第30話 成田政宗
翌週、喫茶店に入ると、カウンターに徳永さんがいた。
「あきら、どんでもない大物が釣れそうだぞ…」
「ええ?」
「例の成田政宗という男だが、夏までは横浜に居てな~ 補導歴もある」
「なんと…」
「面白い事に、この父親も私立女子校の理事だ。偏差値は低く誰でも卒業できるという評判でな…ただし、金が有ればの話だがな。で、ある時から韓国の学校と提携して交換留学制度を採用した。 ここからこの学校の快進撃が始まったんだ…」
「ええ?まさか…」
「そのまさかさ。交換留学から帰って来たと思ったら、ダンスは上手になってるし、美人にもなってる」
「歌は大した事はないが、最近伸びてきたK芸能事務所に所属して、一気にグラビアやTVの深夜放送にも出るようになる」
「ただし、このK芸能事務所は、○○組のフロント企業のようだ」
「ここからはまだ不明だが、この成田政宗を剣道部に引き抜いて編入させたのが前田理事だ。だが、その目的がはっきりとせん。この前田理事という奴、どうも尻尾をつかませない用心深さがあってな~これ以上はまだだ」
「だが重要なのは、正式な交換留学生でない者も韓国に送り込んで、整形をさせてからK芸能事務所に所属させている女子生徒の存在だ。枕営業をさせているという噂がある…」
「それって、最悪、拉致って送り込んでるって事じゃないんですか?」
「そう、それだよ。成田政宗が補導されたのは、女子生徒の誘拐未遂現場に居たからだ。彼は女子生徒の連れ出し役だと、俺たちはにらんでいるんだがね…」
「こ、これはまずい」
「徳永、成田政宗の所在をつかんでおいてくれ」
「わかった…」
「さて、成田がやくざの準構成員だと分かった。だからと言って、海に沈める訳にはいかん。それにおそらく、地元のチンピラ暴走族とつるんでいると言う話だ」
「どうする気ですか?」
「普通、よくあるケースとしては、暴走族同士の争い、暴力事件だな。こういう事件で再起不能もしくは、それに準ずる怪我を負う事は多いし、場合によっては死ぬ場合もある」
「再起不能って…」
「ちょうど俺たちも暴走族の気持ちを理解したいと思っていたんだ…そして君は私のバイクの後部席で木刀を振り回すやんちゃ者の役だ」
「えっ、どうして俺が…」
「見てたんだよ!偶然」
「な、なにを……」
「3年前のあの日、徳永の家の玄関前で話をしていて、学校の塀沿いを歩いていた小学生がいきなり襲ってきた上級生を、あっという間に撃退してしまった。驚いたよ正直。警察で剣道をやって来た私達でさえ、あんな動きはできない」
「……」
「合気道道場に通っているが、剣道は習っていない。それなのに恐ろしく強い! いや、別に秘密くらい有っても構わんよ。仲間だからな」
「とにかく、蘭のためだ。後々何かあったら後悔するからな…。私からも頼む」
まさか、頭を下げられてしまった…。
「は~ 分かりました。でも、木刀なんて持ってませんけど…」
「うむ。それはこちらで用意する」
そして次の週の土曜日に決行になった。
タクシーで英二さんと一緒に整備工場に到着した。
大きな倉庫に、きれいに整備されたバイクが5台。
とても暴走族には見えそうにない。
そこに居た9名全員がフルフェイスを被り、顔は見えない。
俺もヘルメットをもらい、シート後部に座ると木刀を渡された。
でも後部座席のメンバーは、比較的若い者達である事は雰囲気でわかる。
無線が入った。
スピーカーからの声が倉庫に響き渡る。
恐らくは徳永さんの声だろう。
「今、奴らは○○寺の駐車場から海の公園方面に向かった」
「よし、出発!」
予め待機場所は決まっていて、到着後はエンジンを切り、静かに待った。
しばらくすると爆音が聞こえて来た。
「もうすぐここを通るぞ、花火の用意だ!」
エンジンを掛け、後部席の4人が手に持った花火に点火した。
「来たぞ! 花火をぶっ放せ!」
打ち上げ花火を通過するその集団に横から打ち込む。
「ごらあ!」
「よし、Uターンしてる間に叩くぞ!」
骨伝導イヤホンから英二さんの指示が来る。
先行する3台も木刀でバイクを蹴散らす。
ヘルメットを叩かれる者。
太ももを叩かれる者。
いずれもバイクから転げ落ちる。
そして、俺たちに並走する1台は電撃付きの警棒を使っていた!
「ぐあ~」
開いた進路を進む英二さん。
「あいつだ!やれ!あきら!」
当てるのとは異なる、骨を絶つ一撃を見舞う。
『ゴキッ!』
成田の手首と肘の間、腕橈骨を断ち、我々は東京方面に逃げた。
大きな整備工場に戻って来た。
バイクを工場内部に停めて、木刀やヘルメットを返却し、マイクやイヤホンなどの最新の通信機器をもう一人に手渡す。
そして整備工場の寮にみんなで入っていく。
先頭を歩く集団は、みんな年配の人で、英二さんの仲間らしい。
「まずは風呂だ!ケンジ!」
「了解!」
そのまま、通路を進むと電灯のスイッチが入った。
食堂だ!
テーブル中央にガスコンロが置いてあり、すでに食材以外の準備がされていた。
カウンターの中には、ステンレス製の業務用冷蔵庫があり、その中から食材の入ったトレイを取り出している。
「あきら、運ぶのを手伝ってくれ!」
「はい!」
小走りにカウンター内に回り込み、俺は瓶ビールとコップを運んだ。
風呂場に行ってた青年が戻ったところで、ビールの栓を開けてコップに注ぐ。
俺には懐かしの瓶コーラだった。
既に、ガスコンロの上の鉄板には、肉や野菜が乗せられて、調理が開始されている。
「それでは、お疲れさまでした。かんぱーい!」
自己紹介などは一切なく、にこやかに、焼肉のたれを回し、お皿に焼けたものを乗せて配っていく。
「あきら、何も聞くな。それがここのルールだ。いいな」
「はい」
みんな2人組の子弟ペアのように見える。
その日は、食事後にみんなで大きな風呂に入ってから、英二さんと一緒にタクシーで帰った。




