増強しブリスベン倉庫の機能を強化し、日本製品1つに集約。
今年1月初旬 ECサイトからの受注自動処理、及び、人員体制強化
そしてアルバイトの体制を強化したことにより、以下が実現した。
部長職3名:ECサイトからの受注自動処理、伝票自動発行
秘書職:MBA提案第1号:日本人留学生に対するサンプル品評価→口コミ営業
課長職:アルバイトからの昇格、サンプル営業、労働管理、売上に対する意識付け
神田さんからは、単純労働からの昇格、昇給によるモチベーションUPが大きいと評価された。
現在の調子なら期末には、売上1.5倍は達成できるだろうとの事だ。
神田さんは株主代行の立場から、従来通り月次報告を書面で受け取っているが、秘書役や部長職の人達との定期的なミーティングは、Skypeを使って、引き続きそちらで行ってほしいとの事。
この件は蘭にも伝えた。
1月末の誕生日が来た、13歳になった。
この日は水曜日。
商店街の喫茶店前で蘭と別れ、自宅で問題集を2時間勉強してから、喫茶店に行った。
ちょうど、蘭も戻る時間だからだ。
いつものようにオムレツを作ってくれて、デザートのショートケーキまで美味しく頂いたあと、蘭から衝撃発言が飛び出した。
「商店街になかで、タレントにならないかって勧誘されちゃった!」
俺もオーナーもめちゃめちゃ焦ったが、蘭からもらったパンフレットの事務所はKではなかった。
一段落ついたあと、早めに店を閉めて自宅に戻り、英二さんはK芸能事務所が暴力団のフロント企業である事、女子高生誘拐事件と関係がありそうな事などを説明した。
「うへ~ そんな事ってあるの?」
「ドラマみたいだけど、ある。蘭の話を聞いて心臓がどうにかなりそうになったよ」
「私もだ。気をつけてくれよ、蘭」
そんなこんなで、1月は終わった。
2月に入り、3組のクラスに昼休みに行ってみた。
最前列の女子に聞いてみる。
「成田政宗って子は、どこの席かな?」
「成田くんは1月から学園に来ていませんけど、どうかされましたか?」
「2組の有田さんのところに来てたんだけど…」
「あ~ そうらしいですね。 彼はルール破りの常習者でしたから…ご迷惑を掛けたなら申し訳ありません」
「えっ?どうして貴女が謝るの?」
「あっ、私はこのクラスの委員ですから…」
なるほど、最前列の入口側という事は、3組の3位という事だから、委員に指名されていても不思議ではない。
「本来、彼の成績ならこの学園には入れないはずですから、問題を起こしたなら、もう学園には戻って来ないでしょう」
俺が安心したような雰囲気を出してしまったのを感じて、今度は俺に関心を持ったみたいだ。
「え~と、2組のどちら様です?」
制服や体操着には名札はない
「いや、じゃまをしたね…」
3組の最前列、入口側に座る結構上品で知的な顔つきの女子。
なのに辛辣な口ぶり。
少し心が躍った。
隣の2組の後ろの扉から教室に入り、清水の背中を叩き
「オッス」
と声を掛け、最前列の蘭に笑顔で手をあげて、前の扉から教室を出た。
つまり、2組を通過しただけだが、その理由は先ほどの女子が付いて来ていると感じたからだ。
だけど、教室に入ってしまえばローカルルールで彼女は入って来られない。
心理的に、さっきの3組の女子に、おれが1組である事を隠したいと思った。
なぜか…自問自答は簡単に答えが出た。
俺には蘭がいるのに、心惹かれた女子…その浮気心に、その罪悪感に、俺の正体を隠さなければならないと思ったからだ。
『これ以上彼女に関わるのは危険だ!』と俺の警報が鳴っている。
最近の俺はどこかおかしい。
資産形成も頭打ち…
日本製品の流行はつかめているのか?
同じような内容の勉強ばかりで、目に見えた成果はないように思う。
これで実業家になれるのか?
そして、英二さんと行動した時の暴力の興奮が忘れられない。
こんな俺で大丈夫なのか?
不安と焦りが、じわじわと俺の心を占領している。
ふと思い出したのは、『PTSD』
いや、そこまでの事ではないだろう。
だけど、ストレスによる心的障害ではあるのだろう。
山寺が恋しいのが、その証拠だ。
学校から戻り、仏壇の前で『般若心経』を唱えた。
わずか262文字のお経。
なんか落ち着いてきた。
住職の健一さんは、『あるがままを観察する瞑想』とか言っていたが…
俺は般若心経を唱える事は出来ても、中身を全く知らない。
そこで、健一さんに『般若心経の事、少し勉強してみたい』と相談してみた。
1時間ほどすると、父から『家に来ないか?』と電話が入った。
健一さんから連絡が来て、悩みを聞くように、アドバイスがあったらしい。
継母の勧めでみんなといっしょに食事する事になった。
中央に置いた一緒盛りをみんなで共有する中華式なのか?
「父さん、取り箸をくれるかな?」
「あぁ、すまん」
継母はいい所のお嬢さんだと聞いていたのだが…
マナーというより、衛生的な問題だろう?
「最近、時々英語塾をサボっているらしいな」
「うん、悩んでるんだ。ビジネス英語とかに切り替える方がいいのか」
「そもそも、中学1年生なのに、オーストラリアの事業に株主として経営に参画している事が、あきらのバランスを崩している原因だろうな…」
言われてみれば、その通りだった。
確かに父のような官僚には向かないから、実業家になりたいと思っていたけど、これほど早くに取り組む事は想定外だった。
「ビジネス英語も事業関連の法律も、勉強したいという気持ちは分かるが、あきらが目指していた事業は、貿易だけなのか? 違うだろう。そう考えると、今、絞り込むのは早過ぎると思うぞ」
「そうかな…」
「長栄学園の高等部は難関校じゃない。だからと言って簡単じゃないんだ。」
「どういう事?」
「例えば、長栄学園の高等部に入ってくる生徒は、ボリュームゾーンと言って最も生徒数が多い。そして彼らは数学や英語を鍛えて入ってくるんだ」
「…だから今、英語ができると言っても、それは中等部の中だけの評価なんだ」
「つまり俺は『井の中の蛙』なの?」
「その通りだ。公平な実力評価がほしいなら、英検2級を取ってみろ」




