第29話 前田理事長
学校がはじまった。
3学期になって、蘭は再び1列目の、それも中央の席になった。
周囲も分かっているが、それは2組の女子で1位になった事を意味していた。
英語の授業で使われた教材に蘭の声が使われていた事は、ネイティブスピーカーであるため、それほど驚きはなかったのだが、さすがに総合点でトップになるとは、予想されていなかった事らしい。
『予想外』という感想を持ったのは清水くんだけではないだろう。
なぜなら、このクラスには秀才と言われるメガネ女子がいたからだ。
宗教法人側の筆頭理事、前田純雄氏の娘、前田純子である。
(養女ではないか?という噂もある)
だが、彼女が秀才と呼ばれているのは、一種の皮肉も含まれていた。
何事にも一生懸命に取り組むその姿勢は立派なのだが、その内向的な性格が災いしていた。
体育の授業でダンスを踊る際にも、なかなか踊り出せない性格で周囲を困らせていたし、テストは実力問題も含めて良く出来ているのだが、特に秀でた科目がない。
一方、父親の前田理事は、前学園(女子校)の時から文化部と運動部を指揮してきた派閥の実力者であり、中等部の講師陣に多くの部下がいる事から、忖度があるという噂もある。
今回、退職を余儀なくされた3人の講師も、前田理事の部下であった。
前田純子は、それまでずっと最前列中央を維持していたのが、今回初めて窓際の席になり、困惑した表情で蘭を見ていた、と清水は言うが
「色眼鏡で見るからそういう風に見えるだけよ。彼女はとてもおとなしい人だもの」
と、蘭は相手にしないようだ。
「ま、蘭がそう言うなら、そうなんだろうね…」
1月半ばになったころ、2組に騒ぎが起きた。
この学園には、おかしなローカルルールがある。
それは上位クラスから下位クラスに訪問するのはOKだが、逆はマナー違反というもの。
そのルールが破られた。
3組の男女が、お昼休みに前田純子の席にやって来て、なにやら物騒な事を相談していたというのだ。
清水がクラスメイトから聞いた情報では、『やっちまえ』とか『ぼこぼこにしてやる』とかの言葉が聞こえたらしい。
そして次の日の昼休み。
蘭が教室に戻った所を待ち構えていたかのように、3組のイケメン男子、成田政宗が蘭の席にやって来た。
「有本さん、3組の奴らが有本さんを脅しに来たと聞いたんだけど、大丈夫だった?」
「えっ?そうなの? わたしは居なかったから…ところで、あなたは誰?」
「ええ~ 僕を知らないのかい? 剣道部の若きエースと言われる成田君だよ!」
「ご、ごめん。知らなかったわ…」
「でも大丈夫だ! 僕が君を守ってあげるから。何かあったら言って!」
「え、ええ。ありがとう、でも大丈夫です。清水くんも居るから…」
「しみず…だれ、それ」
「俺だけど…」
「とにかく、有本さん、僕が守るから! じゃ、また!」
そんな騒動のあらましを聞いたのだが…
そもそも、本当に襲撃を計画しているなら、わざわざルールを破って2組で打ち合わせしないだろうし、聞こえるような大きさの声で言わないだろう。
つまり、脅しの芝居を見せに来たのだ。
そこへ今度は正義の味方が登場ってか…。
「まるで子供が考えたようなお芝居だな~、石山くんはどう思う?」
「ん~ 成田とかいう脳筋が考えたんだろうな…」
清水と意見が一致した。
「目的はなんだろう?」
「ベタな推理だけど、成田が蘭と付き合いたい?」
「は?清水くん、何言ってるの?」
「いやいや、そうとしか考えられないだろう? なあ石山…」
「ん~~」
何か言おうとしたけど、蘭が俺をにらんでいたから、言わないでいた。
いつものように、商店街で清水と別れて、今日は喫茶店へ行く。
「あれ? 今日はわたし塾へ行くから、付き合えないわよ?」
「今日はいいんだ。オーナーに少し相談があってね」
「そう…それじゃ~またね」
喫茶店に入ってカウンターに座り、オーナーに
「少し相談があるんですけど…」
「なにかな…」
「実は…」
最近あった蘭をめぐる出来事について話しをして、1年3組の成田政宗が剣道部で確かに実力があるため、前田理事と関係があるなら警戒が必要ではないか、どう思うか、などを相談した。
(見守りカメラに蘭が映ってる…)
「あきらくん、どこを見てるんですか!」
(英二さんがタブレットを見えない角度に調整してしまった)
「成田ね…調べておくに越したことはないですね…」
その週も、蘭と俺は一緒に帰ったのだが、何気に学園からずっと尾行されている気配を感じた。
「なぁ、以前に助けてもらったミシンの部品屋のおじさんに、会いに行かない?」
「えっ、あのおじさんに?」
「あぁ、祖母がみやげに持って帰った饅頭を持ってきたんだけど…」
(本当はオーナーに、という話だったのだが…)
「お礼か~ いいね、行こう!」
という事で、いつもの道から川沿いに1本それて、お店のガラス戸を引いた。
『ガラガラ』
「こんにちは!」
「おぉ、あの時の…」
「これ、お土産です」
「え? どうしたんだね…」
「実は、誰かにつけられているみたいなんです、今も…。俺たちが帰ったら、どんな奴が尾行してるのか、見てほしいんです」
「ほ~ 懲りない連中だな…」
「面倒なお願いで申し訳ないんですけど…」
「分かった。まかせろ!」
本当に、どんな奴なのか確認したかったのだが、おじさん、つけてきた奴を逆に尾行して、ばれて、逃げられたらしい。
結局、学園の制服を着た男だったと分かった。




